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ラグビーW杯、迫られた災害対応 経験引き継ぐ必要

2019/12/18 3:00
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今秋のラグビー・ワールドカップ(W杯)日本大会の運営で大きな壁となったのが、大型台風への対応だった。刻々と変わる状況の中、大会組織委員会は会場の移転など様々な選択肢から最善の手を選ぶ必要があった。大会は成功に終わったが、その経験の中には東京五輪など今後のスポーツ界に引き継ぐべき知見がある。

「台風が来ても注目度の高い日本戦を開くことはできたが、正直に言うと右往左往したところもあった」。組織委で運営全体に携わった経営企画部の武富涼介氏は振り返る。気まぐれな台風の進路や関係者の意向を受け、二転三転どころではない方針の変更を迫られたという。

台風19号が日本を直撃したものの日本―スコットランド戦は行われ、日本は勝って初の8強入りを決めた(10月13日)

台風19号が日本を直撃したものの日本―スコットランド戦は行われ、日本は勝って初の8強入りを決めた(10月13日)

台風19号が日本を直撃した10月12~13日、W杯は節目を迎えていた。1次リーグの最終節に当たり、全国の6会場で7試合が予定されていた。

台風が発生したのが10月6日。当初は九州に影響が出ると予想されていた。災害で試合を開催できないときの対応は事前に決まっており、決勝トーナメントは順延。1次リーグは中止で引き分け扱いとするはずだった。

7日、国際統括団体ワールドラグビー(WR)から意外な指示が届く。「考えられる全ての可能性を検討せよ」。1次リーグの勝者が決まる大一番はできるだけ実施したいという趣旨だった。

組織委内にも同様の声はあり、「すぐに会場移転などの準備を進めた」と武富氏。九州の2試合を東京や熊谷(埼玉県)に移す方向で検討に入った。ファンの移動は難しいため、観客は入れない想定。警備費など数億円の費用は興行保険でカバーする手はずだった。

会場移転なくなり、決行か中止かに

翌8日、台風の進路が変わる。九州ではなく関東近辺に進むことが判明。横浜、釜石(岩手県)、豊田(愛知県)、東大阪の計5試合に影響が出る見通しとなった。そのうち決勝トーナメントの組み合わせを左右するのは3試合。ニュージーランド―イタリア戦(豊田)は順延して2日以内に実施、日本―スコットランド戦など横浜の2試合は九州への会場移転を軸に調整した。

今度はこの準備が波紋を呼ぶ。WRがW杯の運営を委託しているラグビーW杯リミテッドという子会社がある。9日夜、同社から組織委に意向が伝えられた。「一部の試合を例外扱いするのは不公平。全試合を開けるのでなければ代替開催は難しい」。別会場まで移動する必要が出る一部のチームも反発していた。「会場移転の可能性はこの時点でかなり低くなった」と武富氏は言う。

残る選択肢は当初の予定通りの開催か、中止か。10日に入り、気象庁が大規模な台風被害の危険性を警告した。組織委はまず12日の2試合について、W杯史上初の中止の決断を下す。さらに13日の3試合を検討する中、またひと騒動があった。

台風の影響で釜石での試合が中止になったカナダ代表は台風被害に遭った釜石市内で清掃活動などを行った(10月13日)=共同

台風の影響で釜石での試合が中止になったカナダ代表は台風被害に遭った釜石市内で清掃活動などを行った(10月13日)=共同

「日本戦だけ秩父宮ラグビー場(東京)で開催できないか」。試合前日の12日になり、WRの幹部から提案があった。国民的な関心事になった大一番を実現したいという思いだったが、秩父宮はそもそも12カ所の試合会場にも入っていない。現実的には難しかった。

台風襲来の13日は、組織委にとって長い1日になった。午前4時50分、釜石に前乗りしていた職員から一報が入る。「ホテルの周りが水没して一歩も出られない。スタジアムの状況の確認すらできない」。やむなく中止を決定。一方で問題がなかった東大阪での開催を決めた。

交通機関の早期回復が追い風に

残るは日本戦だけ。スタジアムには被害がほぼなかったうえ、想定外の追い風もあった。「交通機関の早期回復が大きかった。スタッフが集まらないと試合の準備ができなかった」と武富氏は言う。周辺の鉄道は午前8時ごろから徐々に復旧し、懸案は片付いた。

人手や資材の状況を検討した結果、飲料を十分に提供できないことが判明。飲み物の持ち込みを例外的に認めることにし、午前10時15分に開催を決めた。午後7時45分に始まった一戦で日本は勝利。初の8強入りを決め、テレビ平均視聴率39.2%と大きな注目を集めた。

刻々と変わる状況の中で安全に配慮しつつ、可能な試合を実現できたという点で、全体的な対応は悪くなかった。「災害時の危機管理計画をつくっておいたのが良かった」と武富氏は語る。特に、台風など確率が高いものには個別のシナリオを用意。12会場のそれぞれについて災害時の代替地も決めていた。

気象情報大手との連携も効いた。組織委経営企画部の藤居陽副部長は「ウェザーニューズの2人がオフィスに駐在してくれていた。単にデータをもらうだけではなく、人間関係を築いたうえでタイムリーに相談できたことが大きかった」。釜石、横浜など現場のスタッフと、東京の組織委本部との意思疎通もうまくいった。

台風への対応、詳細な記録継承へ

一方で、今後のスポーツ界に伝えていくべき課題も出た。まずは主催する国際団体との関係性。今大会はWRとW杯リミテッドの二重構造というややこしさもあり、「リミテッドの真の狙いや、誰が決定権を持つのかなどを把握し切れていなかった」と武富氏は言う。

リミテッドの理事はWRの一部幹部ら数人で構成する。「彼らは日本だけでなく海外のテレビ局など世界中のステークホルダー(利害関係者)を見ていた。パワーバランスを読み解かないといけなかった」と藤居氏。国際団体とのパイプづくりでは日本の他の競技団体も長年、苦慮している。

もう一つはノウハウや記録の継承である。この規模のスポーツ大会が日本で開かれるのは2002年のサッカーW杯以来だった。組織委は当時の記録を参考にしようとしたが「災害時の対応など詳細な資料をかなり探しても見つけられなかった。大部分の計画は自分たちで(一から)つくらないといけなかった」と藤居氏は話す。

反省を生かし、今回は両氏を中心に台風への対応などについて詳細な記録を残している。日本では来年の東京五輪・パラリンピックに始まり、21年のワールドマスターズゲームズ(関西)、26年のアジア大会(愛知)など大型イベントが次々に開かれる。「スポーツイベントの運営は属人的になりがちだが、ここで得た経験を形として残し、引き継いでいくことが必要」と藤居氏は話している。

(谷口誠)

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