「配偶者、勝手に離婚届」 外国人の相談相次ぐ
手続きは書類1枚、子どもと会えない事例も
配偶者が勝手に離婚届を出してしまった――。日本人と結婚した外国人が各地の相談窓口にこんな訴えをするケースが後を絶たない。署名を偽造されたり「子どもの学校の書類」などと言われて署名してしまったり。日本人側が一方的に自らを子どもの親権者とするケースもある。書類を提出すれば離婚できる制度は日本独特といい、支援団体は注意を呼びかける。(覧具雄人)

「私は何も悪いことをしていないのに、なぜ子どもと暮らせないのか」。兵庫県在住の40代の外国人女性は憤る。夫婦仲が悪化していた数年前、日本人の夫が女性の署名を偽造した離婚届を勝手に提出し、自らを子どもの親権者と記入していた。女性は夫と別居後、子どもと会うこともままならなくなった。
女性は離婚の無効確認などを求め提訴。家裁は今年11月の判決で、夫が署名を偽造したと認定して離婚届を無効とした。一方で、数年にわたり子どもが夫と同居してきた経緯を重視し、女性への子どもの引き渡しは認めなかった。
とよなか国際交流協会(大阪府豊中市)の相談員、吉嶋かおりさんによると、配偶者が勝手に離婚届を出したという相談は同協会だけで年間10件以上寄せられる。日本語の苦手な配偶者に「子どもの学校に提出する書類」などと嘘を言って署名させるケースもあるという。離婚届を提出された場合、日本人の配偶者としての在留資格を失い国外退去になる恐れもある。
人口動態統計によると、日本人と外国人の夫婦の離婚は2018年に約1万1千件。国際結婚や離婚のトラブルを多く手掛ける「ことのは総合法律事務所」(東京・渋谷)の芝池俊輝弁護士は「配偶者が勝手に離婚届を提出してしまったという話はよく聞く」と指摘する。日本語が苦手で訴訟などをためらう人も多く「泣き寝入りがほとんどのようだ」と話す。
トラブルが多発する背景には、夫婦の署名入りの離婚届を提出すれば離婚が認められるという日本独特の制度がある。立命館大の二宮周平教授(家族法)によると、海外では双方が裁判所や行政の窓口に出向くのが一般的。二宮教授は「紙切れ1枚で離婚できるのは日本だけ。世界で最も簡単に離婚できる国だ」と指摘する。
一方的な離婚を防ぐには「不受理申出」という手続きがある。市区町村の窓口に出向いて書類を提出しておけば、相手が勝手に離婚届を出しても受理されないが「制度を知らない人が多い」(二宮教授)。特に外国人はほとんど知らないのが実態という。
支援団体や弁護士、研究者らは15年に「協議離婚問題研究会(リコン・アラート)」を結成。各国語で日本の離婚制度を説明する動画やパンフレットを作成した。9月には支援者らに向けた「無断離婚対応マニュアル」を出版。不受理申出の手続きや調停、訴訟の進め方などを説明している。今月7日に豊中市で出版記念シンポジウムを開く。問い合わせは、とよなか国際交流協会電話06・6843・4343。