若者による創造的破壊に備えよ(The Economist)

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2019/12/16 23:00
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今年のクリスマスは、どこの家庭でも「楽しいクリスマス」とはいかないかもしれない。こと気候変動問題となると、ディケンズの「クリスマス・キャロル」の主人公スクルージのように若い世代はけんか腰になって、家族がクリスマスに会うために飛行機に乗った総距離がどれほどで、サンタクロースの贈り物がどれだけの二酸化炭素(CO2)排出を伴ったかと批判する一方、肉をほおばったり薪をくべたりするなど背徳的行為だとなじるだろうからだ。

肉を食べないとする消費者が増える中、大手ハンバーガー店も植物由来の原材料で作った商品の提供を余儀なくされている=ロイター

肉を食べないとする消費者が増える中、大手ハンバーガー店も植物由来の原材料で作った商品の提供を余儀なくされている=ロイター

このようにして楽しいクリスマスを興ざめさせる若者たちは、温暖化ガス排出量が増大するのに伴い、環境を重視しない悪者たちに対抗する手段として、「恥」や「嫌悪」を使うようになった。その標的は両親だけではない。今や全産業が対象だ。

■エネルギー効率悪い飛行機使うは「飛び恥」

エネルギー効率の良い鉄道を使わずに、CO2を大量に排出する飛行機を利用するのは恥ずべき行為だとする「飛び恥」運動や、ファストファッションのボイコット、肉を全く口にしない食生活など、一部の若い消費者が大企業と、企業を規制する立場にある政治家に強い影響力を及ぼすようになっている。

彼らを狂信的と一蹴することはたやすい。こうした若者の多くは欧米人で、裕福な家庭で育ち、十分に教育を受けており、社会正義への意識が強い。これに対し圧倒的に数が多い一般の人は、来月の給料で生活をやりくりできるか考えるのでいっぱいで、環境問題どころではない。

また世界中の航空会社やアパレルメーカー、食品各社が今後何十年にもわたり成長を見込んでいる新興国の消費者が、恥を手段に使う欧米の若者の懸念をどれだけ共有するかは不透明だ。

とはいえ中国のような消費大国でも気候問題への意識は高まりつつある。プラスチックや毛皮の消費に反対する運動も、ネットでのキャンペーンが追い風となって一定の盛り上がりを見せている。

加えて気候変動への懸念だけでなく、次の大きな波を見逃すまいとする投資家が少しずつ増えていることも環境重視の機運を高めている。ファッションと食品の業界では、自動車業界で米テスラがやったように、持続可能性をブランド化する新世代のスタートアップ企業が増えている。一部の企業の環境配慮は見せかけだけかもしれない。だが、大企業に創造的破壊をもたらしているのは確かだ。

■「飛び恥」意識し、利用減らした人37%

例えば「飛び恥」。全世界の排出量の約2%を占める飛行機を使うことに罪悪感を感じないのかと個人に呼びかけたのが「飛び恥」の始まりだ。だが、今や利用者全員が悪いといった集団的責任に近いものに変容している。

一部の航空会社、特に欧州北部の航空各社の受け止め方は深刻だ。「飛び恥」の運動が生まれたスウェーデンでは1年以上、航空機利用者が減り続けている(景気減速による減少も恐らくある)。KLMオランダ航空は消費者に「責任ある飛行機の利用」を呼びかけている。アムステルダムからブリュッセルに行くなら飛行機より電車の方が早いと言い出すほどだ(スウェーデンには「飛び恥」から派生した「列車自慢」という言葉まである)。

空の旅が環境に与える影響への懸念は広がっている。スイスの金融大手UBSが9日に発表した主要国8カ国を対象にした調査では、過去1年に「飛び恥」を意識して航空機利用を減らした人が37%に上った。航空機利用に強い懸念を示した国の一つが中国だった。この懸念は投資家にも広がっている。米シティバンクは航空業界による現在の需要予測を「不安なほど高い」とみる。つまり、「飛び恥」は今後、企業の評価額にさえ影響しかねない。

