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「民主主義の力で適切に管理」スンドララジャン氏

中国がなし遂げてきた高い経済成長は、民主主義が資本主義に不可欠という見方に疑問を投げかける。ニューヨーク大学経営大学院のアルン・スンドララジャン教授は資本主義を適切に管理するには民主主義の力が必要だと説く。格差是正に向けて、株式保有の裾野を広げてイノベーションの果実を行き渡らせる仕組みを提案する。

 アルン・スンドララジャン氏(Arun Sundararajan) インド工科大学卒業後に渡米し、ロチェスター大学で博士号を取得。デジタル経済、特にシェア経済を研究。著書に「シェアリングエコノミー」。

「大勢が株式保有すれば資本集中防げる」

――資本主義が生み出す課題をどう見ますか。

「格差の拡大が最大の課題の一つだ。今日の経済は複雑でイノベーションが絶え間なく起きているのに、資本主義システムがその水準まで磨かれていない。大勢の人が企業の株式を保有できるようになれば資本の集中を防ぐことができる」

「100年前の『資本』は工場建設や土地購入のお金を意味していたが、今は知識や知的財産などの無形資産に概念が変わった。だがデジタル経済は資本主義社会の根本的な原理から遠のいた。個人が生み出すデータはその人が所有するというより、自然とプラットフォーマーと共同所有するような状態だ。価値を生み出す人々が株式を持ってリターンを得られるようになれば、人々は自身の才能や労働で恩恵を受け格差是正につながる」

――イノベーションにはどう影響しますか。

「社会の公益になるイノベーションが促進されるはずだ。もしデータに所有権が導入されれば、データを利用する企業にとってはコストが生じるのだから利用の狙いを賢く決めないといけなくなる」

「消費者は『広告のイノベーションに使われるのは反対だが、医療や環境保全のイノベーションなら使ってほしい』と新しい公共サービスへの要望を言うようになるだろう。この20年はデジタル広告の精度を上げるイノベーションに巨額の投資がされたが、(株式やデータ保有は)我々が欲しいイノベーションは何なのか考える契機になる」

「教育や医療、企業・団体で効率運営も」

――民主主義は資本主義にどう作用しますか。

「この30年で中国など民主主義がなくても資本主義の原理を取り入れた経済システムが機能すると示された。資本主義と民主主義は共存する必要はない。一定の経済的自由が資本主義には必要だが、同水準の政治的自由はなくても成立する」

「だが民主主義体制での資本主義の方が社会によりよい産物をもたらす。資本主義は何らかの管理が必要で、民主主義があれば政府は資本主義を適切に管理できるようになるからだ。民主主義の発展で平等への志向が生まれ、万人に最低限のリターンを保障しようとする動きが働きやすくなる」

――政府の役割をどう考えますか。

「政府の役割は公共財を作り出すことだが、必ずしも政府自らがサービスを提供する必要はない。軍事や警察は政府が直接提供すべきだ。教育や医療にも政府は資金を提供するかもしれないが、より効果的に運営する企業や団体に責任を持たせた方がいい。だが市場に任せただけでは全員が享受できなくなる可能性がある。政府は税制などを使って社会が得る産物を行き渡らせることに集中すべきだ」

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 民主主義が資本主義のひずみを是正しやすくなるというスンドララジャン氏の考えからは、双方の社会システムが持ちつ持たれつの関係である様子が伝わる。自由や多様性といった共通の価値観を持つ一方、時には民主主義ならではの平等という価値で資本主義の行き過ぎを修正し、均衡を保っているようだ。
 スンドララジャン氏は、株式を付与したり、データに所有権を導入したりして、IT(情報技術)企業が現代の「資本」を生み出す市井の人々に適切に還元すべきだと強く主張する。
 年内の上場を目指す米民泊仲介エアビーアンドビーは、未上場でも宿泊サービスの提供者に自社株式を渡せるように米証券取引委員会(SEC)に規則変更を要望している。「こうした企業には税制優遇をすべきだ」とスンドララジャン氏は提案する。
 この取り組みは対価と引き換えに自分の所有物を渡すという資本主義の原理と、恩恵の裾野を広げるという民主主義の根幹を兼ね備えているように思える。富と所得格差を縮め、特定の層だけでなく公に利益をもたらすイノベーションに企業の目を向けやすくするのであれば、デジタル経済がもたらす大きな産物となるかもしれない。
 スンドララジャン氏は一方で、プラットフォーム社会はすでに娯楽や移動などの分野では大きな格差是正を果たしたとも指摘する。資本主義と民主主義の重なり合いを増やせば、人間の生活の質をさらに高めていけそうだ。

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