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高畑充希『同期のサクラ』に考える上司と部下のあり方

高畑充希さん主演の連続ドラマ『同期のサクラ』(日本テレビ系)が好調です。このドラマは、高畑さんが演じる正しさを追求するがあまりに忖度(そんたく)ができない主人公・北野桜(サクラ)と、建設会社に同期入社した4人を始め、周囲の人々との10年間にわたるふれあいや葛藤を描いた物語です。

(イラスト:川崎タカオ)

サクラは「故郷に橋をかけたい」という夢を掲げているものの、曲がったことが許せない性格が災いし、希望の土木課には配属されず、人事部から関連会社に出向させられてしまいます。そんなサクラの一本気な性格を目の当たりにしてきた同期たちは、自分にはないサクラの実直さを尊敬し始め、次第に固い絆で結ばれるようになります。

自分にウソをつかずに生きられるか

ドラマの前半は、物語の進展とともに、サクラの味方が一人ずつ増えていく展開となっており、視聴者からは「なんだか泣けてくる」「こんな仲間っていいな」といった感想の声も上がっていました。

なかでも、ネット上で話題となっていたのが、サクラと女性上司・すみれとの関係が変化した第6話のエピソードです。この回では、相武紗季さんが演じる仕事と子育ての両立に追われる人事課のすみれが、新たなセミナープロジェクトのリーダーに任命され、奮闘する姿が描かれました。

この回のクライマックスですみれは、会社の社長の前で、組織が抱える理不尽さや不当さに対する意見を堂々と述べます。それに対し、社長からは「そんなことを言ってどうなるかわかってるのか!」と脅されるなか、「これからどんなに辛いことがあっても自分にウソをつかずに生きていこうという決心ができました。娘や後輩のサクラを見習って」と宣言します。結果、すみれは社史編さん室に異動させられてしまいますが、出向先で仕事をするサクラに対して、次のように励まします。

「私があなたの10年後だとしたら、どう思う? 私みたいになりたい? 無理してウソつかなくていい。いい? あなたは私みたいになっては絶対にだめ。あなたは10年後もその先も、ずっとそのままでいなさい。私はもうあなたみたいに生きられないから、あなたのことを応援する。これからも仕事で辛いことがたくさんある。女だから結婚して出産するかもしれない。私みたいに仕事と家族の間で悩むこともあるかもしれない。そんなときは私を頼りなさい。どんなことでも相談にのるから。そのかわり何があってもくじけないで。自分の生き方を貫き通しなさい。北野桜」

部下の生き方を尊重してくれる上司の存在

すみれのこの台詞に対し、視聴者からは「カッコいい。部下を守ってくれる上司」「理想的な上司と部下の関係だ」などと言った称賛の声が上がっていました。

この場面は、すみれが、自分を貫くサクラの姿勢を尊重し、すみれ自身の仕事との向き合い方や生き方を見つめ直した瞬間だったとも言えます。

実社会において、もしサクラのように自分を貫き通し、融通の利かない部下がいたら、上司にとっては扱いにくい存在になることでしょう。実際、ドラマの中で、すみれ自身も当初は、サクラの頑固さと忖度できない性格をやっかいに思っていましたし、チームや組織においては妥協することも必要であると説得する場面も多々ありました。

上司として、部下の至らない部分やマイナス面を注意し、指導することに注力していたのです。次第に、すみれはサクラの特性をマイナス面だけで捉えるべきではないのではないかということに気づきます。サクラの正しいと思ったことを真っすぐに貫く姿勢について、融通が利かず、組織にとって不利益な存在として捉えるのではなく、目先の利益だけでなく、長期的な視点で本来の意義や価値を見出すためには、正しさを貫くサクラの姿勢こそが組織においても社会においても大切なのではないかと……。

部下の性質について、マイナスを探す視点からみつめるのではなく、プラスを探す視点からみつめるようになったのです。

相手の良い点をどれだけ見いだせるか

日本の社会は、学生時代から減点方式が採用されていることもあり、社会人になってからも失敗しないためリスクを負わずに、周囲に同調しながら組織内に馴染んでこそ、まっとうな会社員であるという常識が浸透し続けてきました。

そうした経験を積んできたなかで、人はどうしても、それまでの経験や過去の成功体験で人物や物事を捉えてしまい、新たな視点を加えたり、別の角度から見たりすることは苦手です。これまでの常識から外れ、視点を変える、見方を変えるという転換は、キャリアや経験を重ねれば重ねるほど、実現しにくいものなのです。

上司と部下の関係であっても、自分にない利点や魅力が備わっている人物に出会ったのであれば、その良さを素直に認め、尊重し、その能力が上手く伸びる方向へと導く……。そのような牽引力のある人物こそが理想的な上司と言えるのかもしれません。

『同期のサクラ』の中でのすみれは、その上司力を部下であるサクラとの出会いによって引き出された部分もあり、すみれとサクラの関係は、まさに互いに相乗効果を発揮させる関係性であると言えるのでしょう。

男性社会の同調圧力の強さに屈してしまいがち

実際は、このドラマの舞台である建設会社がそうであるように、その理想的な上司と部下の関係も、男性中心の組織における同調圧力に屈してしまい、左遷という結果に陥ってしまいます。

ですが、時代は変わりつつあります。大企業がずっと安泰とは言えず、企業も社会環境へ変化に適応する力が重要とされる時代になりました。目先の利益や組織における政治力ばかりに注力し、自身が本当になすべきことや、社会が必要としていることに気づけない人物は、〇〇会社の会社員という属性を失った時に、何も残るものはありません。

一方で、このドラマのすみれを見ていると、仮にこの建設会社が倒産しても、自身の人生を生きるために、きっと別の道を切り開いていく力があるのだろうなぁ……と感じます。そして、そんな上司に見守られ続けていたら、部下であるサクラの道も同期の仲間の支えを感じつつ、きっと開けていくのではないかと……。そう信じて、このドラマの後半を見ていきたいと思います。

そして、実社会においても閉鎖的な組織のあり方が少しずつ変化していくなかで、組織内での立ち回り方ばかりに注力することなく、広い視野を持つマインドチェンジこそがこれからの時代には必要であることを、一人ひとりが意識していけたらと思います。

鈴木ともみ
 経済キャスター、ファイナンシャル・プランナー。日本記者クラブ会員。多様性キャリア研究所副所長。テレビ、ラジオ、各種シンポジウムへの出演のほか、雑誌やWeb(ニュースサイト)にてコラムを連載。主な著書に『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)。株式市況番組『東京マーケットワイド』(東京MX・三重TV・ストックボイス)キャスターとしても活動中。

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