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スポーツ界に必要、他者輝かす「アーティスト」選手

スポーツコメンテーター フローラン・ダバディ

日本のサッカーファンは地図を取り出し、北マケドニア、コソボ、ベラルーシの場所を確認しておいてほしい。いずれも2020年のサッカー欧州選手権に出場する可能性がある国々だ。アイルランドのダブリンからアゼルバイジャンのバクーまで欧州12カ国の各都市で24カ国が覇を競う。欧州サッカー連盟(UEFA)の会長だったミシェル・プラティニ氏が描いた夢が来年、ついに実現する。

アジア選手権がビエンチャン(ラオス)、平壌(北朝鮮)、ヤンゴン(ミャンマー)、ウランバートル(モンゴル)などで分散開催されると想像してもらえばこの価値を感じてもらえるのではないだろうか。日本サッカー協会の田嶋幸三会長やアジア・サッカー連盟(AFC)がイニシアチブを取ってこんな大会を実現させたら、いまやかなり安っぽくなってしまった「スポーツの力」という文言も相当の重みを取り戻すだろう。

魔法のようなプレーでファン魅了

この秋に自伝を出版したプラティニ氏は長年にわたり、フランスで最も愛されてきたスポーツ選手である。1980年代、その年の最も優れたサッカー選手に贈られるバロンドールに3度輝いた。84年にはフランスの欧州選手権制覇、85年にはユベントスの一員として東京でのトヨタカップ優勝に貢献した。ワールドカップ(W杯)でも2度、準決勝まで進んだ。だが数々の実績以上に、魔法のようなプレーがファンを魅了した。

僕は11年、民放のテレビ番組でプラティニ氏にインタビューする幸運に恵まれた。スイスはニヨンのUEFA本部で1時間弱。ユーモア、共感力にあふれ、高い知性を兼ね備えた人物だった。当時の彼は誰よりも早く、世界の頂点に君臨していたスペイン代表の栄華が続くのはせいぜい4年で、その後は違うスタイルのチームが優勢になることを見抜いていた。予言は当たり、14年のW杯では縦の攻めを基調としたドイツが、18年にはボール保持にこだわらないカウンター戦術にたけたフランスが優勝した。

プラティニ氏は「理想のサッカー」というようなものは存在しないとも話してくれた。「サッカーは人生と同じで完璧な選手はひとりもいない。大切なのは補完し合える11人を見つけることだ」と言った。その理論に従えば、メッシの力がバルセロナを勝たせるのではない。バルセロナのチーム力がメッシを優れた選手にするという順番になる。

UEFA会長として情熱もち行動

81年、パリのパルク・デ・プランスで初めてサッカーを観戦したとき、プラティニ氏を見た。7歳の子どもの目にも、その才能は別次元に映った。彼にはピッチ上のすべてが見えているようで、誰にも思いつかない軌道のボールを放ち、パスを出し、相手の逆をついた。さほど大柄ではなく、舞台俳優のようだった。ヘビースモーカーだったのも当時のショービジネスのスターたちと同じ。インタビューを受ければ愛嬌(あいきょう)たっぷりに率直に語った。

UEFAの会長になってもプラティニ氏は変わらなかった。真摯で愉快で、先見の明があった。明晰(めいせき)な頭脳と若さを兼ね備え、情熱をもって行動するリーダー像に、僕はJFKを重ね合わせたものだ。しかしその後、金銭の絡んだ政治的な泥沼に巻き込まれたプラティニ氏は15年、法的根拠のない金銭授受を理由に、活動停止処分が科された。有力視されていた国際サッカー連盟(FIFA)次期会長への道も閉ざされた。

その後の法廷闘争を経てプラティニ氏は無罪が証明されたが、今後の彼がどのような道を歩むのかは定かでない。

東京五輪が7カ月後に迫ってきた。巨額の富が動く裏側でドーピング、不正賭博、人種問題、利害対立など課題が尽きない21世紀のスポーツ界はヒーローや救世主以上に「アーティスト」を必要としている。プラティニ氏のような「他者を輝かせることのできる自由な精神」といいかえてもいい。優れたアーティストはパートナーやチームメート、観客ら多くの人々を喜ばせることができるのだ。

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