めざせ福男 兵庫・西宮神社、勝負の舞台は難所の連続
とことん調査隊

どんなコースを走るのだろう――。今年も10日に開かれる西宮神社(兵庫県西宮市)の「福男選び」。鬼気迫る形相で疾走する男たち、続出する転倒者、神主に飛びついてゴールする福男。そんな情景をニュースで見るたび、彼らの勝負の舞台が気になっていた。コースや当日の流れを熟知しておけば、令和最初の福男になれるかも?
阪神西宮駅から徒歩5分。冬の青空の下、表大門(赤門)の赤色が映える。全国のえびす神社の総本社であり、西宮のえべっさんとして親しまれる。行事の正式な名称は「開門神事福男選び」。10日午前6時に赤門が開き、ゴールの本殿へと参加者が駆け出す。その距離、約200メートル。
近年の参加者は5千人を超える。受付が始まるのは9日午後10時だが、夕方には行列ができる。禰宜(ねぎ)の千鳥祐兼さんに聞くと「(福男になるには)Aブロック108人に入っておく必要があります」。
先着1500人がくじを引き、当選者108人が赤門前で12人ずつ9列で開門を待つ。このAブロックに入る確率はわずか7.2パーセント。まずは強運が必要だ。その後ろに150人のBブロック、それ以外の大勢が道路沿いに待機する。福男が決まった瞬間、実は大部分の参加者は赤門にもたどり着いていない。
「コースにはいくつも難所があります。事前に知っておくと有利です」と話すのは福男選びの運営組織代表、平尾亮さん。1997、98年と2回連続で二番福に輝いた実績を持ち、現在はスタート時に「かいもーん」と号令する役割も担う。常連の参加者の間で「ミスター福男」と称されるレジェンド的存在だ。
ではコースを眺めよう。赤門から斜めに伸びる直線は約50メートル。路面はコンクリート舗装で滑りにくそう。続く右カーブはおよそ135度。転倒者が相次ぐ最初の難所だ。「天秤(てんびん)カーブといいます。えべっさんが参加者を天秤で選別するのです」と平尾さん。全力疾走は難しいが「インコースをショートカット気味に疾走するのが常道です」。
続く約100メートルの直線が「福男道」。こうした名称はいずれも平尾さんが名付け、定着した。石畳なので滑りやすい。走力の差も出る。次のカーブは約120度で左へ。本殿が目に飛び込んでくる。ここでも多数が転倒する。ゴール直前で行く手を阻む一本の木は「審判の楠(くすのき)」。斜めに生えていて、まるでコースを遮るかのよう。「楠の左側を走ること。右だと最後のカーブが曲がり切れません」
いよいよコースもラスト。本殿へと100度ほどのカーブを描く「魔物の角」。石段に敷かれた木製のスロープ「えびす坂」。本殿奥で待ち構える神主3人のいずれかに抱きついた順に一番福、二番福、三番福の栄誉を受ける。勝負は最後までわからない。実は平尾さんもぶっちぎりで先頭を走っていた99年、魔物の角であえなく転倒した。
「競争ではなく、あくまで神事です。福男の歴史もぜひ知ってください」。権宮司の吉井良英さんが言う。始まりは1905年に阪神西宮駅が開業し、遠方からも参拝客を集めるようになって以降。「10年代には一番乗りを特別視する風習ができました」
福男に賞品が授与されるのは40年から。開門前の待機者は数十人程度のことも多く、人数が急増したのは90年代後半だ。開門前の場所取りなどの不正があり、2005年にくじ引きが導入された。
福男というがもちろん女性の参加者も多い。安全上の理由でくじは引けないが車椅子やベビーカーも参加できる。「残り物ですが」と吉井さんが手渡してくれたのは「平成三十一年」の「参拝之証」。毎回5千人に配られる。残り物には福がある。今年がいい年になるよう、ゆったりとした気持ちで参加するのもいいだろう。(田村広済)

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