ベネズエラ現政権 存続の理由(The Economist)

2019/12/31 0:00
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The Economist

ベネズエラの首都カラカスの街を見下ろす高級ホテル、フンボルトは、歴代政権が果たせなかった約束の象徴だった。ヒメネス将軍による軍事独裁政権下の1956年に竣工して以来、ほぼずっと休業状態だ。山の上のホテルと街を結ぶケーブルカーは頻繁に故障する。だがマドゥロ大統領率いる現在の社会主義独裁政権は、フンボルトがベネズエラ初の「七つ星」ホテルとしてまもなく営業を再開すると約束している。

ベネズエラのマドゥロ大統領は、インフレ率も低下する中(とはいえ依然、世界1位)、海外諸国の圧力をかわし存続に自信を深めつつあるという=ロイター

ベネズエラのマドゥロ大統領は、インフレ率も低下する中(とはいえ依然、世界1位)、海外諸国の圧力をかわし存続に自信を深めつつあるという=ロイター

12月14日、このフンボルトで現政権主催のパーティーが開かれた。クリスマスのイルミネーションが輝き、DJが次々とレゲトン(編集注、レゲエとヒップホップを組み合わせたスペイン語で歌う音楽)をかけ、空っぽのプールの周りでモデルたちがはしゃぐ。政権とのつながりで富を得た者が絶景を眺めつつ輸入ウオッカを口にする。眼下に広がるのは、世界で最も深刻な不況にあえぐ国の首都だ。

■穴だらけだった石油制裁

フンボルトでのパーティーは変化の兆しだ。豊かさが戻ってきたわけではない。豊かなのはパーティーにいたような人だけだ。野党勢力やこれを支援する60数カ国が求めている民主化が実現したわけでもない。むしろマドゥロ体制転覆を目指す米主導の国際的な圧力をかわし、今後も存続できると現政権が自信を深めつつあること表している。

マドゥロ氏は2018年の大統領選で再選されたが、同氏が選挙結果を不正に操作したとして、野党が過半を占める国民議会のフアン・グアイド議長が19年1月、暫定大統領に就任したと宣言した。これを機に米国はマドゥロ政権に「最大限の圧力」をかける方針に転じた。ほとんどの西側と中南米諸国はグアイド氏を大統領として認めている。米国は一時はベネズエラ最大の石油輸出先だったが、トランプ政権は同国からの石油輸入禁止に踏み切った。個人への制裁も拡大し、マドゥロ氏の側近のほぼ全員が対象となった。

だが石油制裁は穴だらけだった。ベネズエラは、ロシアのエネルギー大手ロスネフチなど米国以外の売り先を開拓した。国営石油会社PDVSAの生産量は15年以降、4分の3落ち込んだが、今は回復の兆しをみせている。さらに生産量を拡大し、精製所を修理すべくインド企業とも提携した。ベネズエラは外貨を得るため、金と麻薬も海外に売っている。金は鉱山から違法採掘された金と同中央銀行保有の金の双方を売っている。

■想定外は制裁が招いた社会主義路線の変更

一連の制裁措置は想定外の結果も招いた。政府要人は旅行が制限され、海外口座も凍結されたため、多くの時間とお金を国内で使うようになった。フンボルトでのパーティーはその一例だ。より重要な想定外の動きは、石油制裁による影響があまりに大きかったために、現政権が社会主義路線の方針を軟化させたことだった。

「ボリバル革命」と称して政府が経済活動を統制する政策を進めたのはカリスマ指導者として知られ、13年に死去したチャベス前大統領だった。だが、マドゥロ氏はそのほぼ全てを解除した。経済学者のルイス・オリベロス氏は、様々な制裁が「ベネズエラ政府に柔軟に対応することを余儀なくした」と指摘する。

政府は為替レートと物価の統制をやめた。民間企業は好きなものを輸入できるようになり、価格も自由に設定できるようになった。カラカスのスーパーは17~18年はほぼ品切れ状態だったが、今では食品が並ぶ。買い物できるのは富裕層だけではない。

