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岩波文庫版「失われた時を求めて」 約10年かけ完結

装画にはプルーストが描いたデッサンを使っている

20世紀フランスの作家マルセル・プルースト(1871~1922年)の長編小説「失われた時を求めて」の岩波文庫版(全14巻)がこのほど完結した。仏文学者で京大名誉教授の吉川一義氏が約10年かけて翻訳。読解を助ける詳細な注と豊富な図版を付けたのが特徴だ。

「失われた時を求めて」は語り手の「私」が人生の記憶をたどる物語で、19世紀末~20世紀初頭のパリ社交界の人間模様や芸術論などが一人称でつづられる。人間の内面を精密に描写する複雑な文体で知られ、「語順を変えず、いかに長文を区切って訳すかに苦心した。感覚から認識への移行を日本語で再現した」と吉川氏は話す。

同氏の草稿研究の経験を生かし、フランス語の底本にない注も多い。「注はいらないという声もあるが、今の読者が時代背景を理解するために必要」と考えた。最終巻に収録した総索引の編集だけで1年半かかった。「本文、注、図版を数回にわたり見直すので大変だった」という労作だ。表紙には作家が描いたデッサンを掲載するなど、装丁にも凝っている。

「失われた時を求めて」は吉川訳のほかに既に完結している2種類の翻訳(井上究一郎訳、鈴木道彦訳)がある。また光文社古典新訳文庫では高遠弘美・明大教授訳が刊行中だ。これほど長大な小説に4つもの訳があるのは珍しいが、「20世紀文学の最高峰」と称される作品だけあって、翻訳に挑戦する仏文学者が多い。

近年、芳川泰久・早大教授が作家の角田光代氏と手がけた縮約版が出たほか、芳川氏と鹿島茂・明大教授がそれぞれ解説書を出すなど、読解の手引となる本の刊行も続いている。

(前田龍一)

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