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奈良「茶聖」の手もみ茶 うま味香る極細の葉

匠と巧

農産物か工業製品か。お茶は様々な捉え方ができるが、人の手が生み出す最高級の「手もみ茶」は芸術品の趣だ。流通することはほぼないが、古くて新しい技法には日本茶の未来が託されているかもしれない。

奈良市に現代の「茶聖」となった技術者がいる。大和茶の産地、月ケ瀬で茶農家を営む上久保淳一さん(32)。2年前、全国手もみ茶品評会で最高位にあたる農林水産大臣賞を受賞した。入札価格は1キロあたり150万9円の過去最高額。受賞者には茶聖の称号が贈られ、関西初の快挙だ。

上久保さんに手もみの実演をお願いした。先端の芯と葉2枚の「一芯二葉」のみを春に手摘みし蒸して冷凍保存したものを、焙炉(ほいろ)と呼ばれる作業台に広げる。工程はおおむね6つあり、完成までに6~8時間かかる。

茶葉を両手で擦り合わせる「もみきり」は、乾燥させながら形付ける工程。「薬指と人さし指に力を入れてあとは抜く」。両手脇から、茶葉がパラパラと落ちて芳香を放つ。見ている間に縮れていた葉が少し真っすぐに近づいた。品評会用の茶葉は縫い針のような形状で障子も抜けるという。

急須でいれる日本茶は、京都・宇治で江戸期に発明された青製煎茶製法がベースだ。長時間の重労働で少量しかできず、品質も不安定。茶業はその工程を機械化、工業化することで発展した。だが平成の間にペットボトル茶が普及し、近年は原料用の抹茶需要が高まるなど状況は激変する。

手もみ茶は商品としては難しい。だが各地で保存会が技術の継承と研さんを図るのは、機械化された工程の「カイゼン」に生かせるから。奈良県大和茶研究センターの瀬川賢正所長は「手もみ茶は車でいえばF1カー。手もみができれば機械製造の技術も高くなる」と説明する。

上久保さんが手もみに出合ったのは農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)の研修生だった約10年前。品評会で残り物の受賞茶を飲み、衝撃を受けた。「熱と乾燥の度合いは科学的に測れても、自然に人の手が深く関わらないと作れないものがある」

焙炉は廃材で手作り。本業に影響しないよう、祖父が45年ほど前に共同工場の脇に植えた1列に施肥し、手もみ用の茶葉を育てる。茶樹と語らい、丹念に手入れして育てる過程を含めての技術だ。

手もみ茶はどんな味がするのか。色は薄く透明だ。口に含んだ第一印象もお茶というより、澄み切った極上のだしか。「それがカメリアシネンシス(チャノキ)のうま味成分、テアニンです」。上久保さんがにやりと笑った。この味を江戸に届ける道中を歌ったのが童謡「ずいずいずっころばし」だ、と。

現在、京都の禅寺から焙炉を移し、月ケ瀬に作業場を造る計画を進める。来春には日本茶体験もできるカフェのような場所にするつもりだ。「手もみ茶の未来性を追求したい」。口調には確かな自信と気負いがにじむ。

(岡田直子)

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