未完のレース

フォローする

室伏由佳さん、投てき「鉄人一家」に生まれた苦悩
陸上投てき 室伏由佳(1)

(1/2ページ)
2020/1/8 5:30
保存
共有
印刷
その他

「いつも『娘』や『妹』という属性で語られた」と話す室伏由佳(2019年12月、都内のホテルで)

「いつも『娘』や『妹』という属性で語られた」と話す室伏由佳(2019年12月、都内のホテルで)

陸上競技で円盤投げとハンマー投げの投てき2種目を専門にする選手は世界でも珍しい。室伏由佳(42)は極めて難しいキャリアに挑み続け両種目で日本記録を樹立した選手だ。ハンマー投げで「アジアの鉄人」と呼ばれた父、重信(74)、五輪金メダリストの兄、広治(45)に隠れがちだが、2004年アテネ五輪に出場した実績を持つ。ただ競技生活はケガや病気との闘いでもあった。2度目の五輪出場は果たせず、12年に引退。現在は順天堂大学で講師を務める。五輪を経験したアスリートの引退後をたどる「未完のレース」を、スポーツライターの増島みどりが連載する。

◇   ◇   ◇

レストランは、新年を迎える高揚感に包まれ、人びとの楽しそうな声でにぎわっていた。

外国企業が多い場所柄、様々な言語が飛び交う店の一番奥の席で、室伏由佳はすっと伸ばした背中を少しだけ反転させ、「見逃さない」とばかりに、入り口を見つめている。こんな待ち合わせひとつにも、昔と変わらない真面目な性格が映し出されるのだろう。店員の案内よりずっと早く、「ここです!」と立ち上がり、笑顔で手を振った。

「おっしゃっていた昔の資料や切り抜き、段ボールをひっくり返して探してきたんですが、これで足りますか?」

そう言って変色した新聞のスクラップ、きちんと時代別に整理されたノートを広げる。資料も整理し、きちんと保管する。これも昔から変わらない彼女の几帳面(きちょうめん)なところだ。

新聞のスクラップを前にインタビューを受ける由佳

新聞のスクラップを前にインタビューを受ける由佳

「まずは、これ……お口に合うか分かりませんが、とっても珍しい焙煎をするコーヒーなんですって」と、沖縄出張の土産を袋から取り出す。お菓子作りはプロ並みの腕前で、いつものように健康にも配慮した焼き菓子を丁寧にラッピングして手渡された。父・重信(中京大名誉教授)も、2020東京五輪組織委員会でスポーツディレクターを務める兄・広治も、由佳が焼くシフォンケーキが大好物なのだという。

重信の1972年のミュンヘン五輪出場以来、8度のオリンピック(80年モスクワは不参加)にハンマー投げで挑んできた「鉄の一家」が、そろってふわふわのシフォンケーキをほお張る。何ともほほ笑ましいシーンを思い浮かべる。

室伏ファミリーの一員ならば、競技に何の苦労もなかっただろう。そう思われてしまう。しかし由佳は現役時代、父や兄、また女子トップアスリートたちとも異なる稀有(けう)なキャリアを積んできた。

■ケガ、病気に次々見舞われる

本来ならばトップ選手としてもっとも充実し、キャリアに輝きを増してくれるはずの五輪を境に、むしろ体力を削り取られるようにケガ、病気に次々と見舞われ闘病と競技生活を両立させてきたからだ。腰、肩、婦人科系の病。まるで五輪出場の代償かのように、次々とフィジカルでの問題が立ちはだかる。女子トップアスリートへのサポート態勢が必ずしも整っていなかった時代、自分自身を実験台として捉え、果敢に乗り越えた部分もあったはずだ。

2004年、女子ハンマー投げでアテネ五輪出場を果たした後、歩くのも難しいほどの急性・慢性の腰痛症に襲われ、苦しんだ。何より辛かったのは激痛よりも、痛みの原因がどんな検査をしても判明しなかった点だった。「痛みさえなくなれば記録はまだ伸びるはず」と、わずかな望みにかけてトレーンングを続けたが改善しない。引退する前年の11年に、ようやく最新の画像検査によって「脊柱管狭窄(きょうさく)症」と判明するまで、原因不明の腰痛と闘い続けなければならなかった。

  • 1
  • 2
  • 次へ
保存
共有
印刷
その他

関連コラム

電子版トップスポーツトップ

未完のレース 一覧

フォローする
「オリンピックは心の中で終わらない。神聖なもの」と話す室伏由佳さん(2019年12月、都内のホテルで)


 2004年アテネ五輪に出場した室伏由佳さん(42)は、その後も円盤投げとハンマー投げの投てき2種目で活躍した。合わせて日本選手権17回優勝という成績は、「アジアの鉄人」と呼ばれた父、重信(74)、五 …続き (2/5)

アテネ五輪で室伏由佳は「何があっても努力を続けよう、と誓った」が…(2019年12月、都内のホテルで)


 中京大学4年生のシーズン終了後、室伏由佳(42)はハンマー投げに挑むことを決意する。指導する父、重信(74)は技術だけでなく精神面でも娘を支えた。そして本格的に練習を始めてからわずか5年で2004年 …続き (1/29)

「父との会話で、アスリートとしての姿勢が分かった」と話す室伏由佳(2019年12月、都内のホテルで)


 室伏由佳(42)は中京大学時代、円盤投げで日本ジュニア記録を樹立し、日本インカレで優勝するなど実績を重ねた一方、自己ベストが更新できず伸び悩んだ。同じ大学で指導する、「アジアの鉄人」と呼ばれた父、重 …続き (1/22)

ハイライト・スポーツ

[PR]