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教育格差、つらい経験に 国の将来考え腰あげる時期

2019/12/12 3:00
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先日、文部科学大臣が英語の民間試験導入に対して発した「身の丈」発言が各所で取り上げられた。入試を突破するための努力はあくまで自助努力であるべきだという意図もあったようだが、教育の格差を容認する発言は政府の代表としてあってはならないものだろう。

教育に関して私にもつらい経験がある。実家は群馬の専業農家だったため生活は苦しく、両親は早朝から日没まで働きづめで日が暮れてもさまざまな作業に追われた。

両親は子供に勉強はもちろん文字を教える時間すらなく、小学校に入学した時にはクラスでただ一人、私は自分の名前すら書けなかった。そのためにいじめにもあった。どうにかしなければならないとわかりつつも、この頃は何をどうすればよいのかわからず、ずっと息が詰まるような日々が続いた。

父親は中卒、母親は高卒だ。そのことを常にコンプレックスと感じていたのか、絶えず母親は私に学歴をつけるよう口を酸っぱくして言い続けた。また苦労ずくめの両親を見て、私は必ず納得のいく学歴や人生を手に入れたいと心に決めていた。大学入試ではその信念を貫こうと結局希望の大学に入学するまでに2年の浪人期間を経た。

両親には今でも心から感謝している。生活はずっと苦しく趣味も娯楽も旅行もほぼない窮屈な生活で唯一、教育にだけは費用を捻出してくれた。苦しい家計のなか予備校に2年も通う費用も工面してくれたのだからありがたい。こうした自分の半生を先日、埼玉県の小学校で「夢先生」として語った。

2年半ぶりに「夢先生」の教壇に立った

2年半ぶりに「夢先生」の教壇に立った

教育は国の根本だ。確かに日本では義務教育という機会の平等は保障されているが、教育の格差は現実の課題として大きな社会問題となっている。貧困家庭では子供に十分な教育の機会を与えることは難しいのが現状だ。日々の生活に追われていては子供の学習のために割く時間も経済的にも厳しいだろう。

学力は自己の努力のたまもので、勉強ができないのは出自ではなく本人の努力と思いが足りないからだという意見も分からなくもない。それでも私と同じように家庭事情により大きなハンディは生まれる。大卒の両親を持つ子どもは大学に進学する傾向が大きいという。学歴と経済的余裕度には大きな相関性があるのはほぼ間違いない。現在の社会の状況を考えれば、今後もこの格差はますます開くばかりではないか。

欧州のような階級格差こそ少ないものの、経済的な格差からなかなか抜け出すことが難しい社会。これが定着していけば、学習、労働意欲ともに低下し、国としての力は失われていくことだろう。教育格差は将来を見据えれば国の根幹を揺るがす大きな問題といえる。

人材を有効活用した義務教育を補完する学習支援システムは官民で行われているが十分ではない。地域全体、そして国全体でさまざまな方策を検討し、いよいよ本格的に取り組まなければならない時期に来ていると考える。先日会った子どもたちが見せてくれた目の輝きが頭から離れないでいる。

(プロトレイルランナー)

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