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横浜M優勝、リーグ史に残る「戦術オリエンテッド」
サッカージャーナリスト 大住良之

2019/12/12 3:00
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アンジェ・ポステコグルー監督率いる横浜F・マリノスの優勝は、Jリーグ27シーズンの歴史でも特筆されるべき出来事だった。

これまでの優勝チームは、多かれ少なかれ、所属選手をうまくかみ合わせた、あるいは強力な選手に頼って成し遂げられた、いわば「選手オリエンテッド(指向)」のチームだった。しかし今季の横浜Mは、完全にまずポステコグルー監督の戦術ありきの「戦術オリエンテッド」のチームだったからだ。

横浜Mのポステコグルー監督は就任時からアグレッシブな戦術が目を引いた=共同

横浜Mのポステコグルー監督は就任時からアグレッシブな戦術が目を引いた=共同

ポステコグルー監督は、1965年8月27日生まれの54歳。ギリシャで生まれ、オーストラリアで育ったオーストラリア人だ。2013年からオーストラリア代表を率い、15年には地元開催のアジアカップで初優勝を飾ったが、17年に2大会連続のワールドカップ出場に導くとさっさと辞任。18年から横浜Mの指揮をとって2シーズン目になる。その最初の年から、ボールを奪ってから縦に速く攻め込む攻撃、攻撃時にサイドバックにまるでボランチのようなポジションをとらせるなど、アグレッシブな戦術が目を引いた。

ただ、1年目は優勝した川崎フロンターレ(57得点)に劣らない56得点を挙げながらも守備が安定せず、56失点して12位にとどまった。

驚かせたのは、その18年から中心選手の半数近くを入れ替えて19シーズンに臨んだことだった。なかでもチーム最多の13得点を記録したFWウーゴビエイラとの契約を更新しなかったのは19年に向けて不安を抱かせた。

横浜Mは、もちろん日産自動車が主要株主で、ユニホームの胸には「NISSAN」の文字が入り、ホームも日産スタジアムだが、けっして強力な資金力をもっているわけではない。昨年度の営業収益は約51億円で、J1平均(約47億円)をわずかに上回っているにすぎない。ポステコグルー監督も、昨年、補強について質問を受けたとき、「マリノスは自由に資金を使えるクラブではないから」という内容の発言をしている。

マルコスジュニオールら今季獲得したのは監督の戦術を実現するための選手たちだった=共同

マルコスジュニオールら今季獲得したのは監督の戦術を実現するための選手たちだった=共同

主力の半数を放出し、「大型補強」をしたわけではない。獲得したのは、ブラジル人のFWエジガルジュニオ、同じくMFマルコスジュニオール、タイ代表DFティーラトン、U-22(22歳以下)日本代表MF三好康児、そしてJ3のFC琉球のGK朴一圭(パク・イルギュ)という、地味といってもいい顔ぶれだった。

だが、彼らは、まさにポステコグルー監督の戦術を実現するための選手たちだったのだ。

シーズンが始まると、エジガルジュニオとマルコスジュニオールがいきなりチームにフィットしたプレーを見せ、攻撃をリードした。2人とも小柄ながらスピードがあり、しかも、守備でも手を抜かず、非常に勤勉にプレーした。前線からのハードな守備は、失点を減らしただけでなく、得点を増やした。

フィールドプレーヤー全員で果敢な攻めをするチームのひとつのカギはGKだった。昨年、ポステコグルー監督は飯倉大樹を使った。大胆に前に出て、フィールドプレーヤーのひとりとして機能するプレーこそ、ポステコグルー監督の求めるGK像だった。だが痛いしっぺ返しも受けた。前に出るスタイルは、当然、リスクと表裏一体だった。

GK朴一圭は相手に詰め寄られてもまったく安定感を失わない=共同

GK朴一圭は相手に詰め寄られてもまったく安定感を失わない=共同

しかし今年第5節から朴一圭がゴールに立つと、前でプレーしながらも安定感は格段に増した。朴一圭は朝鮮大学校から入団したJFLの藤枝などを経て、昨年はJ3の琉球でプレーしていた。ペナルティーエリアを出て、相手に詰め寄られてもまったく安定感を失わない――。29歳で初めてJ1の舞台に立ったとは思えない朴一圭の存在は、昨年からエキサイティングな攻撃を見せていた「ポステコグルーのサッカー」を「勝利」に結び付けた。

今季得点王とリーグMVPを獲得したFW仲川輝人も、タイトルの重要要素となった。川崎の育成組織で育ち、専修大を経て15年に横浜Mに加入したが定着できず、J2の町田や福岡でプレー。昨年復帰し、シーズン途中からレギュラーとなった。

得点王とリーグMVPを獲得した仲川も優勝に大きく貢献した=共同

得点王とリーグMVPを獲得した仲川も優勝に大きく貢献した=共同

今夏、攻撃の中心的存在だったMF天野純がロケレンへ、MF三好康児がアントワープへと、相次いでベルギーのクラブに移籍、エジガルジュニオが左足に大けがを負うという大きな危機が訪れた。しかしクラブはすばやくFWエリキをブラジルから、そしてMFマテウスを名古屋から獲得してバランスを保った。

中心選手が一挙に欠けても横浜Mの攻撃力が落ちなかったのは、「ポステコグルーの戦術」という大きなバックボーンがすでにできていたからにほかならない。

夏から加わった選手たちもシーズンが深まるとともにポステコグルー監督のサッカーを完全に理解した。そして得点を重ねるごとに自信を深め、風格さえ出てきた仲川が相手の大きな脅威になると、横浜Mはリーグ終盤の7連勝で優勝を飾った。

「We have to play what we want to play. That's we are.(我々は我々がしたいと思うサッカーをしなければならない。それがマリノスというチームだ)」と、ポステコグルー監督は話す。

「このサッカーをやっていくんだと、マリノスの監督になった1日目に選手たちに話した。勝つためにといって違うことをしたら、私は選手たちの信用を失ってしまう。このサッカーを続けることは難しいが、選手を信じ、自分たちを信じてやってきた。どんな大きなものがかかった試合でも、引いて守るのではなく攻め続けるんだという気持ちを、いまでは選手たちも貫けるようになった」

ポステコグルー監督の戦術を体現することで生まれた横浜Mのサッカーは、これからの日本のサッカーに小さくない影響を与えるに違いない。

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