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盗塁が持つドラマ性 「私、失敗しないので」の極意

編集委員 篠山正幸

私、失敗しないので……。プロ野球6球団の争奪戦の末、ソフトバンクからロッテへの移籍が決まった福田秀平(30)に「ここ一番」での盗塁の秘訣を尋ねたときの答えは、人気ドラマの天才外科医の決めぜりふを連想させた。失敗が許されない、極限の場面で力を発揮するためのヒントがそこにありそうだ。

足の速さだけでなく、打撃でもパンチ力を秘めた福田が、プロ入り以来13年間、規定打席に達することなく、控えに甘んじてきた。ソフトバンクの選手層の厚さを示すもので、レギュラーシーズンの通算盗塁数も79個と、決して多くはない。

だが、問題は数ではない。絶対に失敗できない場面で決めてみせるドラマ性が、走り屋としての声価を確固たるものにした。

福田はパンチ力を秘めた打撃だけでなく、走り屋としての声価も高い=共同

ファンをしびれさせたドラマの一つが、2016年、日本ハムとのクライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージ第2戦での盗塁だった。

1点を追う九回。1死から代打で出た福田は左足への死球で出塁した。ベンチ裏で手当てを受けて、再び塁上に戻ってくると、すかさず二盗。投手、クリス・マーティンのモーションを盗んで、難なく陥れた。

その後、四球で出塁した中村晃とともにスタートを切り、重盗を決めた。福田のイニング2盗塁を生かしたソフトバンクは土壇場で逆転勝ち。最終的には日本ハムに敗退したが、逆転弾や超ファインプレーなどと同じく、「足」が野球というドラマの最高の見せ場となりうることを示した。

スリリングな感じでいうと、今年、国際大会「プレミア12」のオーストラリア戦で二盗、三盗を決めて優勝に貢献した周東佑京(ソフトバンク)、やや歴史を遡ったところでいえば、08年の日本シリーズ第7戦で二盗を決め、逆転での日本一をもたらした西武・片岡易之(のちに治大)の走りに共通するものがあった。

「そういうところで生きてきたんで」

ああいう場面でなぜ、スタートが切れるのか。失敗は怖くないのか。

福田は言った。「そういうところで生きてきたんで。失敗が許されない場面は何回もあったが、アウトになる、と思って走っていないんで。自分に自信をもってプレーできていたのかな」。そう、まさに「私、失敗しないので」なのだ。

「そういうところで生きてきた」には、他球団ならレギュラーで出続けられるのに、といわれながら、黙々とその場、その場の役目をこなしてきた人の意地が詰まっていた。

もちろん、実際には失敗がないわけではない。「相手もプロだから、失敗することもあるが、そのたびに自分で何度も見つめ直して、次は成功するという気持ちを常に持ち続けてきた」という。

勝負ごとにおいては失敗というマイナスイメージをいかに排除して臨めるかが、一つのカギになるのは確かなようだ。

福田の「失敗しないので」は苦い経験も含めた、これまでの蓄積が生んだ境地であって、根も葉もない自信は大けがを招くだけだろうが……。

楽しみな「甲斐キャノン」との対戦

仕掛けることによって、相手にみすみすアウトを与えかねない盗塁は当然ながら、リスクも伴う。メジャーでは、そのリスクの大きさに注目し「アウトにならない野球」を追求した名ゼネラルマネジャー、ビリー・ビーン氏の理論が一世を風靡した。送りバントを含めた戦術の見直しを迫る理論で、以来、多少の波はあるものの、メジャーでは盗塁の重要性は下がってきているようだ。

だが、そのスリルを放棄したとき、野球の魅力が一つ、消えることになりかねない。日本には世界とは違う野球の形があってもいいのではないか。

「敵が網を張って待ち構えているところへ、こちらから飛び込んでいくわけでしょ、盗塁っていうのは。そりゃ、失敗だってしますよ。最も大切なのは、そのプレッシャーを跳ね返すだけの勇気かなあ」(福本豊著「走らんかい!」)

阪急(現オリックス)で活躍、13年連続盗塁王、通算1065個の記録を持つ福本さんの言葉に、盗塁の面白さのすべてが詰まっている。

福田(左)のロッテ入団会見。新天地でも足の魅力を発信し続けてほしい=共同

福田にはもっと出場機会を増やしてもらい、走る野球の伝統を受け継いでほしい。レギュラー格で出るようになった場合、注目されるのはむしろ、その打力かもしれないが、足の魅力も発信し続けてほしい。

敵方としてソフトバンクと対決する立場となった今、楽しみにしているのは「甲斐キャノン」の異名をとる強肩捕手、甲斐拓也との対戦だといい、それはパ・リーグの新たなショーになるだろう。ちなみに紅白戦での盗塁成功率は成功1、失敗1の五分だったそうだ。

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