日本の15歳、デジタル読解力不足に3つの背景

2019/12/10 2:00
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読解力を養うことを意識した授業(埼玉県戸田市の戸田市立笹目小学校)

読解力を養うことを意識した授業(埼玉県戸田市の戸田市立笹目小学校)

経済協力開発機構(OECD)が2018年に実施した国際学習到達度調査(PISA)で、日本は「読解力」の成績が再び落ち込んだ。調査結果からは表現力・記述力の不足という従来の課題に加え、デジタル時代に必須の「情報を評価する力」などが不十分な実態が浮かぶ。学校現場では、こうした力の育成が新たな課題になりそうだ。

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4日、文部科学省内で開かれた中央教育審議会の教育課程部会。読解力の国際順位が前回の8位から15位に低下したとの同省の報告に委員の発言が相次いだ。

東北大の堀田龍也教授(教育工学)は「非常に衝撃的な結果。ICT(情報通信技術)を道具として学ぶことに、もっと積極的に取り組まないといけない」と危機感をあらわにした。

東京大の秋田喜代美教育学部長は「論理的な思考力の育成が重要で、全教科を通じて取り組むべきだ」と強調。上智大の奈須正裕教授(学校教育学)は、PISAの読解力は、国語教材の登場人物の心情の読み取りなどが中心の従来型読解力ではないと指摘。「もっと幅広く複合的な力が大事との理解を学校現場に広める必要がある」と述べた。

79カ国・地域の15歳(日本は高1)が対象のPISAは、読解力と数学的応用力、科学的応用力の3分野を測る。読解力で日本は15年に続いて順位とスコアを落とし、15位になった。文科省の説明や識者の見方を合わせると、原因は大きく3つほどありそうだ。

1つは「PISA型読解力」の弱さだ。現代はネット空間を信頼性に差がある大量の情報が行き交う。その中で生活を営んでいくのに必要な情報を探し出したり、情報の質を吟味して判断し、自分の考えを発信したりする力を指す。

しかし、今回の調査で日本は「情報を探し出す力」と「(情報を)評価し、熟考する力」を測る問題の成績が下がってしまった。

2つ目に考えられるのが、15年からパソコンを使った調査に移行したことの影響だ。同年の問題は紙のテストと同じだったが、18年調査ではパソコンの利用を前提に作り直され、全体の3分の2が新作だった。

画面を切り替えながら複数の資料を読ませる問題形式などに生徒が十分対応できなかった可能性がある。問題文の重要な箇所に下線を引く習慣がある生徒は多いが、パソコン上ではそれもできない。

3つ目は、従来課題になっている「自分の考えを根拠を示し、相手に伝わるように書く力」の不足だ。今回、読解力の問題の約3割が記述式だった。数学的応用力や科学的応用力と異なり、読解力分野では自分の考えを自由に書かせるタイプの問題が多い。

OECDによると、日本の記述式問題の平均正答率は57%で前回比8ポイント減。選択式は61%で1ポイント減にとどまっており、記述式の不振が成績を押し下げた。文科省はスマートフォン上での短文のやりとりの増加など「子どもが接する言語環境の急激な変化」が一因になった可能性もあるとみる。

家庭の経済・文化的水準の層別に成績を見ると、低い層ほど高成績の生徒が少ない。青山学院大の耳塚寛明特任教授(教育社会学)は「(低位層の生徒は)デジタル機器を学校外で使う頻度が顕著に低いと推測できる」という。

かねて指摘されている読む力の低下に加え、次代に必要なデジタル読解力でも学力格差が開いているのなら軽視できない。処方箋の検討が急務だ。

■学校現場、文章題や討論に力

 学校現場では読解力を伸ばす取り組みが続く。

「『球を切った切り口は円にならないことがある』。この文章は○かな?」。11月、埼玉県戸田市立笹目小学校の算数の授業。模型を使い球体を学んだ3年生に問題が出された。多くの児童が「×」と正答する中、文章の意味がのみ込めない様子の児童もいた。

笹目小は18年度から国数理社の4教科を中心に読解力を養う授業に力を入れ、週2日は文法や文章題のプリントに取り組む。算数が苦手だった3年生女児は「文章題が分からない時は繰り返し問題を読むようになり、得意になった」と話す。

それでも、7月に実施したアンケートでは「文章題の問いを理解しているか」といった質問に、学級によって児童の約3分の1が「分からないことがある」と答えた。大沼公子校長は「単純に知識を問うテストでは優秀でも、文章題は苦手で何となく回答している児童もいる」と言う。

中高一貫校の東京都立桜修館中等教育学校(目黒区)は、中学段階で論理的思考の育成に特化した独自科目「国語で論理を学ぶ」「数学で論理を学ぶ」を設けている。文章や他者の説明を理解し、自分の考えを論理的に表現できる力を育む。

国語で論理を学ぶ授業では教科書を使わず、討論や意見文の発表などに力を入れる。好きな本の魅力を語る書評合戦「ビブリオバトル」を取り入れ、読書も促す。

最近の中高生について、鳥屋尾史郎校長は「SNS(交流サイト)の短文など好きな情報ばかりに接する機会が増えているのでは」と懸念。「精度が高い文章を読まなければ読解力は上がらない」と語る。学校教育の課題は多い。

(中丸亮夫、佐藤淳一郎)

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