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【ニューヨーク=後藤達也】世界の銀行収益で米欧の格差が広がっている。米銀は好景気を追い風に収益を伸ばす。JPモルガン・チェースを筆頭に新規事業にも乗り出している。一方、欧州銀は金融危機の痛手を引きずる。景気減速や低金利も収益を下押しし、事業は縮小気味。米銀の利益は欧州銀の2倍を超え、株価も明暗が鮮明だ。
金融規制当局が「G-SIBs」と呼ぶ主要金融機関を対象にファクトセットのデータをもとに集計した。米銀8行の2019年の純利益は1201億ドル(約13兆円)で金融危機前の最高だった06年(863億ドル)を4割近く上回る見通し。一方、欧州銀10行の19年の純利益は589億ドルと06年(962億ドル)より4割ほど少ない水準にとどまりそうだ。
背景の1つが景気の格差だ。米景気の拡大は史上最長の11年目に入り、失業率は50年ぶりの低さ。米中対立で企業の景況感は悪化しているが、「個人向けを中心に事業環境は力強い」(ウェルズ・ファーゴのアレン・パーカー最高経営責任者=CEO)。住宅ローンが伸び、クレジットカード関連の収入も好調だ。
特に、最大手JPモルガン・チェースの好調が際立つ。19年の純利益は約340億ドルと過去最高を更新する見通しで、自己資本利益率(ROE)も14%とここ数年、右肩上がりだ。米国事業が収益の約8割を占め、個人向けのほか法人向けや市場部門がバランスよく収益を積み上げている。
欧州銀は対照的に苦戦が続く。金融危機の負の処理を引きずるとともに、ユーロ危機や低金利の長期化、英国の欧州連合(EU)離脱を巡る混乱など、逆風が重なっているためだ。欧州中央銀行(ECB)は9月に利下げに踏み切り、利ざやがさらに圧迫されている。
金融危機前に欧州を代表する銀行だったドイツ銀行は19年に最終赤字となる見通しで、人員削減などの経営再建に追い込まれている。金融規制の強化の影響もあって、UBSやバークレイズなども危機以降、事業を縮小してきた。米ウォール街では「欧州銀の勢力は10年前と比べ、数分の1になった」との声も出ている。総資産も米銀が増加傾向にあるのに対して、欧州銀では縮小が目立つ。
株式市場の評価も二極化している。「G-SIBs」に占める米銀の時価総額のシェアは足元で44%と右肩上がりで、過半も視野に入る。一方、欧州銀は金融危機前に米銀を上回っていたが、今では20%に落ち込んだ。事業環境の厳しさに加え、フィンテックや人工知能(AI)関連の投資でも米銀に後れをとり、「収益回復のシナリオを描きにくい」(投資信託)。
ただ、米銀の好調もどこまで続くかは不透明だ。欧州ほどではないが、金利はこの1年で大きく下がり、利ざやは圧迫されている。フィンテックの興隆で、業界を越えた競争激化も起こっている。エリザベス・ウォーレン氏など米民主党の大統領候補は米金融業界への批判を強めており、選挙次第で規制が強まる可能性もある。