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珍味とおつまみは違う 「チーズ鱈」進化の四半世紀

なとり 取締役執行役員 マーケティング・R&D開発本部長 西村豊氏(下)

長寿商品「チーズ鱈」は実は変化し続けていると、なとりの西村豊取締役執行役員は明かす

「チーズ鱈のようなロングセラーを作るには、売り出した後が肝心」と、なとり取締役執行役員でマーケティング・R&D開発本部長の西村豊氏は言う。なとりでは絶えず味や形を変えたり、新しい食シーンを提案したりと、消費者を飽きさせない工夫を凝らす。3代目の名取三郎社長就任後は常温流通にこだわらず、チルド製品の開発にも取り組んでいる。

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ひとくちに「チーズ鱈」といっても、その形は3種類ある。基本は「松葉型」で、消費者には最もなじみのある細長い棒状のもの。よりチーズの味を引き立たせるのはそれより少し太くて短い「短冊型」で、見た目の可愛らしさで引きつけるのは、正方形の「ビット型」だという。

「今でこそナチュラルチーズも普及し、ブルーチーズなど匂いがきついチーズも受け入れられるようになりましたが、『チーズ鱈』を発売した1982年当時はそうではなく、マイルドな味のプロセスチーズを採用していました。日本人がチーズの味に慣れてくるにつれ、味の濃いチーズを使った製品も増えてきました」と西村氏は言う。

「チーズ鱈」がロングセラーとなった要因の一つに、こうした頻繁な「味変え」がある。なとりでは、発売当初から「からし入りチーズ鱈」「わさび入りチーズ鱈」「サラミ入りチーズ鱈」「ピザ味チーズ鱈」など数多くの味変え製品を開発し、世に送り出している。

チーズそのものの味にもこだわり、現在では日本国内だけではなく、海外から何種類ものナチュラルチーズを取り寄せ、それを独自にブレンドしてオリジナルのプロセスチーズを製造している。

そうしたチーズへのこだわりを最初に前面に打ち出したのが、現社長で3代目の名取三郎氏だ。社長に就任した2005年にまず、高級なイタリアのパルミジャーノ・レッジャーノを使った「チーズ好きが食べるおいしいチーズ鱈」を発売した。

翌年の06年には、チーズへのこだわりを極限まで追求した「一度は食べていただきたい熟成チーズ鱈」も発売。こちらは1年以上じっくり熟成させたチェダーチーズを60%使用しているほか、ゴールドのパッケージを採用するなどしてプレミアム感を演出している。

「パーティー需要を想定し、複数の製品を組み合わせたアソート品に取り組んだり、種々のお酒との相性をうたったりした製品も出しています。その結果、『チーズ鱈』のバラエティー化が進み、ファン層も拡大。売り上げも右肩上がりに伸びていきました。味を変える、チーズを変える、食シーンを考える。この三つが消費者を飽きさせないポイントかなと思っています」と、西村氏は語る。

見直し続ける「おつまみ」の定義

商品を開発するための会議は、大きく2段階に分けられる。まずはテーマの取捨選択を議論する新製品アイディア検討会。次にそれらを製品化するための課題を解決する新製品開発会議が毎月開かれる。双方の会議とも関連部門だけでなく社長も加わる。

新商品を発売するのは、毎年3月と9月だ。こうした定番商品は年間20から30品目発売している。定番以外にも、期間限定品やリニューアル、さらにはプライベートブランドとして製造を請け負っている製品もある。年によって違いはあるものの、それらをすべて含めると「年間100品目以上になる」という。

西村氏によると「定番商品の開発の場合、アイデア段階の提案から商品化されるまでの割合で言うと打率は1割以下」というから、商品化へ向けてのハードルは高い。

取締役執行役員でマーケティング・R&D開発本部長でもある西村氏は毎日、ボツになった商品も含め、数種類は試食している。試食をしすぎて、「時にはお昼ご飯を食べるのが嫌になることもある」ほどだ。「開発資源を無駄にしないためにも、開発を止めるものは早く止めることも大事」だという。

チーズの種類やチルド流通への対応などで、商品バリエーションが広がり続けている

絞り込む際に最も重視しているのは、商品コンセプトだという。「おいしいものに仕上がっているかはもちろんですが、おいしくても売れない商品をいくつも見てきました。お客様にどういう価値をお届けしたいかという商品コンセプトを重要視しています」(西村氏)。

絞り込んだ候補を社長に提案し、最終的に商品化するか否かの決定が下される。ここでも、重視されるのはやはり、コンセプトだ。

なとりでは「おつまみ」の定義も、時代に応じて変えている。「初代の名取光男社長から2代目小一社長の途中までは、『珍味』という言葉をよく使っていました。珍味には水産加工品が多く、言葉そのものに『希少価値のある』という意味が含まれます。より幅広い消費者に向けて商品を出していくため、小一社長の時代に常温流通が可能で手軽につまめるものを『おつまみ』と定義しました。この『おつまみコンセプト』によって、社内では『珍味』と『おつまみ』を明確に区別し、おつまみの開発に注力するようになりました」

新商品開発のコツは「非日常体験」

3代目の三郎社長が打ち出したのが、それまでのおつまみコンセプトをさらに発展させた「新おつまみ宣言」だ。おいしくてつまみやすいものを「おつまみ」と定義している点は同じだが、違いは常温流通にこだわらないこと。「まろやかチータラ」など、チルドおつまみという新ジャンルの開拓に力を注いでいる。

「温度が高くなると、チーズは柔らかくなりますが、チルドにすることによって、クリームチーズのような柔らかいチーズでも『チーズ鱈』に加工できます。その結果、非常に滑らかな食感にもなります」

「チーズ鱈」をより低温のチルドで流通させるメリットを、西村氏はこう説明する。消費者が食品に対して求める価値も多様化するなか、なとりが重視しているのは「感性訴求価値」だ。

「おつまみである以上、おいしくて簡便なことがもちろんです。それに加えて新規性や意外性、共感性を商品に付加することで、消費者がそれらを受け止め、嬉しい、楽しい、心地よいなどの感覚へとつながり、これが消費者にとっての価値となります。これを我々は感性訴求価値と呼んでいます」と西村氏はいう。

感性訴求価値を持った商品を生むためには、開発者自身が感性豊かでなくてはならない。そのため、マーケティング・R&D開発本部のメンバーにはなるべく「非日常」を体験させる工夫を凝らしているという。

「例えば、行ったことのないようなジャンルの展覧会へ行くとか、訪れたことのない土地を旅行するとかでもいい。チーズの担当者が和食のセミナーに参加するなど、仕事に直接関係のないセミナーや講演会に出ることも奨励しています」

「チーズ鱈」がヒットした要因を改めて尋ねた。

ロングセラーの座を保つには、消費者を飽きさせず、魅力を社員一丸で磨き続けることが大事という

「まずはおいしくて簡便につまめるという、『チーズ鱈』自体の商品力がありました。次に、それを社員全員で育てていこうという気概があったと思います。時代に合わせた味の追及を積み重ねただけではなく、営業に携わる社員一人ひとりも工夫を凝らした営業活動をしてきました。品質重視はもちろんのこと、原材料の調達や製造に関係する現場も、生産性や効率性を追求するためにかなりの努力を重ねてきています。社員全員がこの製品を育てていこうとする気持ちで取り組んできたからこそ、ここまでのロングセラーになったのではないかと思います」

一時的にヒットしても、数年で消えていく商品は数多い。新商品を生むのは一瞬の「ひらめき」でも、それをロングセラーへと育てていくためには関係者のたゆまぬ努力が欠かせないということだ。

(ライター 曲沼美恵)

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