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「デジタル人民元、ドル基軸通貨と衝突も」浅川雅嗣氏

次世代通信規格「5G」などデジタル覇権を巡り米国と激しく争う中国。その先端研究は通貨にも及ぶ。中国人民銀行はデジタル人民元の試験発行を視野に入れる。中央銀行によるデジタル通貨の発行は中国経済に何をもたらすのか。新興国などにも広がれば、金融市場のドル一極体制にも変化が生じ得る。前財務官でアジア開発銀行(ADB)総裁に近く就任する浅川雅嗣氏に聞いた。

 浅川雅嗣氏(あさかわ・まさつぐ) 1981年(昭56年)東大経卒、旧大蔵省(現財務省)入省。総括審議官、国際局長を経て、15年財務官。20年1月、アジア開発銀行総裁に就任。61歳。

「人民銀の統制、有効性高まる」

――米中のデジタル覇権争いが激しさを増しています。

「金融や貿易など貨幣市場のほか、財市場において中国はグローバル・バリューチェーンにすでに深く組み込まれている。中国だけを孤立させるのは無理だ。ただデジタル分野ではデカップリング(分断)が可能かもしれない」

「中国人民銀行は着々とデジタル人民元の研究を進めている。ブロックチェーン(分散型台帳)技術を使い、人民銀が認可する形で発行すれば、利用者の経済行動に関するデータが人民銀に集まる。中国人民元は流出圧力が強いままだが、人民銀による統制の有効性が高まるのではないか」

――デジタル人民元が将来新興国などに広まった場合、国際金融市場におけるドル基軸体制にどう影響しますか。

「いくつか論点がある。まずデジタル人民元の当面の目的は資本規制の強化だろう。人民元の流出圧力は2014年から続いている。野放図にすると経済への打撃が大きいので、人民銀は外国為替市場への介入で、人民元の下落速度を調整しようとした。ただうまくいかず、資本流出への規制強化を図ってきた。人民元のデジタル化も、まずは人民元レートの安定管理に役立てる側面が大きいはずだ」

「将来的にデジタル人民元を『一帯一路』への参加国などに広めるという構想は、中期的な絵姿として可能性はある。デジタル人民元という非常に中央集権的なガバナンスを持った通貨システムが世界に浸透してきた場合、ドル基軸通貨とぶつかることはあり得る」

「自国の金融政策が国民からの信頼を完全に失っている国では、長期的に自国通貨に代わってデジタル人民元を使う国が出てくるかもしれない」

「リブラは通貨主権への挑戦」

――デジタル人民元などで集めるビッグデータの活用により、国家という「見える手」で市場予測や計画経済も可能になるとの指摘があります。

「資本主義の前提は基本的に市場が効率的で全ての情報が瞬時に伝わることにある。だが、それでも市場は失敗する。市場に任せるだけではうまくいかない側面があることは、ここ100年で人類が経験したことだ。人工知能(AI)をフル活用しても市場の失敗を完全に克服できるとは思わない」

「国家が多様な技術を使って国民の経済活動を管理するかどうかは、経済ではなく政治のあり方に関連する。中央銀行がデジタル通貨で国民の経済活動を全て一元的に集約するようなシステムがいいかどうか。中国は人民銀が政府の一部で、中国共産党の下にあるのでこうした考え方もありうる。一方、西側諸国では、ビッグデータの収集は(政府から独立した)中央銀行の責務ではないと考えるだろう」

――デジタル通貨では、フェイスブックが主導する「リブラ」も関心を集めています。

「通貨主権は課税主権などと同じように国家にぶら下がっている。ところがフェイスブックが主導するデジタル通貨『リブラ』は民間が国家の介入なしに自由に発行できる通貨で、通貨主権への挑戦だ。しかも国境を越える。国境を越えた民間の経済活動と国家主権がぶつかり合う。とりわけ政策当局者は、今後もこうした衝突が生まれるだろうという問題意識を持って議論していかないといけない」

記者はこう見る「人民元国際化、デジタル化でも遠く」 川手伊織


 中国は主要国で初めてとなる中央銀行によるデジタル通貨の発行を視野に入れる。中国人民銀行はすでに設計や研究の段階を終え、地域限定の試験発行の準備を進める。中銀が国民の決済・送金データを集約・管理できるデジタル人民元は、中国の金融力を高め、人民元の国際化を後押しするのか。
 浅川氏はデジタル人民元発行の第1の狙いを「資本流出への規制強化」にあると強調した。中国人民元は米中貿易摩擦への懸念などから下落基調にある。デジタル人民元が現金から置き換われば、人民銀は規制をすり抜けてきた資本流出すらを防ぎ、人民元相場を安定させやすくなる面がある。
 資金洗浄(マネーロンダリング)を防ぐなど国内の金融取引の透明性を高める効果も見込める。金融を安定させる利点が証明できれば、新興国にもデジタル人民元が広がり、グローバルで人民元の利用が増えるかもしれない。
 デジタル技術で米国と覇権を争う中国だが、国際通貨市場での存在感は大きく見劣りする。国際決済銀行(BIS)によると、通貨別の取引高は米ドル(約44%)、ユーロ(約16%)、日本円(約8%)と続き、人民元は約2%にとどまる。米中貿易摩擦で米国からの圧力にさらされる中国にとって、ドル依存を薄めるうえで人民元の国際化は重要課題だろう。
 ではデジタル人民元の普及でドル一極集中を打ち破れるか。貿易面では、人民元で取引する割合は高まるかもしれないが、効果は限定的にとどまるとの見方も多い。
 みずほ銀行の唐鎌大輔チーフマーケット・エコノミストは「世界中の投資家が米ドル建ての米国債に投資する仕組みがある以上、デジタル人民元が普及してもドル一極集中を打破するのは難しい」と語る。自由な資本取引を規制したままで、中国国債への投資需要が高まるとは考えにくい。人民元の国際化の道のりはなお遠い。

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