混沌脱却求めたイギリスの民意 待ち受ける分断
英国の選択(上)欧州総局編集委員 赤川省吾

赤川 省吾
編集委員
2019/12/13 21:00
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12日の英総選挙で与党・保守党が大勝した。政治の迷走に嫌気がさした有権者が混沌から抜け出すため、与党の公約である「欧州連合(EU)からの離脱」に青信号を出した。だが危ういナショナリズムが見え隠れする英国の未来は霧にかすみ、EUも統合の逆回転という試練に見舞われる。英国の民意が欧州、そして世界を揺さぶった。

勝因はいくつかある。

まずは2016年の国民投票から3年半にわたる政治の迷走で国民に「ブレグジット疲れ」が広がったこと。「離脱論議にけりをつけ、前に進もう」という与党の訴えが心地よく響いた。

英社会はスポーツマンシップを重んじるため、勝ち負けが決まれば、それに素直に従う慣例がある。本音では「合理的ではない」と思いながら国民投票の結果に異を唱えにくい空気があった。

高まるナショナリズムも背中を押した。

「なぜドイツやフランスの言うことを聞かなくてはいけないのか」。離脱派住民を取材すると必ず漏れる言葉である。もはや超大国ではないのに、くすぶる大国意識。独仏が仕切るEUに従うのは屈辱だとの思いが「国家主権を取り戻せ」という与党のスローガンとなり、票を呼び込んだ。

金融市場は与党勝利を好感し、英ポンドが急騰した。だが実際に英国を待ち受けるのは分断と混迷だ。

ブレグジットの賛否には地域差がある。残留派住民が多い北部スコットランドは離脱に突き進むジョンソン流にそっぽを向いた。同地方では英国からの独立、そしてEU加盟を探るスコットランド民族党が圧勝。20年に独立を問う住民投票が行われる可能性がある。

自らが率いる与党・保守党に勝利を呼び込んだジョンソン首相(12日、ロイター)

自らが率いる与党・保守党に勝利を呼び込んだジョンソン首相(12日、ロイター)

英領北アイルランドでは、地続きのEU加盟国のアイルランドとの統合構想がくすぶる。「英国を最も偉大な国にしたい」(ジョンソン首相)という夢とは裏腹に、国家解体の足音が忍び寄る。

恒久平和を誓った欧州統合に背を向け、「自国優先」を選んだ英国。来年1月に離脱すれば、EUは初めて加盟国を失う。EU諸国は失望し、溝は深まるばかりだ。

独公共放送ARDの世論調査では、EUのなかで親英派とされるドイツですら「英国が信用できる」との答えが37%と、以前の半分に急落した。

第2次大戦後、英国は米国と並んで国際社会のリーダー役を自任し、多国間主義をうたってきた。だが米国は変質し、英国も翻意した。中核国の英米が政治リスクの震源地となったことで北大西洋条約機構(NATO)は弱体化が懸念される。

相互不信のなかで民主主義陣営の結束が揺らぐ。英国、欧州、そして世界に打撃となった今回の総選挙。欧州史に刻まれる政治イベントになったのは間違いない。

(欧州総局編集委員 赤川省吾)

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