「金田一」と異なる明るさ 横溝正史の貴重な捕物帳

文化往来
2019/12/10 2:00
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横溝正史

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作家の横溝正史が執筆した捕物帳のうち、雑誌掲載のみで単行本未収録だったものを中心に編んだ貴重な作品集が出版された。「朝顔金太捕物帳」「左門捕物帳・鷺(さぎ)十郎捕物帳」「不知火捕物双紙」の計3冊で、収録作品は計40編。捕物帳を専門に扱う出版社、捕物出版が9月に刊行を始め、このほど完結した。

捕物帳は小説の一ジャンルで、江戸の与力や同心らが市中の事件を解決していく。横溝は14シリーズを手掛けたが、五大捕物帳の一つ「人形佐七」を除くと一般にあまり知られていない。出版芸術社、徳間書店、春陽堂などの出版社が断片的に単行本に採録してきたが、網羅するには至っていない。今回の出版で、横溝の捕物帳全作品が書籍で読めるようになった。

単行本未収録だった作品群について、捕物出版の長瀬博之氏は「後に『人形佐七』に改変・流用されているため、著者存命中はなかなか許可が下りなかったのでは」と推測する。例えば「不知火捕物双紙」の主人公「不知火甚左」は配下の部下とともに名前を変えて「佐七」に引き継がれた部分が多い。一方で「改作は愛読者や研究者の中では広く知られていて、ぜひ原作を読みたいというニーズもあった」と話す。

これまで単行本に収められなかった捕物帳を多く収めた

これまで単行本に収められなかった捕物帳を多く収めた

文芸評論家の縄田一男氏によると「それぞれの作品は発表にあたり、障害にあった」。太平洋戦争時の1944~45年に発表された「朝顔金太」の主人公は品行方正な人物として登場。退廃、エログロは禁止の風潮にあって明朗な作風に徹した。「左門捕物帳」は佐々木味津三「右門捕物帖」のパロディーとしてユーモラスに描かれたが、佐々木側からのクレームで没になったという。いずれも「金田一耕助」シリーズなどで見せるシリアスな作風とは対照的で明るい。

縄田氏は「横溝ファンにとっては垂涎(すいぜん)の3冊」だと指摘する。「人形佐七」をはじめ人気作のルーツや、横溝作品の意外な一面を知るうえでも貴重だろう。(村上由樹)

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