山伏体験やお遍路… 歴史の物語に触れる日本遺産10選
歴史ある街並みや史跡、伝承を共通テーマでつなぐ「日本遺産」。
ストーリー(物語)として地域の魅力を国内外に発信する。
専門家14人に、お薦めのスポットを聞いた。
1位 出羽三山
自然への畏敬の念 抱く

【認定を受けたストーリー名】 自然と信仰が息づく「生まれかわりの旅」~樹齢300年を超える杉並木につつまれた2446段の石段から始まる出羽三山~
月山が過去、羽黒山が現在、湯殿山が未来を表す修験道の地。三山を巡ることが生まれ変わりの旅とされ、「山岳信仰を通じ、自然への畏怖や共存の文化に接することができる」(羽生冬佳さん)
羽黒山参道入り口の随神門をくぐると神域に入る。数百本の杉並木の苔(こけ)むした石段を歩くと国宝の五重塔も。「日本で最もスピリチュアルでユニークな場所」(ステファン・シャウエッカーさん)。訪日客は山伏修行体験への関心が高い。
羽黒山山頂には三山を詣でたことになる三神合祭殿があり、年越しで松例祭が行われる。大松明(たいまつ)行事では、たいまつの燃え具合などで豊作や豊漁を占う。月山と湯殿山は冬季閉鎖中
(1)写真の場所と行き方 五重塔はJR鶴岡駅からバス約35分、羽黒随神門から徒歩約15分。羽黒山頂まではバス約45分(2)紹介サイト https://nihonisan-dewasanzan.jp/
2位 四国遍路
全長1400キロ 自分と向き合う

「四国遍路」~回遊型巡礼路と独自の巡礼文化~
弘法大師・空海ゆかりの88の札所を巡る道は全長1400キロメートル。笠をかぶってつえを手に、険しい山道や静かな海辺を歩くお遍路さんの姿は四国の自然に溶け込む。
国籍や宗教関係なく誰もができて、各人のペースで巡礼できる。「お遍路さん同士の交流や、食事をふるまってねぎらう四国特有の『お接待』文化を是非体験してもらいたい」(内藤桂子さん)。「巡礼は世界共通。何回かに分けて巡ってもよく、地元との交流も面白い」(久保田美穂子さん)
聖地を目指す海外の往復型の巡礼とは少し異なるが、「巡礼になじみの深い欧州からの注目が集まっている。自分自身を見つめ直すきっかけになるのが魅力」(池田良孝さん)。自分の心と向き合う旅を求めて人々が集う。
(1)大岐の浜(高知県)は土佐くろしお鉄道中村駅からバス約40分(2)https://www.seichijunrei-shikokuhenro.jp/
3位 鞆の浦
静かに流れる時間を体感

瀬戸の夕凪(ゆうなぎ)が包む国内随一の近世港町~セピア色の港町に日常が溶け込む鞆(とも)の浦~
夕暮れ時にともる街のシンボル「常夜燈(とう)」の光、石積みの防波堤「波止」や船着き場の役割を担った石段「雁木(がんぎ)」。近世日本の風情が残る港は「昔と変わらない風景の中で静かに流れる時間を体感できる」(清水暁さん)。
かつての豪商の屋敷や町家が並ぶ路地も魅力的だ。「美しい街並みや石畳の小道に引き付けられる。フォトジェニックで多くの人の心を打つ場所」(ジェフ・デイさん)
鞆の浦生まれの薬味酒「保命酒」、名産のタイや小魚「ねぶと」を味わうのも一興。映画のロケ地にもなり、ファンも訪れる。
(1)鞆町伝統的建造物群保存地区、JR福山駅からバス約30分と徒歩約10分(2)https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/stories/story065/
4位 北総四都市
武家屋敷や旧宅 江戸感じる

北総四都市江戸紀行・江戸を感じる北総の町並み―佐倉・成田・佐原・銚子:百万都市江戸を支えた江戸近郊の四つの代表的町並み群―
「成田空港から近く、江戸を体験できる場所が多い」(市川拓也さん)。各地の見所は城下町の佐倉が武家屋敷や庭園巡り。門前町の成田は成田山新勝寺。利根川水運の商都だった佐原では蔵のある街並みや祭りの山車(だし)、伊能忠敬の旧宅。漁港町の銚子ではレンタサイクルで磯巡りができる。佐倉では侍装束で武芸体験ができる「サムライ散歩」も(要予約)。
(1)佐原伝統的建造物群保存地区、JR佐原駅から徒歩約15分(2)https://hokuso-4cities.com/
5位 北前船寄港地
交易が生んだ文化に思いはせ

荒波を越えた男たちの夢が紡いだ異空間~北前船寄港地・船主集落~
北海道から日本海、瀬戸内海を通り、大阪までを結ぶ航路は江戸時代の経済を支えた大動脈で、北前船は巨額の利益を上げた。点在する港町には豪壮な船主や商人の屋敷跡が残っている。「船による交流で食文化や伝統芸能が運ばれ、形を変えて根付いた。海で世界がつながっていると感じられる」(森岡順子さん)。歌い継がれる民謡や祭り、昆布だしの文化。地域を越えた共通点が多い。
(1)常夜燈公園(青森県野辺地町)、青い森鉄道・JR野辺地駅から徒歩約30分(2)https://www.kitamae-bune.com/
6位 鳥羽・志摩
海女との会話・海鮮に夢中