■ファストファッションにも厳しい目

ファッションと食品の分野も同様だ。どちらも業界全体としては航空業界よりはるかに多くのCO2を排出し、大量の水を使い、土壌と河川を汚染している。「ZARA(ザラ)」や「H&M」などのファストファッションは、毎年販売するコレクション数を大幅に増やしたため、使い捨て文化に拍車がかかり、欧米の環境活動家らの怒りを買っている。

新興国の消費者も使い捨ての見直しに追随するかもしれない。追随しなかったとしても、衣料品各社は自らの行動の後始末のため、何らかの取り組みをしていることを示さざるをえないと感じている。今年8月、米ギャップやナイキ、スウェーデンのH&Mグループ、ザラを展開するスペインのインディテックスを含む世界的衣料品会社32社は、ファッションの環境への負荷を減らすための協定を結んだ。各社は自己顕示欲と環境への思いを平和的に両立させるリセールやレンタルなどが普及することを恐れている。

ビーガン(完全菜食主義者)の動物性食品への嫌悪は、2017年の英映画「Carnage」(編集注、大虐殺。語源は「肉食」と同じ)を思い出させる。菜食が普通になった50年後の若者らが、肉や本来は仔(こ)牛のための牛乳を人間が摂取していた昔を激しい嫌悪感をもって振り返る。語り手は、ポール・マッカートニーの「(肉を食べることは動物を殺すことだから)月曜は肉を食べないようにしよう」運動は、「火曜は民族浄化の虐殺をやめよう」と言っているようなものだと皮肉る。

これは風刺映画の話だが、肉を食べない傾向が増えているのは確かで、ファストフード大手の米マクドナルドや米バーガーキングは、代替肉メーカーの米ビヨンド・ミートや米インポッシブル・フーズが提供する植物由来の原料でバーガーの提供を始めた。

一方、スウェーデンではオート麦を原料とする植物性ミルクを販売するオートリーと、地元発の乳製品多国籍企業アーラ・フーズが長く「ミルク戦争」を展開している。オートリーは「(我が社の商品は)牛乳みたいだけど、人間のために作られたミルク」という広告を展開、この広告を酪農業界は嫌悪している。

■消費行動による主張の対象は今は企業

消費行動で政治や倫理を主張するのは今に始まったことではない。このテーマを歴史的に研究し、本も著した米コーネル大学のローレンス・グリックマン教授は、今の恥の文化は独立前の米国に似ていると言う。当時、英国の植民地政策に反発した米商人らは英国製品を売ることを拒否した。反英派市民は自分たちで織った服を身につけ、英国から輸入された紅茶を飲む人々を村八分にし、大量の茶葉をボストン港で海に投げ捨てることまでした。18世紀後半の英国では、奴隷制度廃止を主張する女性を中心に、西インド諸島で奴隷を使って生産される砂糖などの産品をボイコットする動きが広がった。

その後、消費行動による主張は特定企業が対象になった。1990年代には、米ナイキと米ギャップが劣悪な労働環境の「搾取工場」で商品を製造しているとの疑惑で非難を浴びた。スイスの食品大手ネスレは2010年、チョコレート菓子「キットカット」の原材料の一つ、パーム油を採取するためオランウータンの生息地である森林が伐採されたとして「ネスレはオランウータンの血にまみれている」と主張するキャンペーンを否定するのに必死だった。今月3日にはフィットネス事業を展開する米ペロトン・インタラクティブのクリスマス商戦向け広告が女性差別的だと批判され、「炎上」した。

肉を食べる、飛行機に乗るといった社会に広く定着した行動に「恥」のレッテルを貼るのは特定企業を批判するより難しい。環境を重視しない行動を批判する動きを持続するのは難しいかもしれない。だが「恥」を武器に使う若者は、企業の広告について思いもしないところから辛辣な批判を展開するのはお手のもので、それに反論するのは容易ではない。

どの消費トレンドも同じだが、飛行機に乗らない、肉は食べないと言い出した消費者で、実際にその信念を貫く人は少ないだろう。それでも、そうした人々が革命を起こすことは可能だ。従って企業にとって彼らを無視することは危険だ。

(c)2019 The Economist Newspaper Limited. December 14, 2019 All rights reserved.

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