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次の飛躍へ苦悩ともがき 大谷、19年の言葉から

スポーツライター 丹羽政善

2018年10月1日に側副靱帯再建手術(通称トミー・ジョン手術)を受けたエンゼルスの大谷翔平。今年1年は投手としてリハビリを行いながら打者として試合に出るという、プロのレベルでは前代未聞の経緯をたどった。

打者として出続けることで、右肘に負担がかかることはないのか。故障のリスクはないのか。様々な議論の中、術後4カ月半で迎えたキャンプはさすがにスロー調整。オープン戦に出ることもなかったが、開幕後は実戦形式の練習を重ねたのち、マイナーリーグの試合に出ることもなく、5月7日にいきなりスタメン出場するという、これまた異例のプロセスを経て復帰を果たした。

当初こそ、試合勘を取り戻す作業に時間を要したようだったが、徐々に本来の姿に。6月は9本塁打を放ち、シーズン前半だけで14本塁打。昨季の年間22本塁打を更新することは確実と思われたものの、後半はシーズン中に手術に踏み切ることになる左膝の影響もあったのか、内容が不安定となった。

今年の言葉を改めてたどると、そのときの苦悩、大谷がもがいた様子がにじむ。

19年、大谷の言葉から。

今年の大谷は投手としてリハビリを行いながら打者として試合に出るという、プロのレベルでは前代未聞の経緯をたどった=共同

5月28日、復帰18試合の段階で、打率2割3分9厘、2本塁打。右方向へのゴロアウトが多く、好調時のバロメーターともいえる左中間へのフライが少なかった。この時の状態を大谷は、「(ボールの)上をたたいている感じ」と説明した。「なので、ラインドライブも多いですし、ゴロも多い」

もちろん、それは意図的ではない。「ポイントがちょっと前にありますし、本来ならもうひとつ遅らせてバットを下に入れられれば、もっと打球を上げられるんですけど、それが自分の中で前になってしまっている」

打撃練習では、足を上げる高さを変えるなど、試行錯誤していた。

「前になってしまっているなら、後ろにするためにどういう練習をすればいいか。後ろになってしまっているなら、ちょうどいいところで前に持っていくためには、また違う練習をしなければならないので、それは今、自分がどこにいるのかっていうのをちゃんと把握しないと戻れない」

「いいスイングは打球上がりやすい」

そうした取り組みの先にあるもの――。今年は昨年以上に打球角度を意識していた。

「上がってる打球に関しては比較的ヒットになったり、ホームランになったりしている率が高いので、そこ次第かなと思います。やっぱりゴロになればアウトになる確率が高くなっちゃうので、かといって上げにいくのではなくて、自然に上がるポイントでしっかりとらえれるかどうかが、今は大事」

ちなみに昨年8月18日、13号本塁打を打った試合後に、「後半に入ってから、打球に角度がついてきているが」と聞くと、「たまたまではない」と大谷は答え、続けている。

「やっぱりいいスイングをしているときは、比較的こう打球が上がりやすい傾向があるんじゃないかなと思います。それはどのバッターも一緒だと思うんですけれど、その方が接点も多くなりますし、まあ、いい傾向だなと思っています」

ここでいう「接点」とは何を意味するのか。

ようやく打球に角度がつき始めた今年6月8日の試合後、それはボールの軌道にバットの軌道を合わせ、点というよりは、線で捉えにいく感覚なのか。そうすることで接点を増やせるのかと聞くと、「なんて言うんですかね……」と言葉を選びながら、大谷が解説を始めた。

「こういう感じでこう捉えにいっているときは、『いいよな』『悪いよな』というのがある。(投手の)左右によって(球の)軌道って違うんですけど、その軌道に(スイング軌道を)合わせにいくとぶれてしまうので、軌道に合わすというより、『こういうふうに飛んでいくんだろうな』という軌道で振れているかどうかが大事」

大谷独特の感覚だが、ボールを捉えるというよりは、当たったあとの打球軌道にフォーカスが置かれていた。

マドン新監督の就任会見に出席する大谷(右から2人目)=共同

その後、後半に入って本塁打が出なくなった。7月21日には、「オールスターブレークに入る前のアストロズ戦も、そこまで良かったという感覚はないので、ホームランになってはくれてましたけど、ずっと、すごいいいな、というのはなかった」と口にし、「上がらないのもありましたし、上がりすぎるのもあった」と続けた。

大谷の場合、上がりすぎるというケースは珍しいが、そこに潜む微妙なズレは、後に顕著となっていく。

8月30日、大谷は延長15回までもつれたレッドソックス戦で、8打数無安打を経験する。すると9月1日、「納得できるアウトが少ない」と語った。これも彼独特の表現だが、アウトの中にも、納得できるアウトとそうではないアウトがあるという。

「(納得できるアウトが)増えれば必然的にいい結果が出ると思う。アウトは必ずあることなのでどういう形のアウトなのかっていうのが大事」

あの頃、納得できないアウトの原因が、はっきりしつつあった。「ボールの見え方としては見えているけど、打ちにいったときにファウルになったりとか、空振りが多くなっている」

