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トレセン開設半世紀、突きつけられる新たな課題

2019/11/30 3:00
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この11月、日本中央競馬会(JRA)の西日本の調教拠点、栗東トレーニング・センター(トレセン、滋賀県栗東市)の開業からちょうど半世紀を迎えた。50年の間には坂路などの優れた調教コースが設けられ、関西馬の成績が向上。関東馬との力関係が逆転し、「西高東低」といわれる状況が固定化された。ただ、近年は競馬を取り巻く環境も激変。トレセン外に自前の調教施設を持つ大手牧場が力を持ち、トレセン内の厩舎とのパワーバランスが牧場優位に傾く。それに伴い新たな課題も出てきた。

1985年開設の坂路が「西高東低」の原動力となった(滋賀県栗東市)

1985年開設の坂路が「西高東低」の原動力となった(滋賀県栗東市)

栗東トレセンは関東の美浦トレセン(茨城県美浦村)よりも9年早く開業し、日本のトレセンの先駆けとなった。栗東トレセン開業前は、各競馬場に調教師が厩舎を構え、そこで調教をしながら馬をレースに出していた。競馬場周辺の都市化が進み、競走馬の飼育に適さなくなり、郊外にトレセンを設けて各競馬場の厩舎を集約。トレセンで調教し、レース前に競馬場に輸送する方式に変わった。

坂路、交通の要衝…、栗東の優位性

栗東トレセンには中京、阪神、京都の各競馬場にあった厩舎が集められた。第1陣として1969年8月に中京の厩舎が栗東へ移動。阪神からの第2陣が移ってきた11月に開場式を行い、70年12月の京都の厩舎の到着で集約が完了した。中京組がやって来た当初は調教コースの馬場の状態が悪く、苦労もあったという。

栗東移転後の関西馬は東と比べて劣勢だった。転機は85年の坂路の開設。「最後の直線に坂のある東京、中山の両競馬場で鍛えられるから関東馬が強いのではないか」と、70年代の関西の名馬テンポイントを管理した調教師、故小川佐助氏が指摘し始めたことがきっかけだった。まずは栗東トレセン内にある5つの周回コースのうち、一番外側にあるダートのコースにゆるやかな坂を造ったが、その後に本格的な坂路を建設することになった。

当初は394メートルとコース長が短く、使い勝手が悪かったため、様子見の調教師も多かった。ただ、坂路調教馬が成績を上げはじめ、コースも延伸されると利用が増えた。一方の関東は78年、坂のある競馬場から、坂のない美浦トレセンへと移動。美浦では93年まで坂路が開設されなかった。東西逆転がまさにこの期間で、88年に西の勝利数(1682勝)が初めて東(1636勝)を上回った。

一度逆転すると、差は広がった。美浦に坂路ができたとはいえ、山あいに立地し、自然の地形を生かした坂路を造れた栗東と比べると、高低差が小さく、調教の効果が乏しい。施設の差が大きくなると馬主も関西に素質馬を預けるようになった。加えて、厩舎業務の効率化も関西は積極的だった。馬の調教と世話をする人が分かれていたのを、担当馬の調教と世話を1人で手掛ける手法にいち早く変えた。

栗東の交通の便の良さも東西格差を増幅させた。名神高速道路の栗東インターチェンジ(IC)がすぐ近くにあり、競走馬の輸送がしやすい。そもそも栗東は古くから交通の要衝。東海道と中山道という江戸時代の五街道のうちの2つが市内を通り、隣の滋賀県草津市にある草津宿で両街道が合流していた。63年に日本初の高速道路が開通したのも名神高速の栗東IC―尼崎IC(兵庫県尼崎市)間。これを街の発展につなげようとした栗東町(当時)はトレセン誘致に積極的だった。

立地選定に難航し、開業が遅れた関東に対し、「交通至便で自然豊か」という競走馬の飼育に適した土地をスムーズに見つけられたのは幸運だった。こうしたことが相まって88年以降、西が東を圧倒し続けた。

ただ、最近はトレセン外に調教施設をもつ大手牧場が力をつけ、競馬運営の根幹に難題を突きつける。

中央競馬は「内厩制」という仕組みを取る。調教師はJRAから免許を受けたうえで、美浦や栗東の馬房を貸してもらい、厩舎を開業する。競走馬はトレセン外の牧場などから直接、中央競馬のレースに出走することはできず、レース10日前(出走経験のない馬は15日前)にはJRAの調教師の運営する厩舎に入らなければならない。

馬の調整、主導権握る牧場

大きな理由の一つが公正の確保だ。調教師や騎手、調教助手など、競走馬に関わる人をトレセン内に囲い込むことで、不正を防ぐ狙いがある。

だが、大手牧場はトレセン近郊に充実した調教施設を備えた牧場を開設し、レースの直前まで馬を調整させるようになった。トレセンに馬を送り込む期間は格段に短くなり、出走するレースや騎手の選択はもちろん、調教の進め方などの主導権も牧場が握るようになってきた。特にノーザンファーム(F)は系列のクラブ法人も複数あり、こうした取り組みを進めやすい。東西の格差問題は内厩制の範囲の中で発生したのに対し、この問題は"内厩制の骨抜き"ともいえる話で、意味合いが全く異なる。

牧場の力を見せつける象徴的な出来事が2019年の凱旋門賞(G1、フランス)遠征で起きた。美浦所属の遠征馬、フィエールマン(牡4)とブラストワンピース(同)の調教にノーザンFの従業員が騎乗するなど、牧場が調整の主導権を握った。いずれもノーザンFの生産馬で系列のクラブ法人の所有馬。輸出検疫もノーザンF天栄(福島県天栄村)で行われた。過去の海外遠征ではトレセンなどJRAの施設で検疫を受け、現地でも厩舎の調教助手などが調整にあたるケースがほとんどだった。

凱旋門賞で11着だったブラストワンピースの調教ではノーザンFの従業員が騎乗した=共同

凱旋門賞で11着だったブラストワンピースの調教ではノーザンFの従業員が騎乗した=共同

現在は海外競馬の馬券もJRAが発売する。今回の凱旋門賞は馬券発売対象のレースに、中央所属馬がJRAの施設を通さずに出走し、調整も民間牧場主導で行われたことになる。公正性の点で問題が無いとはいえない。

騎手や調教師、調教助手、厩務員は馬券を購入できない。騎手の騎乗馬を調整する「騎乗依頼仲介者」も18年から馬券を買えなくなった。一方、トレセン外の牧場で調教に騎乗する人はこうした規制がない。今回の凱旋門賞の件に対し、トレセンの厩舎関係者から「公正な競馬を確保するという原則を考えると大きな問題」、「内厩制の崩壊につながりかねない」といった懸念の声が上がる。

馬券を販売していたとはいえ、今回は海外での出来事だったこともあり、JRAは「何か問題を起こせば管理責任は調教師。中央競馬の名誉を傷つけることのないように調教師には伝えている。現行の規定では注意喚起のみになる」と説明した。

ただ、国内の競馬でもレースへの調整の主導権を牧場が握るケースが増えている。今後、こうした変化への対応が求められる時期が来るだろう。トレセン半世紀を迎えたJRAの抱える大きな課題といえる。

(関根慶太郎)

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