アリババ、アマゾン超えに壁(The Economist)

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2019/12/2 23:00
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物事を合理的に考える人は、中国の電子商取引(EC)大手アリババ集団が、中国で最も幸運とされる数字「八」にこだわっていることを冷静にみた方がいい。

中国のアリババは時価総額で米アマゾンと肩を並べることを狙うが、中国政府との距離感がネックになりそうだ=ロイター

中国のアリババは時価総額で米アマゾンと肩を並べることを狙うが、中国政府との距離感がネックになりそうだ=ロイター

同社は11月26日、香港証券取引所に上場し、880億香港ドル(約1兆2300億円)を調達した。株式コードは9988だ。「88」は「ババ」と同じ発音なだけでなく、幸運な数字が重なっている。株価も取引が始まるや公開価格の176香港ドルから188香港ドルに上がった。アリババは幸運に恵まれたようだ。

香港取引所の近くの畢打街は、19世紀には株式仲買人が集まる場所だったが、今年6月から始まった反中抗議デモではデモ参加者らと警察が激しく衝突している。催涙ガスのにおいが取引所の中まで漂ってくる時もあった。だが11月24日の区議会議員選挙で民主派が圧勝した後、混乱は一時的だが収まっている(編集注、11月30日にも12月1日にも、デモ隊は警官隊と衝突している)。

■香港市場でアリババが得た3つのメリット

運を別にしても、アリババは上場により3つのメリットを得た。

まず、抗議デモが続く中、香港の金融センターとしての将来性を示したことで中国政府に対して点数を稼いだ。同社は、2014年にニューヨーク証券取引所に上場し、新規公開に伴う調達資金としては史上最高額を記録したが、最近は米中貿易摩擦に起因する混乱の影響を受けてきた。だが香港上場で米国でのリスクをある程度ヘッジできる。第3のメリットは、中国を貿易や地政学的緊張という観点からは捉えないかもしれないアジアの機関投資家にとって、アリババ株を買いやすくなる。近いうちに香港と中国本土の株式相互取引を通じて、上海や深圳でも売買が可能になり、中国本土の投資家にとっても利便性が高まる。

■時価総額でアマゾンと肩を並たいとの野望

アリババは今回、長年の中国における競合で、同じく香港に上場している騰訊控股(テンセント)との株価の差を縮めるという勝利も収めたが、さらなる野望を抱いている。つまり、アリババの経営陣は、アリババのEC市場における最大のライバルである米アマゾン・ドット・コムと、時価総額で同等の評価を受けるべきだと考えているということだ。

アマゾンの時価総額8900億ドル(約97兆5000億円)に対し、アリババのそれは5200億ドルにすぎない。また、アマゾンの株価収益率(PER)は約67倍と、アリババの倍以上高い。この差を縮めるには、中国政府を味方につけつつ、海外投資家を呼び込むにあたっては中国企業であることをあまり前面に出さない、という難しいかじ取りが必要となる。

アリババの目標達成能力を過小評価してはいけないが、同社について最も強気な見方をするアナリストたちでさえ、アマゾンを時価総額で抜くのは相当ハードルの高い目標だと言う。

両社のビジネスモデルは異なる。アリババは通販サイト「淘宝網(タオバオ)」や「天猫(Tモール)」など出店者と消費者をつなげるプラットフォームを提供している。利益の大半は出店者が検索結果の上位に自分の商品が表示されるようアリババに支払う手数料だ。アマゾンと違い、自社商品を販売しないため在庫や倉庫を持たずにすみ、利益率は高くなる。だが資産運用会社アライアンス・バーンスタインのデービッド・ダイ氏は、アリババのクラウドサービス事業は中国では最大だが、時価総額にはほとんど貢献していないと指摘する。

一方、アマゾンのクラウドサービス事業「アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)」は金脈で、同社の時価総額の約半分はAWSによるという。またアマゾンの海外での年間売上高が700億ドルに達するのに対し、アリババのそれは100億ドルに満たない。

