今日も走ろう(鏑木毅)

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困難克服は心の持ちようで マインドセット、誰でも

2019/12/26 3:00
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先日、ここ10年間の心の葛藤を書いた自著「マインドセット」を出版した。40歳で挑んだUTMBで3位となり、10年後の50歳で同レースを目指すまでを書いた。8月末のレースから帰国後の1カ月で、興奮が冷めないうちに一気に書き上げたせいか、初めのうちはその思いが強すぎて空回りし、伝えたいことがうまく書けなかった。

一大決心で挑んだ今年のUTMB参戦に至るまでは苦悩の日々が続いた=藤巻翔撮影

一大決心で挑んだ今年のUTMB参戦に至るまでは苦悩の日々が続いた=藤巻翔撮影

作家でもない一人のスポーツ選手にとって、本の執筆は悪戦苦闘の連続だ。意識しているのは、過去のつらい体験やうれしかった瞬間をよりリアルに思い起こし、感情を高ぶらせた上で得たものを少し冷静な目で書きつづること。

本の表題「マインドセット」とは、人生で身に降りかかるさまざまな事象は心の持ち方次第で必ず幸せに感じる流れに変えていけるというものである。

漆黒の闇夜を独りぼっちで歩いた経験はあるだろうか。「怖い」で済ませてしまえばそれまでのことだろう。それを普段の日常にはない楽しい出来事だとわくわくし、心を前向きにすれば喜びの体験になる。人生に起こるあらゆる事象は心の持ち方一つで、良いことも悪いことも、すべて幸せに感じる方向へと好転させることができる。

40歳で15年間勤めた公務員を辞め、プロトレイルランナーになり歩んできた10年間は正直に言うと、体力の衰えと他者との比較で常に焦り、つらいことばかりだった。あれほど望んで好きなことを仕事にしたはずなのに何をやっていても気がせいて、幸せだと感じた回数は本当に数少なかった。トレーニングに関しても、かつてできたことができなくなり、自分自身に嫌悪感を抱きながら、必死に過去の自分に戻そうともがいた。それは決して実らぬ努力だというのに。

何度もマインドセットを試み、いったんは心の置き場を得たかに思えた。だが最終的に完全なマインドセットができあがったのは昨年の160キロメートルレースで沿道から受けた応援だった。「もう今まで精いっぱい頑張って来たのだから走っている姿を見せてくれるだけでいい」。何だか自分はもう一線級ではないと見なされているようで最初はショックだった。次第にどんな形であれ、自分を応援してくれる人々がいるだけでありがたいと思うことで、50歳でのUTMBに挑戦する、不動とも思える心の落ち着き場所を確立できたような気がする。

ある読者から、私に対して心が強いアスリート像をイメージしていたのでちょっと裏切られた気持ちになったけれど、心の弱みをつづった内容を読み進めるうちに共感を覚え、自分も人生の困難を乗り越えることができるように思えたという感想をもらった。その通りだ。マインドセットは誰にだってできる。

2019年も年の瀬が押し迫る。今どんな境遇に置かれていようが、どんなに苦しいと感じている人でも、心の持ちようで乗り越えられるはず。乗り越えた先で必ずや最高の人生を手に入れることができると信じている。

(プロトレイルランナー)

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