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JRA、異例の日程再変更 東京五輪が二重に翻弄

2019/12/14 3:00
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一度発表された競走日程が、7週間で変更されたのは前代未聞だろう。日本中央競馬会(JRA)は9日、大阪市内で開いた定例記者会見で、2020年の開催日程(日割と呼ばれる)のうち、夏季の北海道開催の入れ替えを発表した。当初、6月13~28日に予定していた函館を札幌に振り替え、7月25日~8月9日の札幌を函館に移した。

変更の理由は言うまでもない。東京五輪陸上のマラソンと競歩が札幌に移された影響である。現時点でマラソンは女子が8月8日(土)、男子が9日(日)に決まり、当初日程なら8月8、9日の札幌競馬とまともに重なる形だった。マラソンコースなどの細部は調整がついていないが、先手を打って日程変更となった。

今年8月の札幌競馬。来年の同じ時期は東京五輪のマラソン、競歩を避けて函館に移る

今年8月の札幌競馬。来年の同じ時期は東京五輪のマラソン、競歩を避けて函館に移る

当初の開催日程は10月21日の定例会見(東京)で発表された。当然、それ以前に様々な関係者との調整が終わった状態であり、21日の会見で配布される資料なども、前週には完成していたはずだ。ところが、会見5日前に降ってわいたのが、国際オリンピック委員会(IOC)発のマラソン、競歩の札幌開催問題である。

16日の第一報は札幌開催を東京五輪・パラリンピック組織委員会に「提案する」との表現だったが、翌17日にはIOCのバッハ会長から札幌開催を既成事実化する発言も出た。とはいえ、正式に決まらないと、JRAも動きようがない。結局、21日に当初日程が発表されたが、既に変更を探る動きは始まっていた。

多い不確定要素「時間なかった」

11月1日にはIOCと東京五輪組織委などがマラソン、競歩の札幌開催を正式決定した。ただ、決めただけで肝心のコースは12月13日の段階でも未定。マラソンが男女とも午前7時のスタートとなることが決まった程度だ。基本的に、世界陸連の設定した標準記録を突破した選手のみが走るため、遅くとも午前11時ごろには競技は終わる。札幌競馬では10年まで1レースの発走時間を遅らせ、最終レースを午後5時台に施行する「薄暮競馬」が行われており、競走時間の変更で対応できそうにみえたが、JRAは12月6日、「日程変更を9日に発表する」と公表。札幌のマラソンと重なる事態を避ける方針を早々に固めた。

この時期の決断について、JRAの木村一人・競走担当理事は「時間がなかった」と打ち明ける。現時点では不確定要素があまりに多い。開催直前の段階で、交通などに関して想定外の規制措置が取られたのを受けて、函館に移設するのでは遅すぎる。

例年は、日程が発表された時点で、様々な関係者が翌年の夏に向けて動き出す。宿舎の仮押さえが代表例で、競馬施行に携わるJRAの職員に加え、馬主や厩舎関係者も含まれる。12月になれば開催に付随する各種イベントの発注も動き出す。地元でマンパワーを確保する必要も出てくるが、この部分でも五輪との食い合いが生じかねない点が考慮された。

夏の北海道開催は近年、函館、札幌の順で6週ずつ、6月半ばから9月初旬まで続く形が定着していた。函館には中央の10競馬場で唯一、ウッドチップ(木くず)を敷設した調教コースがあり、札幌が始まると函館は調教場の役割も果たす。函館で出走した後、札幌開幕後も居残り、当日輸送で札幌に参戦する馬もいれば、札幌開幕と同時に移る馬もいる。輸送でテンションが上がって能力を発揮できないタイプの馬は、開催場に滞在することが多い。こうした事情を考慮し、来年は5月後半から札幌、函館双方の厩舎を開放し、入厩馬を受け入れる。

