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「経済拡大と分配の両立を」米投資家レイ・ダリオ氏

「アメリカンドリーム」を実現した富豪が資本主義の危機を訴え始めた。1600億ドル(約17兆円)を運用する世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエーツ創業者で、著名投資家のレイ・ダリオ氏がその一人だ。資本主義の体現者ともいえるダリオ氏に現代社会の抱える問題と解決策について聞いた。

 レイ・ダリオ氏(Ray Dalio) ロングアイランド大学、ハーバード・ビジネス・スクール卒業。12歳で株式投資を独学で始める。75年にスタートしたブリッジウォーターを約40年かけて世界最大のファンドに育てた。リーマン危機を事前に予測したことでも有名。コネティカット州在住。70歳。

「世界二極化、1930年代と似る」

――いま世界の資本主義の形が大きく変貌しているようにみえます。どのような力が働いているのでしょうか。

「1930年代以来みられなかった3つの大きな力が現在、資本主義に影響を与えている。第1が富の格差だ。富の偏在がポピュリズム(大衆迎合主義)を生み、資本主義者と社会主義者の分断にもつながった」

「第2に金融政策の効力の低下だ。景気刺激のために紙幣を刷ることは資産価値を押し上げても、経済の末端まで浸透する景気浮揚にはつながらない。金利がゼロ%、あるいはマイナスになっても社会全体を活性化できていない」

「3つ目は世界における既存の秩序に対抗する新たな勢力の台頭だ。米国の覇権に、中国が対抗しようと勢力を拡大しているのがその例だ。(世界の政治が二極化した)1930年代とよく似ている。3つの力が互いに作用し合って、資本主義の形に影響を及ぼしている」

――米国では富の格差が社会問題になっています。なぜ格差は広がったのでしょうか。

「まずテクノロジーの発展によるところが大きい。資本主義は収益を出すことが目的であり、人の代わりにテクノロジーを使うことが優位になりつつある。次に企業は収益改善のために世界のどこにでも行くようになった。中銀による金融資産の購入で、資産家だけが恩恵を受けてもいる」

「経済成長が社会全体に及ぶようになっていないため、今の資本主義は国民の大半が不公平と感じるシステムになった。米国では所得が上位40%の国民が費やす子供の教育費は、残りの60%がかける教育費の5倍にのぼるという統計がある。機会の平等が実現できなければ革命が起きるだろう」

「公教育、地域や企業と一丸で」

――理想の資本主義を教えてください。

「パイの大きさを拡大すると同時に、富を適切に配分できる生産性の高いシステムだ。言い換えると3つの段階に分けられる。まず国民に平等な機会を与える。次に経済的な繁栄を一部の人だけではなく、すべての人に行き渡らせる。最終的に全体のパイが拡大し、分配も増える」

――理想の資本主義を実現するにはどうすればいいですか。

「私の財団とコネティカット州、地元企業が組み、それぞれ1億ドルずつ拠出して教育機会に恵まれない子供の公教育を支援するプログラムを立ち上げた。こうした政治家と地域住民、企業などが共同で作業する委員会が広がり、一丸となって対策を講じていく必要があると思っている」

記者はこう見る「希望は民間の行動に」 伴百江


 著名投資家レイ・ダリオ氏は「非常事態宣言」という強い言葉で、資本主義の未来に危機感を表明した。政治のリーダーシップが期待できない時代だからこそ、産業・金融界のトップたちが果たすべき役割は大きい。
 ダリオ氏はマクロ経済分析に基づいた運用で、2008年のリーマン危機を乗り切り、世界最大のヘッジファンド運用者に登り詰めた。過去のポピュリズム(大衆迎合主義)を調べるなかで、1930年代後半と現代に多くの類似点があることに気づいたという。
 当時は富の格差が、共産主義とファシズムという政治体制の2極化につながり、双方でポピュリズムを生んだ。民主主義に根ざした資本主義は衰退した。列強国に挑戦する新興勢力が台頭し、第2次大戦が勃発した。現在の左派・右派の対立激化、米国覇権に挑戦する中国と重なる。ダリオ氏の「非常事態宣言」が大げさに聞こえなくなる。
 トランプ米政権の減税策は株高を支えたが、恩恵は金融資産を持つ者に偏る。格差拡大の理由を中国の台頭に求め、貿易戦争を仕掛けている。一方、一部の民主党議員と支持者は資本主義に懐疑的になり、富裕層増税を財源とした再分配策ばかりを強調する。双方ともバランスを欠いていると言わざるをえない。
 超党派による問題解決は現時点で望み薄だ。民主党と共和党の「かけ橋」になる両党の中道派は存在感が低下しており、妥協点を見いだそうとする機運に乏しい。こうした状況が続けば、富の格差の拡大を止められず、資本主義は衰退の道を歩むことになる。
 ダリオ氏の財団は地元コネティカット州と組み、教育機会に恵まれない子供を支援する組織を発足させた。中流階級の家に生まれた同氏は「アメリカン・ドリーム」の成就は質の高い公教育のおかげと確信しているからだ。連邦政府と議会が機能不全に陥るなか、企業や投資家には社会的な課題を解決するための行動が期待されている。具体的な成功事例が積み上がれば政府を動かす力になりうる。

「逆境の資本主義」 1月1日連載スタート

日本経済新聞は1月1日、連載企画「逆境の資本主義」を始めます。資本主義の歴史を振り返りつつ、その未来を考えます。様々な課題に直面する資本主義の処方箋を探るべく、取材班は世界各地に足を運びました。専門家へのインタビューや豊富なデータ、現場の映像を交えて、資本主義の行方を探っていきます。

▼連載開始に先行してインタビュー記事を公開しています。

洗練された「知」の経済へ グリーンスパンFRB元議長

「貨幣が基礎、倫理と公共性必要」岩井克人氏

「金融危機からの回復、注目すべき」ファーガソン氏

「データが新たな資本に」野口悠紀雄氏

「環境、『タダ乗り』防止へ市場活用を」伊藤隆敏氏

「AI時代、組織で知識生む仕組みを」松原隆一郎氏

「年齢にこだわらない教育が必要」小峰隆夫氏

「会社、個人ベースの組織に転換を」アメージャン氏

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