台湾総統選、米中覇権の「代理戦争」 11日投開票

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2020/1/10 5:00
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【台北=伊原健作】台湾の総統選が11日、投開票される。選挙戦は対中強硬路線の与党・民主進歩党(民進党)現職の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統(63)が親中の立場の野党候補をリードしているもようだ。香港の政情混乱を受け、中国への警戒感が台頭したのが追い風だ。台湾は東アジアの安全保障の要衝。総統選は対立を深める米中の「代理戦争」でもある。

4年に1度行われる総統選は、蔡氏と対中融和路線の最大野党・国民党の韓国瑜(ハン・グオユー)高雄市長(62)、親民党の宋楚瑜(ソン・チューユー)主席(77)の3人が出馬した。事実上、二大政党候補の蔡氏と韓氏による一騎打ちとなっている。新総統は5月に就任する。任期は4年。

「中国の圧力は山を砕く巨大な波のようだが、私は持ちこたえる」。蔡氏は6日から台湾全土を回り、対中強硬路線を鮮明にして投票を訴える。9日朝には選挙カーに乗り込んで北部・新竹の街を回り、「選挙まで2日間、台湾を守るため一票でも多くの票を集めてほしい」と支持者らに呼びかけた。

■「中国との統一」を容認する世論は後退

台湾では、香港と同じ高度な自治を認める「一国二制度」を用いた台湾統一を目指す中国への反発が強くなっている。

台湾の対中政策を所管する大陸委員会の昨年10月の世論調査では、中台関係の「現状維持」を望む意見が主流だ。「現状維持の後に統一」や「即座に統一」といった統一を容認する項目は計10.3%と、約1年間で8.8ポイントも低下した。

国民党の韓氏は台北の青果市場の元経営者。エリートが多い国民党では異色の存在だ。「庶民総統」を名乗り、低所得問題や経済格差などへの不満に訴えかける戦略で蔡氏の追い上げを図っている。

9日夜には台北の総統府前で集会を開き、「蔡政権を引きずり降ろさなければ庶民生活はさらに悲惨になる」と主張した。

国民党の曽永権秘書長(幹事長)は「選挙戦で出遅れたのは確かだが、蔡政権の強権への不満から巻き返している」と強調する。

■米中は台湾めぐり綱引き演じる

今回の総統選は米中の覇権争いに影響する重みを持つ。

台湾は中国の海洋進出の出入り口に位置する。東アジア安保における中国の影響力拡大を警戒する米国は日本やオーストラリアなどと連携を深める「インド太平洋戦略」を推進し、親米的な蔡政権下の台湾を「信頼できるパートナー」と位置づける。昨年には台湾へのF16戦闘機や戦車など重要な武器の売却を相次ぎ表明し、台湾寄りの姿勢を強める。

中国にとっては台湾に親中政権を樹立できれば、悲願である統一を引き寄せるだけでなく、米国の介入を防ぐ体制づくりにもつながる。

中国の圧力を背景に蔡政権は16年の発足から、アフリカや太平洋の島しょ国など7カ国との外交関係を失った。昨年8月には中国は台湾への個人旅行を禁止し、経済でも締め付けを強化。台湾をめぐり米中が綱引きする構図が鮮明になった。

過去の総統選では経済問題も焦点だった。今回は米中貿易摩擦で中国生産のリスクが高まり、世界でIT(情報技術)の機器生産を担う台湾企業が地元へと拠点を戻す動きが加速し、台湾経済は底堅い。過去の選挙戦で国民党を支援してきた産業界も、今回は最後まで存在感が薄かった。

■接戦の議会選、民進党の過半数維持が焦点

一方、総統選と同時に実施される立法委員(国会議員に相当、定数113)選挙は二大政党による接戦になっている。民進党は16年の前回選挙で68議席を獲得し、初めて過半数(57議席)を握った。ただ今回は地域組織の地力で勝る国民党の巻き返しで過半数割れの危機に直面する。

民進党は2000~08年の陳水扁政権時代は少数与党で、予算など重要な法案を議会で通せず苦境に陥った。蔡政権は19年末に成立した「反浸透法」をはじめ、中国による政治・社会への介入を防ぐ法整備を進めてきたが、過半数を失えば親中的な野党側から、こうした法律の修正・廃止などの動きが出る可能性がある。

民進党の羅文嘉・秘書長(幹事長)は「54議席は最低でも確保できそうだが、なお10以上の選挙区が五分五分だ」と話す。過半数に乗せるにはもう一押しが必要な情勢だ。

国民・民進の二大政党がともに過半数に届かず、第三極が議会運営で存在感を高める展開もあり得る。

二大政党の権力闘争を嫌気する中間層の支持を集める柯文哲・台北市長(60)が立ち上げた新党「台湾民衆党」が注目を集め、議席を伸ばす可能性がある。

また独立志向の強い若者で作る小政党「時代力量」は、民進党から若者票の一部を吸収する可能性がある。中国とのサービス貿易協定発効に抗議し、立法院(国会に相当)を占拠した14年の「ヒマワリ学生運動」を源流とし、香港での抗議活動に身を投じる若者との連帯を打ち出している。

米中覇権争いの狭間(はざま)に置かれる台湾の進む道は、総統選のみならず立法委員選挙の結果にも左右される。


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