海女(Ama)に出逢(あ)えるまち 鳥羽・志摩~素潜り漁に生きる女性たち~
豊かな漁場で女性が素潜りしてアワビやサザエなどをとる「海女漁」。世界でも珍しい漁法とともに、独特の祭事や信仰を受け継ぐのが鳥羽・志摩だ。訪日客に人気があるのは海女小屋体験。「海女さんがとった新鮮な海鮮を堪能できる『相差(おうさつ)かまど(鳥羽市)』はおすすめ。海女さんとの会話も貴重。日本人も魅了すること間違いなし」(村山慶輔さん)。志摩市の「さとうみ庵(あん)」も訪日客の利用が多い。
(1)相差かまど、JR鳥羽駅からバス約45分(2)https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/stories/story073/
7位 山城
広大な茶畑 触れて楽しむ

日本茶800年の歴史散歩
京都府南部の山城地域は宇治茶の産地。茶の湯に使われる抹茶、広く飲まれる煎茶、高級茶として世界中に広がった玉露と製茶技術がある。石寺にある斜面一面の茶畑を眺めたり、宇治中心部の茶工房やカフェを巡ったり。時期が合えば和束での茶摘み体験やおいしいお茶のいれ方教室も。「道の駅『お茶の京都みなみやましろ村』の抹茶ソフトクリームは絶品。大阪・京都からのアクセスもいい。アジアの訪日客も多い」(山上洋平さん)。農村宿泊やカヌー体験も。
(1)石寺の茶畑、JR加茂駅からバス約20分、徒歩約15分(2)https://ochanokyoto.jp/nihon-isan/
8位 琵琶湖
祈りの文化 息づく水郷

琵琶湖とその水辺景観―祈りと暮らしの水遺産
日本最大の湖・琵琶湖の周辺では水を日々の暮らしに巧みに取り込んで文化や景観を育ててきた。湧き水をつかう洗い場「カバタ」や、町を縦横に走る水路は人々の生活の礎。水を敬う祭事や寺・神社も身近な存在だ。比叡山延暦寺はもちろん、琵琶湖に浮かぶ竹生島、湖面に立つ鳥居が印象的な白鬚神社、湖上に突き出た仏堂の浮御堂(満月寺)がある。「水の恵みに感謝し敬ってきた祈りの文化が感じられる。のんびり古くからの水郷を巡りたい」(横倉和子さん)。
(1)浮御堂、JR堅田駅からバス約5分、徒歩約7分(2)https://ja.biwako-visitors.jp/japan-heritage/
9位 三徳山・三朝温泉
身も心も清められる修行の地

六根清浄と六感治癒の地~日本一危ない国宝鑑賞と世界屈指のラドン泉~
修験道の修行の地、三徳(みとく)山の山道を進むと断崖絶壁にある「日本一危ない国宝」の投入堂(なげいれどう)に圧倒される。参拝して目や耳、鼻など「六根」を清めた後、新陳代謝が活発になるラドン泉の三朝(みささ)温泉に浸り、心身の「六感」を癒やす。「三徳山と温泉のダブルパワーでくつろげる。地元の水や素材を使った精進料理、豆腐が絶品」(黒田尚嗣さん)。座禅や写経、宿坊宿泊などもできる。
(1)投入堂、JR倉吉駅からバス約40分で、参拝登山事務所から約1時間(2)https://spa-misasa.jp/japan-heritage/
9位 肥前
焼き物産地の雰囲気 味わう

日本磁器のふるさと 肥前~百花繚乱のやきもの散歩~
乳白色の素地に彩色が映える「柿右衛門」をはじめ、独自の技を培った日本磁器発祥の地・有田。磁器づくりは有田から三川内、波佐見、嬉野、伊万里に広がり発展。窯元の煙突や、登り窯に使うレンガや陶片を赤土に塗り込めたトンバイ塀は、陶工の里ならでは。伊万里の秘窯の里・大川内山を推す声も。「焼き物産地の雰囲気がある。西洋磁器との関係も深く、海外の人も身近に感じてもらえそう」(五十嵐匡一さん)。周辺に武雄温泉がある。
(1)有田の町、JR有田駅周辺(2)https://hizen400.jp/
テーマでつなぎ 訪日客呼び込む
「日本遺産」は、文化庁が2015年に始めた取り組みだ。建造物や史跡、地域に根付いた伝承や風習など、点在している文化財を共通のテーマでまとめて、その魅力を伝えるというもの。地域全体を面ととらえ、そのストーリー性で国内外の観光客を呼び込んで、地域を活性化することを狙う。東京五輪・パラリンピックを見据え、現在認定されている83件から、20年には100件程度まで増やす方針だ。
ランキングは何度か日本へ来た訪日客に薦めたい場所。上位には地域独自の自然や信仰、風習を背景にした「スピリチュアル(精神的)」な体験ができるものが並んだ。歴史や工芸、産業、食、交通などを共通項に、自治体をまたぐ広域の遺産も多い。既に外国人客に人気の岐阜・高山を含む「飛騨匠の技・こころ」や「忍びの里 伊賀・甲賀」を評価する声も目立った。
まだそれほど知名度が高いとはいえない日本遺産。日本人でも新たな発見がありそう。足を運べば思いも寄らない物語に出会えるかもしれない。
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[NIKKEIプラス1 2019年12月14日付]
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