モリサワの書体デザイナー、仕上げ数年 文字の芸術
匠と巧

2019/12/23 7:01 (2019/12/23 19:46更新)
保存
共有
印刷
その他

カーブした特殊な定規を駆使し、レタリングする=笹津敏暉撮影

カーブした特殊な定規を駆使し、レタリングする=笹津敏暉撮影

あなたがいま読んでいるこの文字。時に読み手の印象をも左右するその書体、完成までに何年もかかるのをご存じだろうか。ひらがな、カタカナ、漢字――。組み合わせの多い日本語では1つの書体を最大2万3千字で構成する。書体デザイナーはその一つ一つをスケッチして作り上げる忍耐と感性が問われる仕事だ。

書体制作大手モリサワ(大阪市)の藤田佳史さん(35)は、その仕事ぶりから社内で「職人」と呼ばれるデザイナー。書体作りは、書道家などの専門家が原型を考える方式と、デザイナーがゼロから練る方式に大別される。藤田さんはその両方に携わる。

筆で書いたような躍動感が特徴の書体「剣閃」は前者。書家に約1年かけて1万の文字を書いてもらう。藤田さんの出番はここから。まず全ての文字の印象などを統一する。例えば「間」と「問」。同じ門構えでも「門」の形が微妙に違う。「1文字なら格好良くても、他の文字と並ぶと個性が強すぎることがある」。払いの勢いなど細かな修正を加え、「島」と「鳥」など似た文字の統一感を出す。文字の個性を削るが、書体としての個性は残す難しい作業。これだけで半年以上かかる。

次に熟語など約1万の文字同士の組み合わせでの重心などを確かめる。ある組み合わせを直せば、同じ文字を使う別の熟語のバランスが崩れかねない。微修正を繰り返し、パソコンで打ち込める形に整える。「剣閃」は10月の公開までに約2年かかった。

さらに根気がいるのがゼロから作るパターン。藤田さんが現在取り組んでいるのは「ギガバイト」など「テック系の内容と相性が良い書体」。「幾何学的」「カクカク」といったキーワードをもとに、1文字あたり5つほどのデザインをどんどん考えている最中だ。

藤田さんは子供の頃から1人で集中し、何かを作り上げるのが好きだった。そのこだわりはなかなかのもの。「1人で工作できるなら何でもいい」と美術大学で日本画を専攻。パイナップルを模写する際には輪郭の凹凸にこだわるあまり、パイナップルを腐らせてしまった。モリサワに就職したのも、デザイナーが黙々と作業する様子に感銘を受けたからだ。

多くの作業をパソコンでできるようになったいまも「最も大事なのは手書きでスケッチする作業」と言い切る。「パソコンで描いた文字はソフトの計算式の域を出ない」。だからこそシャープペンシルと消しゴムを片手に、線の書き消しを繰り返し、生き生きとした理想の線を探る。

書体のライセンスはソフト会社などに売るので、最終的にどう使われるかは考案者には分からない。やりがいを感じるのは「街中で本のタイトルや菓子袋などに自分が関わった書体を見つけたとき」。いまも藤田さんの頭の中にはいくつものアイデアがある。将来あなたが気を引かれたその文字。書体は藤田さんが考えたものかもしれない。

(平嶋健人)

保存
共有
印刷
その他

電子版トップ



[PR]