仕留めたと思っても、仕留めきれない――。「真ん中付近のボールも打ち損じているのも多いし、なので相手よりはどちらかというとこっち(自分自身)かと思う」

同時にこう漏らした。「今年は比較的多い。ずっと何かしらありましたけど、その直らない部分だったりとかっていう、それはいろんな要素があると思うけど、そのなかでよくなったり悪くなったりっていうことだと思うので、そのなかの今は悪いほうかと思う」

長いシーズン、誰にでも多少の波がある。しかし今年は、いい時が長く続かない。常に修正する作業を迫られた。

「スイング軌道にズレがある」

そして2日後には、さらに一歩、不振の要因について踏み込んだ。「(問題は)スイング軌道のズレ。今までの自分のスイングの感覚で振ってるのとズレがある」

実は、大谷がここまで明かすのは珍しいことだった。その原因は、9月13日に手術を受けた左膝蓋骨(しつがいこつ)の痛みである可能性もあったが、あの時点ではまだ、別のところで答えを模索していた。

「スイング軌道っていうのは、個人個人あると思う。構えも含めて、その軌道がどういう動きからできるのかっていうことをまず考えないと。ただその軌道に合わせて振るっていうところではなくて、正しい動作をしてその軌道に合う振り出しだったりとかっていうことかなと思ってます」

あのとき、構えまで遡り、どこでズレが生じているのかをたどったが、はっきりしない。「原因がこう、ある程度分かっているなかで合わせるのとまたこれは違うので、意識して直せるところなのか、そうじゃないのかも違いますし、なので、そこに関してもどかしさはあるかなと思います」

そのとき、あの大谷が珍しく「打席に行くのが嫌になる」と弱音を漏らしている。

「もちろん、みんなそうじゃないかなと思いますけど、不安があって行く打席もあるし、調子がいいときっていうのは早く行きたいなって。そう思うのが普通じゃないのかなと思いますけど、使ってもらっている以上は、やっぱり一打席一打席、結果を出していく中で、何が良くて、何が悪かったのかっていうのをしっかり、捉えたいなと思ってます」

米プロバスケットボールNBAの観戦に訪れ、ウィザーズの八村(左)と握手を交わす大谷=共同

ちなみに大谷には、こんなところにも好不調のバロメーターを持っていた。

8月3日、クリーブランド。仮に1日で20球を見るとして、ホームランにできる球というのは、少なくとも1球はあるかと聞くと、「ああ、ありますね。それは」と答えた。

では、それをホームランにできる、できないの差は? 「もちろん、ホームランにできるボールが来たからといって、ホームランにできるわけではないので、そこが難しい。できたなと思うことはあっても、100%ではないのかな、とは思うので、そこを100%に持っていくための練習をしたいなと思ってます」

その後で、やはり彼独特ともいえる、感覚的な話をしている。「打てたな、と思えるのが一番いいと思いますね、やっぱり(ビデオなどを)見てて。今の打てたなって思えるか、甘くてもやっぱり今の打てなかったな、打てそうになかったな、って思うかは、自分の状態次第かなと思います」

状態次第で、感じ方が変わってくる。8月下旬から9月上旬の大谷は、間違いなく後者だった。

さて最後に、投手・大谷の言葉を少しだけ。

左膝の手術後、キャッチボールする大谷(10月24日、エンゼルス提供)=共同

右肘のリハビリは順調で、チームとしては当初、シーズン終了までに打者を立たせて投げられるようになれば、と考えていたようだ。そのシナリオは、膝を手術したことで、中断を余儀なくされたが、球速は80マイル台の後半まで戻っていた。

また、ブルペンではスライダー、カーブも試している。しかし、ブルペンでの投球強度が増すにしたがって、踏み出した左膝に大きな負担がかかり、やがて痛みを伴うようになった。結局、来年の開幕に間に合わせるため、逆算して9月13日に左膝の手術に踏み切ったが、フォームそのものはトミー・ジョン手術を受ける前と比べて、違いが見られた。

「僕は感覚に従うタイプなので」

例えば、踏み出した左足が地面に着く直前、以前はボールを手にした右手が、右肘よりも下にあった。しかし、8月下旬のブルペンでは、右手が上にあった。大谷に聞くと、「フォームというか、メカニックはいろいろいじってますね」と話し、こう続けている。

「それは別にケガをしててもしてなくても、はい。バッティングと一緒ですけど。毎回、どれがいいのかな、というのはブルペンのたびに変えたりしてるので、そういう感じでやってます」

とはいえ、手が肘よりも下にある場合、より、肩肘に負荷がかかる。逆であれば、負荷が小さくなり、障害リスクも減る。その点については大谷も、「理論的にはそう言われてますね」と同意した。ただ、必ずしも故障リスクを意識したわけではないと強調している。

「僕はもう感覚に従うタイプなので、これがいいなと思ったらやってみて、ダメだったらやめていく。その繰り返し。そこに結果的にそういう理論がありました、ということはあるかもわからないですけど」

模索しているうちに、理想的なフォームに近づいていった、ということか。

その仕切り直しとなった右肘のリハビリは、年内に完了のめどという。左膝のリハビリを並行して行っているが、1月以降は、通常のトレーニングメニューに移行できる見込みで、来季は、二刀流の復活が確実視される。

そのとき、今年1年の経験がどんな財産となるのか。飛躍につなげられるかは、彼次第でもある。

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