弾き語りの異才・折坂悠太「小さな物語」で社会うがつ

文化往来
2019/12/4 2:00
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「街中にいても、社会から隔離され、阻害され、差別されている人たちが増えている。ひどい時代だけれど、そこで大衆を代表して怒りを歌っても何にもならない。一人ひとりに寄り添って『小さな物語』をすくい上げ『私』を歌っていくことが大切だと思う。フォークソングはエモーショナルだと思われているけれど、実は結構ドライで黙示録みたいなもの。怒りでも悲しみでもなく、日常をただ観察して歌うのがフォークソングだと思う」

ニーナ・シモン、ヴァン・モリソン、ジョアン・ジルベルトら「音楽にそのものが表れているミュージシャンが好き」だと語る折坂

ニーナ・シモン、ヴァン・モリソン、ジョアン・ジルベルトら「音楽にそのものが表れているミュージシャンが好き」だと語る折坂

そんな透徹した音楽観を語るのは、2014年にデビューしたシンガー・ソングライターの折坂悠太(30)だ。18年10月に出した2作目のアルバム「平成」が、今年になって全国のCDショップ店員が投票する「CDショップ大賞」に選ばれた。7~9月に放送されたフジテレビ系月9ドラマ「監察医 朝顔」の主題歌を手掛けるなど、飛躍のきっかけをつかんだ19年だったといえる。

ギターの弾き語りを中心にした演奏・歌唱スタイルは国内外の民族音楽、フォーク、ブルース、ボサノバなどを融通無碍(むげ)に混交し、平成生まれの新世代の中で異彩を放つ。自身が「お手本はない」というように、浪曲や講談のような口上、語りも交えたステージは独自の世界だ。

決して、一人の世界で自己完結しているわけではない。松井文、夜久一と組んだ3人組ユニット「のろしレコード」としても活動する。ブルースやフォークといった素養は3人に共通するが「自分ではどうしようもないような個性は、一人でやるより、誰かと一緒にやった方が色濃く出てくる」と折坂。韓国人シンガー・ソングライターのイ・ラン、音楽家の青葉市子ら、同世代の様々なミュージシャンと交流を結び、共演を重ねてきた。「立場も、音楽性も違うけれど、同じものを別の角度から見て歌っているという意識がある。仲良くはあるけれど、ぶつかり合ったときにこそ、たがいの人間そのもの、どうしようもない部分が出てくる」

「子どもたちの状況は毎年変わっていて、一人ひとりの子どもに起きていることが、今社会で起こっていることとつながっている」と語る折坂

「子どもたちの状況は毎年変わっていて、一人ひとりの子どもに起きていることが、今社会で起こっていることとつながっている」と語る折坂

青葉とは今年、岡山県瀬戸内市にあるハンセン病療養所「国立療養所長島愛生園」を一緒に訪れた。「かつて国がとったハンセン病患者への強制的な隔離政策は、僕らにとっても決して過去の話ではないと感じた。そういった過去の差別が今姿を変えて存在し、精神的に孤立した人たちが街中にいるのだろう」と危機感をあらわにする。バンドGEZANのボーカル、マヒトゥ・ザ・ピーポーらとも同じような話をするといい「そういった時代への危機感を感じていないアーティストは僕の周りにはいない」と言い切る。

幼少期に父親の仕事のため、ロシアやイランで暮らした経験がある。帰国した後、不登校になり、フリースクールに通った。今でもそのフリースクールには顔を出し、折坂が脚本を書いて、子どもたちと一緒に毎年演劇を上演している。「子どもたちの状況は毎年変わっていて、一人ひとりの子どもに起きていることが、今社会で起こっていることとつながっている」と指摘する。自分がかつてそうだったように、社会で孤独や疎外感を感じる人への共感が創作の原動力の一つだ。

「今はやっている音楽は歌もうまいし、リズムも繊細だし、完成度はすごく高い。でもその人の恥ずかしい部分までが出てしまっている音楽はないと思う。自分はそういう音楽にドキドキする。そんな音楽をやっていきたい」と話す。

(多田明)

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