最も点を取られない男 オリックス・山本由伸(上)
2019年の開幕前、先発に転向したオリックス・山本由伸には期待と不安が入り交じった視線が注がれた。18年にセットアッパーとしてリーグ2位の32ホールドをマークした力は折り紙つきだが、長いイニングを投げられるのか――。
その疑問に今季初戦、4月3日のソフトバンク戦で出した答えは衝撃的だった。150キロ超の直球の球威は一向に衰えず、18年に12球団最多の202本塁打をマークした強力打線にまともに前に打球を飛ばさせない。八回1死まで安打を許さず、9回を被安打1、無失点とほぼ完璧だった。

スタミナ不足の懸念を一掃するパフォーマンスを、山本自身は早くから予感していた。今季開幕前のことではない。「18年の春から、もう(長い回を)投げられるようになっていた」
宮崎・都城高からドラフト4位で入団した17年、その体はまだか弱かった。「1軍では5回ぎりぎり投げられるか投げられないかで、投げ終わったら肘がぱんぱん」。壁に突き当たってシーズンを終えた山本に光明が訪れる。接骨院を営むある人物と出会い、師事することに。多彩極まるメニューで体幹に刺激を与え続けた結果、翌18年の開幕前には見違えるほどの体ができあがっていた。
投球フォームも見直した。例えばテークバック。球を持つ右手を下ろしてからトップの位置に引き上げるまでの「後ろ」の動きを大きくした。「矢を射る時、思い切り弓を引くじゃないですか。それと一緒で、大きく使わないと速い球は投げられないのではと」
後ろを大きくすると制球が乱れるという説は、山本からすれば「ただの思い込み」。無駄な力を入れず「大きく丁寧に」テークバックをつくることで「逆にコントロールはつく」。米大リーグの速球投手の多くがテークバックを大きく取るのを見て、意を強くした。
「高校時代までは考えたことがなかった」左手の動きにも目を向けて手に入れた、バランスの取れたフォームと体は以後の成功を約束するものだった。満を持して先発で臨んだ19年は、打線の援護に恵まれず8勝(6敗)にとどまったものの、12球団の規定投球回到達者で唯一の防御率1点台となる1.95で、最優秀防御率のタイトルを獲得。夏場に脇腹痛で一時戦列を離れたが、シーズンを通して先発をこなすスタミナがあることも証明した。
11月の国際大会、プレミア12ではセットアッパーとして日本の優勝に貢献。20年東京五輪でも欠かせない戦力との位置づけは、この若武者が急角度の成長曲線を描いてきたことを物語っている。=敬称略
(合六謙二)
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