救急先進地・岐阜に変貌へ かつては「不毛の地」
中部医療最前線

2019/12/10 3:00
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飛騨山脈などの急峻(きゅうしゅん)な山々が連なり、多くの川が流れる岐阜県。こうした豊かな自然は、一分一秒を争う救急医療にとって大きなハードルだ。医師不足も相まって「救急不毛の地」と揶揄(やゆ)されてきたが、岐阜大学医学部付属病院(岐阜市)を中心にドクターカーやヘリを駆使し、手厚い受け入れ体制が整う先進県に生まれ変わりつつある。

ドクターヘリが岐阜県全域を30分でカバーする(岐阜市)

ドクターヘリが岐阜県全域を30分でカバーする(岐阜市)

「50代男性、木から転落して手足のしびれを訴えています」。11月上旬の昼すぎ、県南部の山あいに位置する御嵩町の消防本部から岐阜大病院のドクターヘリに出動要請が入った。待機していた医師と看護師が搭乗し、車で1時間以上かかる現場に、わずか10分程度で到着した。

公共交通機関が乏しい岐阜県では車が生活に欠かせないが、「川が多く(道幅の狭い)橋に車が集中する」(国土交通省岐阜国道事務所)ため、出退勤時間帯を中心に渋滞が発生しがちだ。救急車も巻き込まれるなど悪条件がそろう。

2002年に岐阜県で転倒・転落などの「不慮の事故」で亡くなった人は10万人あたり38.3人と、全国平均(30.6人)を上回っていた。10万人あたりの医師数も同約30人少ない161.7人にとどまり、かつては医師の間でからかい混じりに「岐阜で大けがをするな」との言葉が交わされるほどだったという。

こうした状況を打開しようと岐阜大病院が段階的な体制作りに着手。11年にはドクターヘリ1機を導入し、県全域を30分以内にカバーできるようになった。18年の出動件数は、日本航空医療学会がまとめた全国のドクターヘリの出動件数の中央値(427件)より多い約600件に上る。ヘリのおかげで救命できたケースは年50例ほどあるという。

さらに、全国有数の施設数を誇るゴルフ場のコース上やスキー場の駐車場にヘリを着陸できるよう協力も進めている。県ゴルフ連盟の担当者は「体調を崩しても搬送できる体制が整っていれば安心してプレーしてもらえる」と話す。近隣に住む救急患者の搬送に利用できるメリットもある。

18年度に全国初の試みとして始めた「ドクターカー」事業も注目を集める。岐阜市消防本部に待機させた医師を現場に直接派遣する仕組みで、通常より早い医療行為が可能だ。ドクターカーは一般車両を改造したもので、救急車と同様に上部に赤色灯がつけられ、緊急時はサイレンを鳴らしながら急行する。交通事故や人の活動が多い午後1時半~9時半に消防本部に待機。対象範囲は半径約15キロ圏内で、1日数件出動している。

岐阜大医学部の小倉真治教授は「重症患者の治療は1分早まると生存率が2%上がるとのデータもある。今後も精度を高め、多くの命を救いたい」と強調する。

こうした取り組みを支えるのが豊富な専門医だ。岐阜大病院の高次救命治療センターには約30人の救急科の医師が所属する。同じく山々が連なる長野県の信州大病院(松本市)の救急科より10人ほど多く、初期治療から集中治療、一般病棟まで一元的に治療を完結できるのが特長だ。

総務省消防庁によると、15年の岐阜県における救急患者の病院までの搬送時間は平均32.6分。全国平均より約7分も速く、成果につながっている。20年度の救急医学会総会は岐阜市で開催予定で、中部地方では45年ぶりだ。環境のハンディを乗り越え、矢継ぎ早の対策で理想を追い求める姿勢は、全国の救急医療のモデルとなりつつある。

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