リーグ随一の得点力 B1川崎・ファジーカス(上)
ファジーカス・ニック(川崎)の走る姿を初めて見た者は、一瞬戸惑いを覚えるかもしれない。肩を左右に大きく揺らし、どこか故障を抱えてプレーしているのではないかと。約10年前に左足首を痛め、無理を重ねたことによる後遺症だ。

米プロNBAも経験した34歳は今季で川崎8季目。昨春に日本国籍を取得し、日本代表でも活躍すると同じ質問を受ける機会がぐんと増えた。「確かに足の問題はあるけれど、そんなに気にすることかい?」
本人がさらりと話す通り、試合になればその圧倒的な得点力で見る者をうならせる。210センチの長身を生かしたゴール下や3点シュート。あらゆる場所からリングを射抜く正確性はBリーグ随一だ。
Bリーグ1季目には1試合平均27.1点で得点王とMVPを獲得。フィールドゴールのシュート成功率は3季続けて50%を超えた。今季も同21.4点で中地区を独走するチームをけん引。日本バスケ界で歴代最高の帰化選手。そんな評価も決して過大ではない。
「年齢は重ねたけれど、僕がボールを触ればまだ『良いこと』は起こっている。僕がいれば絶対に勝つチャンスがあると思ってほしい」。穏やかな表情の裏に強烈な自負心がのぞく。
■「誰よりも練習」で自信育む
精緻なシュートタッチの中でも自他共に「無敵」と認めるのがフローターだ。ドリブルやターンの流れからふわりと浮かしたボールは、相手の伸ばした手が届かない放物線を描いて次々とリングに吸い込まれる。
「ゴール付近ならナックルボールみたいに無回転に打つ。そうするとリングに当たっても柔らかく落ちてくれる」。高成功率の理由を強いて挙げるならリリース時の工夫となるが、あらゆるシュートに通底するのは「試合で自信が持てるよう誰よりも練習すること」。全体練習とは別に毎日何百本と打ち続けてきた積み重ねをきっちり結果につなげてきたから、月並みな回答にも強い説得力がある。
「2本続けて3点シュートを外したら切り上げる」。そう決めたものの連続失敗がなく、やめるにやめられなかったという日もある。「(緊迫する)最後の場面でも、ゴールの高さは練習場と同じ10フィート(305センチ)。いつも通りやるだけ」。平常心でチームを救うシュートを何度も決めてきた。
前身のNBL・東芝時代に2度のリーグ制覇を経験。「チームに最初に来た時に全員が僕に助けを求めていた。そこから僕の楽しみが始まり、チームの自信にもつながった」。来日から丸6年になろうとする頃、その自信がどん底にあった日本代表をもよみがえらせることになる。=敬称略
(鱸正人)
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