ベネズエラ国民の3分の1が海外に住む親戚から直接送金を受けているという。マドゥロ氏が13年に大統領に就任してから、全人口の12%に相当する400万人以上が国外へ移住した。コンサルティング会社エコノアナリティカによると、国内総生産(GDP)の約3%に当たる年間40億ドル(約4400億円)が海外在住のベネズエラ人から送金されているという。政府による食糧配給(政権支持者への優遇が甚だしいが)や、政府による妨害を切り抜けて海外の非政府組織(NGO)から届く援助をこうした送金が補完する格好となっている。

■首都カラカス以外の地域は厳しい生活

国民は、世界で最もインフレ率が高いベネズエラの通貨ボリバルでなく、米ドルを使うようになっている。タクシー運転手や清掃員は、料金をボリバルで受け取る場合でも金額はドル建てで提示する。ハンバーガーチェーンのマクドナルドはカラカスの店舗で働く調理スタッフに月額最低賃金30万ボリバル(約6ドル)の3倍以上に当たる20ドルを支給している。カラカス中心部にあるトラキ百貨店では、値札にドル価格は表示していないが、支払いはドルだ。乾麺のスパゲティ(エジプト製)は400グラムで50セントだ。レジの行列を見ると、庶民も手が届く価格のようだ。ベネズエラで流通しているドル紙幣の残高は今やボリバル紙幣のそれを上回っている。

ベネズエラ国民の大半はボリバルで賃金を受け取っているが、ボリバルの下落ペースは一時ほど急激ではない。政府は、インフレ対策で市中銀行が中銀に預け入れる法定準備率を引き上げた。国民議会によると、年間インフレ率は19年初頭の300万%近くから11月には1万3475%に下がったという(それでもインフレ率の高さは世界1位だ)。

機械工のエクトル・マルケス氏は「昨年より少しましになった」と言うが、カラカス以外の地域に住む人は賛同しないだろう。病院では設備や薬が欠乏しており、必要もなく命を落とす人が後を絶たない。国連は700万人のベネズエラ国民が人道的緊急支援を必要としているとはじく。

このため国内移住の流れが起きている。多くが地方都市を逃れカラカスに移住し、昨年にはなかった交通渋滞に市民は再び悩まされている。ベネズエラの風刺サイト「そううつのカピバラ」はマドゥロ氏が「カラカス共和国はこれ以上ベネズエラ人難民を受け入れられない」と宣言している風刺記事を載せた。

■来年の選挙で野党負ければ現政権は安泰

マドゥロ氏が最も望むのは、カラカスの平穏だ。ドルを入手できる市民は政府に反抗する可能性が低いとオリベロス氏は指摘する。このためマドゥロ政権は「すぐにも」崩壊すると再三約束してきたグアイド氏は戦術の見直しを迫られている。同氏は軍部が寝返ることに望みをかけていたが、その兆候はほぼない。そのため同氏は、マドゥロ氏が有利になるよう選挙結果を操作すべく手を貸したとみられる全国選挙評議会の改革推進に重点を移している。

選挙改革を進める次の機会は、20年12月に任期満了となる国民議会選挙だ。マドゥロ政権はそれより早く議会を解散するかもしれない。この選挙で野党勢力が過半数を失えば、マドゥロ氏は三権のすべてを掌握することになる。カラカスのコンサルタント、ジョン・マグダレノ氏は、「20年に何らかの政治的変化が起きる状況はどんどん遠のいている」と語る。

トランプ政権は表向きには「前」政権でなく、グアイド氏支持を続けている。ベネズエラ問題を担当する米国のエイブラムス特使は19年10月、「制裁は終わっていない」と明言した。

しかし最近のメディア各社の報道を見ると、トランプ氏は新たな道を模索している可能性がうかがわれる。一つはロシアと協力してマドゥロ氏に圧力をかけるというものだ。また、マドゥロ政権との直接対話も模索しているようだ。19年11月、米民間軍事会社ブラックウォーター(現アカデミ)の創設者で熱烈なトランプ支持者のエリック・プリンス氏が、ベネズエラのロドリゲス副大統領とカラカスで会食した。このことで両国政府がグアイド氏を迂回する裏ルートを作ろうとしているとの臆測が広がった。

マドゥロ政権が本当に倒れそうならば、そんなことは起こり得ない。

(c)2019 The Economist Newspaper Limited. December 21, 2019 All rights reserved.

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