WTO、紛争処理停止 機能不全長期化も

2019/12/11 20:00
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10日、スイス・ジュネーブで記者会見するアゼベド事務局長=ロイター

10日、スイス・ジュネーブで記者会見するアゼベド事務局長=ロイター

【ジュネーブ=細川倫太郎】世界貿易機関(WTO)で紛争処理の「最終審」に相当する上級委員会で11日、7人の定員に対しメンバーが1人だけとなり、審理が行えない異常事態に陥った。米国がメンバーの再任や補充を拒んでいるためだ。組織改革を巡る主要国間の隔たりも大きく、機能不全が長期化する恐れがある。

紛争処理の二審制の最終審に当たる上級委では、ひとつの案件の審理には3人が必要なため、当面は上級委で審理中の14の通商紛争が事実上、宙に浮くことになる。この中にはインドが日本の鉄鋼製品の輸入制限のため課した関税を巡る案件も含まれる。

WTOでは全会一致が原則のため、米国の人事案拒否により2017年から上級委のメンバーが減り続けていた。トランプ大統領の下で保護主義を強める米国は上級委の判断が国内法解釈に踏み込むなど「権限を越えている」と主張し、強硬姿勢で臨んでいる。

「あすから新しい案件の審理はできなくなるが、加盟国は解決に向け協議を続ける。代替手段は残されており、これで終わりではない」。10日、スイス・ジュネーブのWTO本部で記者会見したアゼベド事務局長は加盟国と集中的な協議を始める方針を示したが、事態打開の道筋は描けていない。

世界の貿易量拡大に伴い、国家間の通商紛争は増え続けている。WTOで審理中の案件は09年には月平均で15件だったが、足元では約3倍に膨らんでいた。

米国はWTOの運営予算を巡っても揺さぶりをかけた。ブルームバーグ通信によると、11月には20、21年分予算の成立を阻む考えを示唆し、圧力を加えた。上級委の報酬体系が審理長期化の一因となっていると主張し、上級委の運営経費やメンバーの報酬の大幅削減を要求した。結局、通例の2年分ではなく、20年予算のみが辛くも成立した。

164カ国・地域が加盟するWTOでは、加盟国同士の利害調整が難航し、多角的通商交渉(ドーハ・ラウンド)妥結の見通しが立たない。組織や役割の改革が急務とされるが、主要国間の足並みはそろっていない。

欧州連合(EU)は紛争処理の強化を訴え、上級委員の増員や任期延長を提案している。これに対し、米国は中国企業が政府補助金などによって競争力を高めている現状にWTOの紛争処理が十分に機能していないと不満を抱く。中国や韓国など経済成長を遂げた国が「発展途上国」と自己申告し享受する優遇措置をやめるよう求めている。

日本は米国が不満を持つWTOの機能を一つ一つ改善していきたい考えだが、多くの加盟国の同意を取り付けながらの改革は歩みが遅い。EUなどと「米国との橋渡し役も容易ではない」(政府関係者)との声も聞かれる。

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