9月に引退したカリスマ創業者、馬雲(ジャック・マー)氏からアリババの経営を引き継いだ張勇(ダニエル・チャン)会長兼最高経営責任者(CEO)は、自社が持つ膨大なデータを活用することでさらなる価値を生み出し、アリババを変革させ、企業価値を上げようとしている。

■現実は依然として中国政府の意のまま

中国ではおよそ2人に1人はインターネットで買い物をしており、そのネット販売を急成長させているのがアリババ傘下の電子決済サービス「支付宝(アリペイ)」だ。その利用者は中国だけで9億人に上る。アリババはアリペイを展開するアント・フィナンシャルの株式の33%を保有しており、このアリペイが投資家にとってアリババの魅力を高める可能性がある。

しかし、これほど影響力を持つアリババも中国政府の意のままだ。同社の株価は14年の米国上場後に上昇したが、中国の規制当局が偽物を販売していると同社を公に非難したのを機に急落した。

また、アリペイと、テンセントの電子決済サービス「テンペイ」が国有銀行が独占する分野に進出すると、習近平政権が怒ってこの動きを押し戻した(編集注、両社が15年にネット専業銀行を立ち上げた際、当局が両社に預金保護を徹底させる狙いから規制をかけたことを指摘していると思われる)。

中国当局は現在、アリババが公正な競争を阻害しているとの疑いを調査している。特に問題視しているのが出店者に他社プラットフォームへの出店を禁じる契約だ。中国家電メーカーの格蘭仕(ギャランツ)と、アリババの競合である中国EC大手の京東商城(JDドット・コム)はこのほど、市場での有利な地位を乱用しているとしてTモールを提訴した。

今年4月には時価総額430億ドルで、じりじりとアリババを追い上げている新興ECの●(てへんに併のつくり)多多(ピンドゥオドゥオ)の創業者黄●(やまへんに争)(コリン・ファン)氏が、アリババが市場で「力にものをいわせて独占している」と警告した。アリババはこの問題を「根拠もなく大騒ぎしている」として一蹴し、「取引を1社に絞るのは、ビジネスの世界では普通のこと」だと主張した。

11月11日の「独身の日」セールの直前には、規制当局者がアリババの本社がある浙江省杭州で開かれたフォーラムで、出席した電子商取引各社に対し、他社への出店を禁じる契約は違法だと伝えた。当局がその気になれば、いくらでも規制を厳しくできる、ということだ。

■中国政府に気に入られるほど難しい海外展開

今のところアリババは当局による圧力について楽観しているようだ。同社は、中国の巨大IT(情報技術)各社で市場を独占するようなことはしていないと主張する。アリババは、テンセントおよび競合他社と激しい戦いを常に繰り広げている。しかし中国政府のお気に入りであり続けようとすれば、世界規模で事業展開するにあたっては、マイナスになるかもしれない。

アリババは東南アジアには進出したが、アナリストらは同社が欧米でアマゾンと張り合えるとはみていない。特にクラウドサービス事業では、中国政府がそのデータにアクセスする懸念があるとして、苦戦するとみている(中国外の利用者のデータの大半は中国以外で保管されているのだが)。香港ですら反中国感情が再び高まれば厳しい立場に置かれる可能性がある。

アリババは自らの努力で運を引き寄せてきた。20年前の創業以来、中国政府と戦いながら、国内では海外勢との競争に勝ち、ECに革命的変化をもたらした。今年は中国内陸部でのサービスを拡大してピンドゥオドゥオなどによる猛攻に対抗してきた。

技術的観点からみればアリババはアマゾンと肩を並べるが、時価総額の差は中国企業がいかに低く評価されているかを示している。アリババが本当に幸運なら、今回の香港上場で状況が少し変わるかもしれない。

(c)2019 The Economist Newspaper Limited. November 30, 2019 All rights reserved.

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