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「ミレニアル、新しい資本主義の推進役」田坂広志氏

モノを買わないミレニアル世代の台頭――。人々の欲望に基づくモノの大量生産・大量消費で成長を促してきた資本主義経済の仕組みが変わり始めている。個人の価値観の変化に資本主義はどう対応していくのか。多摩大学大学院の田坂広志名誉教授に聞いた。

田坂広志氏(たさか・ひろし) 81年東大院修了。工学博士。2000年多摩大学大学院教授、19年名誉教授。ダボス会議を主催する世界経済フォーラムのグローバル・アジェンダ・カウンシル元メンバー。68歳。

「知恵の共有には共感が必要」

――資本主義の現状をどうみていますか。

「これまでの資本主義は貨幣経済の範囲でしか議論されてこなかった。一方で現在の資本主義は貨幣経済を超えたことがいくつも起きている。ピーター・ドラッカーやアルビン・トフラーが語った『知識が資本になる知識資本主義』と呼ばれるものが以前からあるが、実は知識資本主義を論ずることができる経済学はまだ生まれていない」

「現在の成熟した知識資本主義では知識や知恵、人と人との関係、信頼、評判、文化の5つの資産が重要になる。いずれもお金で換算できないため『目に見えない資本』と言える」

――目に見えない資本の根底には共感があると指摘なさっています。

「人工知能(AI)時代には文献で学べる知識よりも、経験でつかむ知恵の方が重要になる。知恵の共有には共感が必要だ。一方で弱肉強食の競争原理が社会に浸透するほど共感は失われ、知恵の共有が進まなくなる」

「日本企業はもともと目に見えない資本を大事にしてきたが、近年は競争至上や利益至上の金融資本主義に影響されて、目に見える資本だけを追い求めるようになってしまった」

「企業は(業績や財務などの)定量的な数字をみればそれなりにまっとうだが、きわめて重要な目に見えない資本が毀損していてもそのことはあまり論じられない。しかし社員のモチベーション低下による生産性の落ち込みなど、結果はいずれ必ず出てくる」

――デジタル技術の進化は共感の輪を広げますか。

「10代の環境活動家の姿をネットで見て世界に感動が広がるように、ネット革命は共感を地球規模で共有できる強みがある。ただフェイクニュースなど悪い側面もある。どんな技術も良い面と悪い面の両方を持っている。求められているのは使う人間の賢さ。技術は人間の意識を進化させる触媒だ」

「幸せ、お金以外の方向へ」

――ミレニアル世代の台頭は資本主義にどのような影響を与えますか。

「高度経済成長を知っている上の世代は家や車の購入に価値を感じて未来に希望を抱けた。だがミレニアル世代は資本主義のひずみの部分を物心ついたころから体験してきた。このため未来に対してあまり期待をもっていない」

「ミレニアル世代は高収入や出世が人生を豊かにするという従来の資本主義が振りかざしてきた価値観を信じていない。対極にある価値観に目を向けている。お金や物質的価値ではなく、心の満足や精神的価値を追求する傾向がある」

「今後は目に見えない資本を大切にする成熟した資本主義に向かっていく。ミレニアル世代は新しい価値観に基づいたパラダイム転換に取り組み、推進役を担ってほしい」

記者はこう見る「新たな価値観、正面から議論を」 京塚環


 国内総生産(GDP)などの指標で測れない「目に見えない資本」をどう表していくべきか。ノーベル経済学賞を受賞したジョセフ・スティグリッツ氏などが2009年に公表した通称「スティグリッツ報告書」では「経済成長率を超える幸福度指標の提案」として個人の健康や教育、社会的つながりなどの要素を反映する新指標の重要性を指摘した。
 報告書を受け、経済協力開発機構(OECD)は13年に「主観的ウェルビーング」という指標のガイドラインを公表。生活に満足しているか、幸福を感じているか、といった質問に個人が10段階評価で答え、指標をつくる内容だ。OECDはGDPとこの新指標を併用して国や世界の成長を図ろうと考えた。
 公表から6年たったが、主観的ウェルビーングを国家指標として導入した国はまだない。世界は目に見えない資本の重要性を認識しつつも、田坂氏が指摘するように貨幣や定量的に測れないものの議論に本腰を入れていない。
 我々は「共感」など貨幣換算できない価値を求める人々をいまだに特別視していないだろうか。「ミニマリスト」現象に取材班では「ごく一部の変わった人なのでは」「昔のヒッピーとどう違うの」などの声があった。もちろん家のなかに皿1枚、布団1枚といった極端なミニマリストは先鋭的な行動だが「モノではない何かを重視する」若いミレニアルから下の世代に確実に広がっている。現実を真正面から見据えた新たな価値観の理解が今こそ必要だ。

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