シンガポール政府、偽ニュース対策法の適用連発

東南アジア
2019/12/25 18:00
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【シンガポール=中野貴司】シンガポール政府が、10月に施行したばかりの偽ニュース・情報操作対策法を相次ぎ適用している。3カ月弱で出した訂正命令は4件に上り、うち3件は野党や野党関係者が対象となった。2020年中にも総選挙が開かれる見通しとなる中で、公正で透明な運用を確保できるかが課題となる。

偽ニュース対策法の適用を発表するシンガポール政府のホームページ

政府は16日、野党「ピープルズ・ボイス」のリム・ティーン党首のフェイスブックの投稿に訂正命令を出した。リム氏は12日の投稿で、シンガポール人向けの奨学金よりも外国人向けの奨学金の方が多いと政府を批判していた。政府はこの主張が虚偽で誤解を招くと結論づけた。

リム氏はフェイスブック上に訂正通知を載せた上で「総選挙が近づく中で、偽ニュース対策法が反対勢力を沈黙させ、政府の不人気政策に関する議論を封じるために使われている」と反論した。

野党関連の投稿が訂正命令を受けたのは、11月の進歩シンガポール党の党員の投稿、12月14日のシンガポール民主党の投稿に続いて3例目だ。もう1つの訂正命令も政府に批判的な主張で知られる編集者を対象に出されており、これまでのところ与党・人民行動党と政治的立場が異なる勢力に適用が集中している。

編集者の事例では、本人が訂正通知の掲載を拒んだため、「虚偽情報」を載せた米フェイスブックも訂正命令の対象となった。フェイスブックは訂正情報を載せた上で、「言論の自由には影響しないとシンガポール政府は保証しており、そうした保証が整然かつ透明に実行されることを望む」とのコメントを出した。

偽ニュース対策法は、担当閣僚が公益に照らして虚偽情報の訂正が必要と判断した場合に命令を出せると規定している。違反した個人には10万シンガポールドル(約810万円)以下の罰金か10年以内の禁錮刑、またはその両方が科される。施行前から言論の自由を脅かす懸念があると指摘されていたが、政府はSNS(交流サイト)の普及によって偽ニュースがすぐに拡散するリスクが高まっているとして、規制の必要性を強調してきた。

偽ニュース対策法は「公益」の定義として、治安や金融システムの維持、他国との友好的な外交関係に加え、「総選挙の結果に影響が及ぶのを防ぐこと」を挙げている。20年中に総選挙が実施されるとの見通しが強まる中で、今後も野党関係者への適用が続くかが焦点となる。

野党のシンガポール民主党は訂正命令を受けた直後、「(担当閣僚に)命令の取り消しを求める」と、事実認識を争う姿勢を示した。野党が総選挙でも政府の運用姿勢に対する反論を強めれば、偽ニュース対策法の是非が争点の1つになる可能性もある。

シンガポールは1965年の独立以来、人民行動党が一貫して政権を担っており、野党の力は弱い。国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」の19年の世界各国の報道自由度ランキングで、シンガポールは151位にとどまっている。

隣国のマレーシアでは、18年5月の総選挙直前に当時のナジブ政権が偽ニュース対策法を成立させ、当時野党連合を率いていたマハティール氏を同法に基づき調査した。総選挙で政権交代を実現したマハティール政権は同法の廃止に動き、19日の連邦議会上院で廃案が決まった。

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