開催日程にも暑さ対策を反映

マラソン、競歩の移設は暑さのためだが、20年のJRAの開催日程も、暑熱対策を反映している。7月25日から8月9日は、西日本での開催がない。この時期は例年、中京と小倉の開催があり、中京記念、小倉記念の両G3も組まれる。だが、年間で最も暑さが厳しい時期である点を考慮し、当初計画では新潟と札幌の2場とされた。

JRAは通常、年間52回の土日と年4回の祝日の計108日を使って、競馬法で定める288日の開催日数を消化する。計算上、108日の3分の2に当たる72日は3場で開催しないと日程が消化できない。3場開催の場合、1カ所は売り上げが落ちるため、経営効率を考えると2場開催が有利で、G1の多い春秋に2場開催を置くのが理想的だ。逆に夏場はどこで施行しても、東京や京都ほどは売れないため、2場に減らしても効果は薄く、3場開催とするのが定石だった。20年はこの定石が破られた。

暑熱対策の必要性が叫ばれたのは、18年7月の福島、中京開催時に猛暑日が何度も重なったのが契機だった。19年の日程編成には、暑熱対策の反映が間に合わなかった形だが、19年の段階ではパドックへのミスト設置や、装鞍(そうあん)所を周回する時間の短縮などの手が打たれた。日程にも暑熱対策が反映されたのは今回が初めてで、21年以降もこのパターンが踏襲される可能性は高そうだ。

小倉を外して新潟を残したのは、小倉の方が暑さが厳しく、新潟が東西双方からアクセスしやすい点を重視した。今回の日程変更により、7月末からの3週は新潟と函館の2場開催となる。この時期は札幌より函館の方が涼しく、暑熱対策としては理にかなっている。

京都は大規模改修、21年以降に難題

来年の日程編成を複雑にしたもう一つの要因は、11月からの京都の大規模改修である。例年、京都開催は11月末で終わるため、12月着工とすれば、開催に影響することはなかった。だが、工期が約2年半と、各競馬場の近年の大規模改修と比べても長く、大阪万博の準備期間と重なるため、1カ月とはいえ前倒しされた。昨年末の段階で、資材や人件費の高騰、マンパワー確保の難しさなどを懸念する声がJRA内部からも出ており、今後、工事が順調に進むかどうかが気になる。

京都は11月1日を最後に休催に入り、エリザベス女王杯(G1)などが組まれる秋の京都開催後半は阪神で代替。代わりに、9~10月の阪神が中京に移る。また、中京の馬場保全を考慮して、例年は宝塚記念の翌週から組まれていた中京も阪神に移す。梅雨と重なる7週は阪神の連続開催となる。

今年は京都で行われたエリザベス女王杯。来年は阪神に移る=共同

今年は京都で行われたエリザベス女王杯。来年は阪神に移る=共同

それにしても、20年は京都が前年比7日減の37日は使用できるからまだマシで、問題は京都を全く使用できなくなる21~22年。主に阪神、中京、小倉の3カ所で肩代わりするが、小倉は関東所属馬の拠点である茨城・美浦から馬運車で20時間以上かかるため、関東馬の出走が非常に少ない。一方、阪神と中京は例年、春先や梅雨時など、天候に恵まれない時期に開催されるため、馬場管理に常に苦労している。こうした点を考慮すると、本来は関東エリアに属する新潟開催も増設される見通しだ。

7月25日から8月9日の2場開催は、実は隠れた五輪対応という意味もあった。五輪の馬術競技にはJRA馬事公苑(東京・世田谷)が使用され、JRA職員の獣医師も数多く動員される。3場開催の場合、競馬施行に必要な獣医師の確保が難しくなる事情があった。こうした点をみると、20年の開催日程は東京五輪に二重に翻弄された格好だ。

五輪閉幕後の21年から先も、気象リスクは悩ましい材料となりそうだ。今年10月12、13日には台風19号の影響で東京競馬が連日の開催中止。東日本の場外発売所が営業を取りやめ、京都の業績の足を引っ張った。猛暑、台風、大雪と年間を通じて潜在する気象リスクの中で、年288日の消化さえ難しさを増している。

(野元賢一)

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