富士フイルム、AI×医療機器に活路 日立の事業買収
富士フイルムホールディングスは18日、日立製作所から画像診断機器事業を1790億円で買収すると正式に発表した。画像診断機器は独シーメンスなど海外勢がシェアを握る。だが病気の見落としを防ぐ人工知能(AI)などソフトと組み合わせ、利便性や使い勝手の良さを打ちだし、攻勢をかける。
「世界の最先端をいく画像処理技術とAIを日立の機器と組み合わせるのが、買収の一番の狙い」。古森重隆会長兼最高経営責任者(CEO)は18日、都内で開いた記者会見でこう力を込めた。
富士フイルムは日立の子会社だった旧日立メディコなどが手掛ける磁気共鳴画像装置(MRI)やコンピューター断層撮影装置(CT)、超音波診断装置を中心とした画像診断機器事業を買収する。対象事業の売上高は1432億円で2020年7月の手続き完了を目指す。
富士フイルムはCTなどで撮影した診断画像を管理するシステム(PACS)で、世界シェア首位に立つ。システムと装置を一体で開発することで機器の価値も高める。
例えばCTで撮影した画像をAIで解析し、病巣の場所や形を特定して見落としを防ぐ。また撮影時に患者の体位などをAIで自動認識し、画像認識技術で異物など見たいものを強調するなど作業者の負荷を軽減する。

日立の幹部は「画像診断機器は地域ごとに営業担当者や技術者を配置する必要があり、規模がないと利益を出せない」と話す。
ただ、現実は厳しい。調査会社の英エバリュエートによると、富士フイルムの18年の画像診断分野での世界シェアは5.5%で5位だ。日立を加えても8%台で、それぞれ2割前後を握る独シーメンスなど世界の「ビッグ3」の壁は高い。
また、日本市場では医療機関へのCTやMRIの導入が一巡し、競合他社との価格競争で収益が悪化している。海外では中国企業がCTに参入し始め、高額の医療機器もコモディティー化する懸念もある。
富士フイルムが手掛ける事務機器やデジタルカメラの市場は縮小傾向が続く。古森CEOは20年代半ばに医療機器や再生医療などのヘルスケア事業の売上高を20年3月期見通しの約2倍にあたる1兆円に伸ばす方針を掲げる。
日立「選択と集中」一段と
日立製作所は事業の「選択と集中」を急ぐ。富士フイルムホールディングスへの画像診断機器事業、昭和電工への上場子会社、日立化成の譲渡に加え、三菱日立パワーシステムズ(MHPS)に絡む損失負担を巡り、三菱重工業側と和解も成立した。日立は保有するMHPSの全株式を売却し、事実上、火力発電機器事業から撤退。今後は発電所の保守サービスなどを手掛ける。2021年度までに営業利益率10%を目指す。
「可能な限り、今年中に懸案を片付けてほしい」。11月、日立の東原敏昭社長は事業担当幹部が集まる場でこう発破をかけた。最大の懸案は三菱重工との間で続く、損失負担を巡る争いだった。
日立は15年3月期に約1千億円を引き当てていたが、紛争の長期化懸念が株価の重荷となった。和解するとの報道によって株価は一時、1年10カ月ぶりの高値をつけた。和解が成立し、同社は18日、20年3月期の連結純利益を従来予想の3600億円から1700億円に下方修正すると発表した。

日立化成を巡っては、当初は三井化学などの財閥系総合化学メーカーが買い手候補だった。だがいずれも投資ファンドと組み、買収後に高機能材料など必要な事業以外を切り離すとし、日立側が難色を示した。
画像診断機器事業の売却では、16年に旧東芝メディカルシステムズの買収でキヤノンに競り負けた富士フイルムHDのこだわりが強いと判断。日立の言い値に近い1790億円での売却が決まった。日立は機器とIoTを組み合わせたサービス事業にかじを切る。次の売却候補はIoTとの関連性が低い日立金属などの上場子会社とされる。
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