北朝鮮船に目を光らせろ 全国初の監視部隊
映像と写真でルポ

青森海上保安部(青森市)の「青森機動監視隊」は同県鰺ケ沢町役場を拠点に活動する。隊員は海上保安庁所属の約10人。車で県内各地を移動し、陸上から木造船の漂着がないか監視する。住民や漁業関係者からの通報があれば現場に急行し、不審船を調査する。

漂着船は倍増

なぜ増加?

北朝鮮の経済事情に詳しい、環日本海経済研究所の三村光弘主任研究員はこう指摘する。「北朝鮮は近年、沿岸部の漁業権を中国に売却した。漁師は装備の乏しい木造船で、命の危険を冒して沖合へ漁に出ざるを得なくなっているのも一因だ」
「こんなボロボロな船で荒海に繰り出すとは」


人けのない浜におよそ全長14メートル、幅3メートルの木造船が漂着していた。黒いタールが塗られた船体にはハングル文字がくっきり。隊の関係者が思わずつぶやく。「こんな船が海上で高波にぶつかったらひとたまりもない。自分だったら絶対に乗りたくない」



北朝鮮の船員が違法に上陸すれば地域の安全を脅かす。隊員らは船内を調べるだけでなく、周囲にたき火のあとがないかなど目をこらす。夜間に気温が氷点下になるため、その痕跡は貴重な手がかりになる。


聞き込みも入念に

日本海がしける11月から12月にかけて木造船の漂着は増え、ほぼ毎日のように通報があるという。青森県深浦町に住む熊谷まり子さん(66)は「小学生の孫がいるので、人が上陸したらと考えると怖い。海保が監視してくれるのは心強い」と話す。隊員の担当地域は日本海沿岸の6市町で、南北の海岸線の総延長は200キロ弱に及ぶ。

船の撤去や処分は誰が?

木造船の撤去作業は自治体が負う。鰺ケ沢町役場の担当者は「町の予算は多くないため、費用は県の支援に頼らざるを得ない」とこぼす。補助金がおりて撤去するまで2、3カ月かかることもあるという。小さな自治体に大きな負担がのしかかる。
「死活問題だ」

山形県の酒田港はスルメイカの漁獲量で全国トップクラス。3年前は約2300トンあったが、今年は10分の1以下の220トンまで落ち込んでいるという。漁業関係者は「海の環境変化など他にも要因は考えられるが、ここまで減っては死活問題。また海上で我々の目の前で漁をするため、万が一網がこちらの船に絡まったら転覆する。命にかかわる事態だ」と怒りをあらわにする。

取材・藤井凱、樋口慧 編集・鈴木輝良