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住友商事、デジタル改革待ったなし 創立100年目の岐路

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

住友商事は12月24日に創立100周年を迎える。バブル崩壊や商社不要論、銅の不正取引事件のダメージなどを乗り越えてきたが、ここへ来て資源ビジネス偏重の収益構造の是非が問われている。世界的な景気減速もあり足元の業績は厳しい。ICT(情報通信技術)を活用した新規事業の創出に期待をかける住商の「デジタル変革力」が問われている。

社内起業制度から生まれたアプリ

住友商事は100周年記念式典で新規事業アイデアを披露するイベントも開いた(11月、東京ビッグサイト)

住商は10月下旬、個人情報管理アプリ「iscream(アイスクリーム)」の事業化に向けた実証実験を始めた。身長や体重、衣服の購入履歴といった個人情報をもとに、自分に合う服装などについて専門家が助言してくれる。住商グループ社員ら約500人に2カ月ほどアプリを利用してもらい、正式リリースに向けて改良を重ねる。

このアプリは住商が2018年からスタートした社内起業制度「0→1(ゼロワン)チャレンジ」から生まれた第1弾案件だ。ゼロワンはグループ会社を含めた国内外の社員6万人以上を対象に新規事業案を募り、予選と決勝の2度にわたるアイデア披露会(ピッチ)を通過すれば事業化の権利が得られるというもの。社員は本業を離れてアイデアの事業化に専念する権利が得られる。

アイスクリームの開発を主導した成田大気氏は「質問のたびに個人情報を送るか送らないかを利用者自身が選択できる」ところが重要だと説明する。情報の第三者利用を目的とする「情報銀行」と異なり、個人が情報開示を管理しながら欲しい情報を得られるからだ。事業化後はファッションだけでなく教育や医療などにも対象分野を広げる方針だ。

成田氏は個人情報ビジネスとは全く畑違いの、投資管理部門の出身者だ。業務時間の一部を割いて情報エンジニアが集まる共用オフィスに通い詰め、開発協力者を自力で見つけだした。「挑戦に対して会社の支援も手厚かった。全社的に新しいものを創ろうという機運が高まっている」と話す。

ICTと既存事業掛け合わせた「DX」育成

森林所有者向けの情報プラットフォーム構築を目指すアイデアなども最終選考を通過した。ゼロワンのピッチ会場は1年目は日本だけだったが、2年目の今年は世界3カ所に拡充。決勝ピッチに進んだ組は20組と2.5倍に増えた。

住商がめざすのは、ICTと既存事業を掛け合わせた「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の育成だ。18年4月に戦略立案を担う「DXセンター」を新設。200億円の投資枠をDX専用に設け、米シリコンバレーや英ロンドンなどに設けた専門チームに投資権限を委譲し、海外のスタートアップ企業に素早く出資できる体制を整えた。

結果として、住商によるスタートアップ投資の勢いは目に見えて加速している。ここ半年だけでも米国の人工知能(AI)関連開発会社や英国の次世代型駐車場システム開発会社、イスラエルの農業データ分析会社に相次ぎ出資した。これらのノウハウを吸収し、既存事業との相乗効果を生み出したい考えだ。

住商はシステム開発大手のSCSKを傘下に持つ。ただ同社の主要業務は複数の既存システムを1つのシステムにまとめあげる「システムインテグレーション」やITコンサルティングの分野だ。AIなどの先端ITを自前で研究開発しているわけではなく、住商本体と同じく次世代技術への対応は今後の課題といえる。

18年11月にDX分野で独自に戦略立案する「DX事業化委員会」を立ち上げたのはその焦りの表れとも取れる。国内外へのスタートアップ投資を通じて次世代技術のノウハウを積み上げ、住商とSCSKが連携しながらデジタル改革を推進する狙いだ。

商社活動を禁じていた住友財閥

住商のルーツは1919年12月に住友財閥が設立した港湾開発会社「大阪北港」だ。同社は第2次世界大戦末期にビル開発会社を合併して住友土地工務に改称。終戦後すぐに日本建設産業へと改称し、そこで初めて商社活動を始めた。同社が住友商事と名を改めたのは1952年のことだ。

第2次世界大戦前、住友財閥では商社活動はタブーとされてきた。当時はトレーディングに精通する人材がおらず、モノづくりに重きを置くべきだとされたためだ。だが戦後復興期に人々にモノを届けるべく、あえてタブーを侵した。住友商事は住友系の企業のなかでも後発ながら、年3000億円の純利益を稼ぐ企業へと成長した。

足元の業績には逆風が吹く。11月1日に20年3月期の連結純利益(国際会計基準)が前期比6%減の3000億円になりそうだと発表した。従来予想の6%増(3400億円)から下方修正し、一転減益となる。前期が過去最高益だった反動があるものの、減益予想は総合商社7社のなかでも、ほぼ横ばいの伊藤忠商事を除けば三菱商事と住商だけだ。

住友商事の100周年記念行事で兵頭誠之社長はグループ社員らを鼓舞した(11月、東京ビッグサイト)

マダガスカルのニッケル事業やオーストラリア石炭事業が低迷。北米鋼管事業など非資源事業も振るわない見通しだ。中村邦晴会長がかつて「資源に過度に依存しないバランス経営を大事にしたい」と語ったように、非資源事業の育成は今なお経営課題となっている。

「これからの100年を私たちがつくる」。記念式典で住商の兵頭誠之社長は5000人以上のグループ社員らをこう鼓舞した。ICTと既存産業が結びつく「第4次産業革命」とも呼ばれる急激な変化を念頭に「世の中が変わるスピードは加速し、そこで起こる様々な困難に立ち向かわなくてはならない」とも語った。

次の100年、どう生き残るか

DXはまだ種まきの段階で、具体的な成果はこれからになる。だがその成否が住商の次の100年のありようを占うものになることは想像に難くない。「先端技術を使った産業の変化に取り残されてはならないという危機感がある」と話すのは南部智一チーフ・デジタル・オフィサー(CDO)だ。

「住商の生活事業にはジュピターテレコム(JCOM)やスーパーなどがあり、消費者接点は多い。これらとオンラインを組み合わせ、一般家庭向けのアプローチを模索する」(兵頭社長)。住商のデジタル改革は、データをもとに需要をつかみ消費者に直接モノを届けていくというBtoC(消費者向け)企業への変革という意味もある。住商は資源偏重の事業構造を変革し、デジタル中心の企業に変貌できるか。100年の節目とともに正念場を迎えている。(企業報道部 安藤健太)

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