「光って身を隠す」深海魚ハダカイワシ
日経サイエンス

コラム(テクノロジー)
科学&新技術
2019/11/30 2:00
保存
共有
印刷
その他

日経サイエンス

深海と聞いて思い浮かべるのは、ほとんど光の届かない暗闇の世界だ。実はそこに、様々な種類の光る魚たちが生息している。「ハダカイワシ」もそんな魚の一種。腹がぽつぽつとスポット状に光る不思議な魚だ。2019年11月、中部大学の大場裕一教授らは彼らが光る仕組みについての論文を発表した。

網にかかるとうろこや皮膚がはがれた状態で水揚げされることから「ハダカイワシ」の名がついた。イワシとあるがイワシの仲間ではない。腹側にスポット状に並ぶ黒い点が発光器(中部大学の大場裕一教授提供)

網にかかるとうろこや皮膚がはがれた状態で水揚げされることから「ハダカイワシ」の名がついた。イワシとあるがイワシの仲間ではない。腹側にスポット状に並ぶ黒い点が発光器(中部大学の大場裕一教授提供)

なぜ彼らは暗闇で光るのだろうか。目立ちたいから? 実はその逆で、隠れるために光っている。この現象は「カウンターイルミネーション」と呼ばれ、種を超えて様々な光る魚で観察されている。

深海はほぼ真っ暗とはいえ、わずかに太陽光が差し込んでいる。ハダカイワシを食べる捕食者が海底から頭上を見ると、太陽光でほのかに明るい海をバックにして泳ぐハダカイワシの影が浮かび上がる。これでは見つかってしまうが、腹を光らせれば影をかき消すことが可能だ。深海に暮らす生物の多くは視力が弱く、影が薄くなるだけで魚の動きを追いづらくなる。まさに「光る隠れみの」だ。

だが、この隠れみのにも欠点がある。斜め方向に光が漏れてしまうと、今度は一転、真っ暗な海の中で目立ってしまうのだ。そこでハダカイワシは斜め下から見上げた場合には発光が見えないように、自分の真下にだけ光を放つ仕組みを磨き上げた。

海底から捕食者が見上げると、かすかな太陽光をバックに魚の影が見える。上の絵を目を細めて眺めると、右の方が見えにくい(1)。ただ、発光は真下に向ける必要がある(2)(画像は日経サイエンスより)

海底から捕食者が見上げると、かすかな太陽光をバックに魚の影が見える。上の絵を目を細めて眺めると、右の方が見えにくい(1)。ただ、発光は真下に向ける必要がある(2)(画像は日経サイエンスより)

大場教授らはハダカイワシの腹に並ぶ発光のための特殊な器官「発光器」の構造を解析した。発光器の中には鏡のような組織が存在する。たんぱく質の酵素反応で光る「発光細胞」から出た光は、一度発光器の中で反射してから出て行く仕組みになっていた。発光細胞から出た光は電球のように満遍なく様々な方向を向いているが、反射させる角度を少しずつ変えることで狙った方向に光線の向きをそろえていた。実に巧妙な仕掛けだ。

実は、ハダカイワシ以外の魚たちもユニークな発光器を持っている。カラスザメと呼ぶ深海性のサメのなかには、発光器を自分自身に向け、自分の体のトゲをライトアップするものがいる。これは、捕食者へのアピールだと考えられている。身を守るためではなく、仲間とのコミュニケーションに光を使う魚もいる。たとえばヒカリキンメダイは目の下に大きな発光器があり、光を点滅させる。

海の中では魚にイカ、エビ、二枚貝。陸上を見渡せばホタルにキノコ。実は地球上にはたくさんの発光生物がいる。その多くは光る仕組みや、光る仕組みを獲得した過程が謎に包まれている。ハダカイワシだけでなく、深海から陸上まで様々な発光生物の研究に取り組む大場教授は「発光生物を調べることは、別の角度から進化をみることにつながる」と話す。不思議に満ちた発光生物たちの生態は、まだまだ私たちを楽しませてくれそうだ。(日経サイエンス編集部 出村政彬)

日経サイエンス2020年1月号(特集:AI 人工知能から人工知性へ/深海生物)

著者 :
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,466円 (税込み)

保存
共有
印刷
その他

電子版トップ



[PR]