イノシシ、都会へ猛進? 街中で相次ぎ出没、けが人も

2019/12/10 11:41
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埼玉県富士見市の畑で捕獲されたイノシシ(4日)=同市提供

埼玉県富士見市の畑で捕獲されたイノシシ(4日)=同市提供

街中に出没するイノシシが近年目立つようになってきた。地方の過疎化などを背景に生息域を拡大し、個体数は30年弱で3倍超に増えた。かまれたり、ぶつかったりして人がけがをする事故も相次ぐ。国や自治体は駆除などの対策に乗り出しているが効果は限定的で、専門家は"都会志向"のイノシシたちが今後、次々と押し寄せる事態を懸念する。

周辺にビルや民家が立ち並ぶ東京都足立区の荒川河川敷。3日午後3時半ごろ、1頭のイノシシを警察官や区職員ら10人以上が捕獲用の網などを持って追いかけたが、幅200メートル以上ある川を泳いで対岸に渡り、逃げられた。区の担当者は「素早くて手に負えなかった」と話す。

イノシシは2日にも足立区内で複数の目撃情報があった。生態に詳しい東京農工大の梶光一教授は「1~2歳の若い個体が出生地を離れ、荒川に沿って都内にたどり着いたのではないか」と推測する。

同一の個体かは不明だが、4日午前には、荒川を渡った地点から約25キロ離れた埼玉県富士見市の畑で1頭のイノシシが見つかった。警察官らがさすまたなどで追い込んで捕獲した。同市によると、オスで全長120センチ、体重約70キロ。

イノシシが近年、市街地各地に出没している。福島市で7月にJR福島駅周辺に現れて騒ぎとなったほか、栃木県足利市でも10月に駅のホームで人が襲われた。

高松市では10月、JR高松駅近くで女性がイノシシに体当たりされ負傷。同市内の2019年度のイノシシ目撃に関する通報件数は11月下旬までに約240件に上り、18年度(153件)や17年度(155件)を既に上回る。

背景には地方の人口減少に伴う耕作放棄地の増加などがある。人間とイノシシの関係に詳しい奈良大の高橋春成名誉教授は「過疎化などで中山間地域に広がった耕作放棄地にすみ着き、分布域が人の生活圏に近づいた」と指摘。雑食のイノシシにとって餌が豊富で、個体数が増える要因にもなっているという。

増えたイノシシを都会に導いているのが川だ。今回、足立区などで見つかったイノシシも荒川沿いを下ってきたとみられる。高橋名誉教授は「河川敷には身を隠せるやぶなどが多く、下流の市街地へ向かわせるルートになっている」と話す。

人間による餌付けが引き金になっている可能性もある。野生動物の管理に詳しい山形大の江成広斗准教授は「都会に出て食べ物をもらえる経験をすると、繰り返し現れるようになる。人身事故や感染症のリスクもあり、餌付けは絶対にやめてほしい」と訴える。

14年には東京都府中市のJR武蔵野線でイノシシが電車に衝突する事故も起きている。梶教授は「分布の前線は確実に都心に迫ってきており、どこでいつ出没してもおかしくない」と警鐘を鳴らす。下流の河川敷に定着すれば対応がさらに難しくなるとし、「出没したイノシシの駆除だけでは限界がある。国を挙げて野生動物の管理を徹底すべきだ」と力を込める。

■個体数、30年で3倍に

 環境省の推計によると、2017年度の全国のイノシシの個体数は約87万頭。ピークだった10年度の約114万頭からは減ったが、推計を始めた1989年度(約24万頭)の3倍以上となっている。
 農業被害も深刻だ。農林水産省によると、2018年度にイノシシがイネや果樹などを食い荒らして生じた農作物被害は約47億円で、野生鳥獣による被害総額の約3割を占める。近年は豚の感染症である豚コレラ(CSF)の感染源とも指摘される。
 対策の中心は捕獲になる。環境省は年間16億円(19年度)を投じ、イノシシの捕獲などにかかる費用を自治体に補助している。18年度は全国で約60万頭を捕獲したが「繁殖力が高いイノシシを減らすには時間がかかる」と話している。

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