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腕はどこから生えている? 腕振り、脚運びのために

ランニングインストラクター 斉藤太郎

2020年、オリンピックイヤーの幕開けです。この節目にいま一度、無理のない美しいフォームの体得を目指してみてください。日ごろ私は効率の良い走り方のポイントを骨盤、肩甲骨、姿勢の3要素と捉え、それぞれの頭文字を取って「こけし」とアドバイスしています。今回は「け」にスポットを当て、肩甲骨と腕振りの関係を考えてみましょう。

初心者はもちろん、本や雑誌でコツを読まれている方も含めて、全体の半数を下回らないほどのランナーは以下のような意識で走っていると感じます。

腕振りの意識

前に出すのではなく後ろに引く。ここまでは正しいと思いますが、多くの方は腕振りの振り子の支点を両肩に固定してしまっています。そして、主に二の腕を使って振っています。二の腕は付け根ではなく、腕振りの振り子側に含まれる部分です。大きな動き、疲れにくい動きを求める場合、本来は付け根にポイントがあり、まずそこから動きが生み出されるべきなのですが、なかなかそうなりません。二の腕を使って振ってしまうのは、そもそもどこから腕が伸びているのか、どこで体幹にくっついているのか、という意識が正しく持てていないからだと考えます。

腕は手の指先からたどり、肘関節、肩関節とつながっていますが、ここで終点ではありません。ここからもう一歩奥に進んで鎖骨があり、胸元の胸鎖関節で腕と体幹はつながっているのです。

左右2カ所ある胸鎖関節が動くかどうかチェックしてみましょう。

<エクササイズ1>

右腕を大きく前に回します。その際に右側の胸鎖関節を触ってみてください。少し動くはずです。あえてここを動かすように大きく回します(前10回、後ろ10回を左右それぞれ)。ここから腕が生えている意識を持つことがポイントです。

<エクササイズ2>

腕をダラーンとぶら下げるようにします。腕に一切力を入れず、胸鎖関節から小刻みに左右に回転させてみてください(左腕、右腕を各20往復)。

腕がどこから生えているかを意識し、ランニング中には胸鎖関節に注意を向けて懸垂の動きをしたり、深呼吸をしたりするのもよいでしょう。腕振りに限らず生活全般で、付け根から出たエネルギーがしっかりと指先に伝わるような動かし方をしましょう。冬場は寒さから、鎖骨部分をはじめ体の前側を萎縮させた姿勢で過ごしがちです。そんな姿勢のまま肩がぎこちなくぶれるような走りになっていないか、チェックしてみてください。

腕の付け根から出たエネルギーがしっかりと指先に伝わるような動かし方をしよう

肩甲骨の役割

走りながら力を抜き、肩、二の腕、肘をリラックスさせ、腕の振り子をダラーンとぶら下げてみてください。今までよりも1~2センチ、肩の位置が下がるくらいです。その状態で肩甲骨を左右交互に後ろに引くようにしてみてください。腕は結果的に振れますが、腕を振ることが目的ではなく、この動作によって垂直方向の背骨が右回りと左回り、交互にスイングすることが大切です。背骨の動きは工具のキリの動きと似ています。右回りと左回りを繰り返すキリのイメージが背骨です。

右の肩甲骨を引くと、背骨は上から見て反時計回りに回転します。そのまま力が下に伝わり、若干の時間差があって右側の骨盤が前に押し出されます。左の肩甲骨を引けば背骨は時計回りに回転。同じように力が下へと伝わり、少しおいて左側の骨盤が前に押し出されます。

肩甲骨を引いた側の骨盤が前に出て、その先の脚も振り出される。肩甲骨を強く引くために腕を後ろに引いて加速をつける。これが私の考える腕振りの仕組みです。「肩甲骨を引く」という表現が分かりにくければ、「肩甲骨を背骨側に寄せる」「肩甲骨を後ろにはがす」という感じで試してください。肩甲骨周りが柔らかい方でしたら、両腕を動かさずとも、肩甲骨だけを交互に引く動作で骨盤を左右にスイングさせることができます。

肩甲骨を強く引くために腕を後ろに引いて加速をつけることがポイント

肩甲骨を使って腕を引くと、体幹のラインが底辺で、引いた肘が頂点の三角形を腕が描きます。肩、肘、鎖骨が萎縮してこの三角形が小さくなったり、なくなったりしないように注意しましょう。

肩甲骨をしっかり使えていても、左右の軌道に差があったり、握りこぶしが外を向いたりするランナーもいます。ただ、私は枝先の軌道よりも、エネルギーがどこから生み出され、その先にどう伝達されているのかを見るよう心がけていて、多少ぶれがあったとしても個性の範囲内といえるものならOKだと思っています。せっかく基本メカニズムができているランナーに「手が外へ開いている」とか「もっと前後に振りなさい」などと、振り子の先の軌道のみを修正しようとする指導者をたまに見かけますが、残念なことです。

肩甲骨から骨盤へ

キリで穴を開ける回転の動きで背骨を伝わって下りてきた力により、骨盤は左右交互に回転します。水平方向の回転に加えて、自転車のペダルのように垂直方向にも回転。一歩ずつ交互にハードルをまたぐ動きと似ています。これが「脚に頼って走らない」ということです。走る際に腕を振るのはこうした脚運びを手伝うためです。

<エクササイズ3>

上半身と下半身のドッキングを体に覚えさせるのがツイストジャンプです。脚をそろえてまっすぐ立ちます。キリが回るイメージで、ジャンプしながら背骨を回転させます。左右どちらかの肩甲骨と腕を引くと、引いた側の骨盤が前に出ます。両脚同時に着地。すぐに反対側の肩甲骨と腕を引く。この動作を連続で20回しましょう。強く肩甲骨を引くことで骨盤が前に出てきます。

苦しくなって「腕振りをがんばらなくては」と思い起こすことがあると思います。腕を振るための腕振りにとどまらず、苦しいなりにも脚を動かすことにつながる腕振りをマスターしてみてください。

 さいとう・たろう
 1974年生まれ。国学院久我山高―早大。リクルートRCコーチ時代にシドニー五輪代表選手を指導。2002年からNPO法人ニッポンランナーズ(千葉県佐倉市)ヘッドコーチ、19年理事長に就任。走り方、歩き方、ストレッチ法など体の動きのツボを押さえたうえでの指導に定評がある。300人を超える会員を指導するかたわら、国際サッカー連盟(FIFA)ランニングインストラクターとして、各国のレフェリーにも走り方を講習している。「骨盤、肩甲骨、姿勢」の3要素を重視しており、その頭の文字をとった「こけし走り」を提唱。著書に「こけし走り」(池田書店)、「42.195キロ トレーニング編」(フリースペース)、「みんなのマラソン練習365」(ベースボール・マガジン社)、「ランニングと栄養の科学」(新星出版社)など。

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