サブスク、悩みに応え会員つなぐ 授業動画や紙おむつ
XaaSの衝撃

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2019/11/26 2:00
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NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

月定額などで継続課金するサブスクリプション(サブスク)には、リクルート系の授業動画配信やユニ・チャームの紙おむつ使い放題など大手企業も参入。だがサブスクでは集めた会員をつなぎ留めるには、絶えず顧客の潜在ニーズや悩みに応えサービスを改善することが欠かせない。収益化はその先で、投資効果や回収にかける期間も考慮し戦略を練る必要がある。

■授業動画、「全然ダメ」からサブスクで再生

スタディサプリでは授業動画を見るだけでなく、例えば中高生向けの英語ではディクテーションなどに取り組みながら「読む・聞く・書く・話す」の4技能を学べる

スタディサプリでは授業動画を見るだけでなく、例えば中高生向けの英語ではディクテーションなどに取り組みながら「読む・聞く・書く・話す」の4技能を学べる

「正直最初は全然ダメで」。こう話すのはリクルートマーケティングパートナーズ(東京・品川)のオンラインラーニング事業推進室プロダクト企画1部の笹部和幸部長だ。結婚情報誌のゼクシィなどが主力の同社は大学受験生向けサービス「受験サプリ」内の授業動画配信事業を、サブスクで「再生」させた。

2012年に配信を始めた当初は、録画した講義を1科目ごとに約5000円で提供する買い切りモデル。通常の塾や予備校に比べ安価なのが売りだった。「教育サービスのあり方を変える」と意気込んだが、会員数は目標の5分の1程度と期待外れだった。

会議で原因分析を重ねて見えてきたのが「利用者は塾や予備校と価格を比べるのではなく『ネットサービスとして安いか高いか』を見ている」(笹部氏)こと。一方、当時日本で流行の兆しがあったのが「Hulu(フールー)」などサブスク型の動画配信だった。

「まずは売れることを考えなければ」(笹部氏)と13年、思い切って授業動画を見放題に、料金もフールーなどと合わせて月額980円(税別)と安価に設定した。すると会員数は急増。

16年には「スタディサプリ」としてリブランドした。小中学生向けにもサービス範囲を広げ、英語能力テスト対策の英語講座なども設けた結果、9月末時点で約76万人の有料会員を確保した。

■継続率向上へ、勝負は「最初の3日間」

会員が集まれば、サブスクの次の課題は継続率となる。同社は継続率改善へデータを活用。専門の分析チームを設けて、例えば視聴ログからみて途中で視聴をやめてしまう利用者が多い授業動画は差し替える。理解度をはかるために出題する問題の正答率が低ければ、その問題の解説動画を新たに作成して追加する。

英語の講座では、利用開始から3日間学習したかどうかが継続率を左右することも分かった。「そこまで分析できれば、まずは最初の3日間にどう使ってもらうかに注力できる。優先的に打つべき施策が見えてくる」と笹部氏は話す。

さらに「予備校に行けるんだけど選んでもらえる」(笹部氏)ほどの、サービスの内容拡充にも取り組む。例えば英語では授業動画の配信だけでなく、聞き取った英語をスマホに打ち込んだり、追いかけて復唱したりできる機能をアプリで提供するようにした。

これまで音楽プレーヤーと参考書、ノートとペンを用意しないとできなかった学習法をスマホ1つで手軽に実現し、会員の悩みに応えた。ビジネスパーソン向けの「ビジネス英語講座」や「TOEIC講座」は月額2980円(税別)と、高単価化につなげている。

■保育園に紙おむつ、共働きの持参の手間省く

会員の課題の解決が支持され続けるカギとなることは他の事例からも明らかだ。例えばユニ・チャームが7月、保育人材サービスのベビージョブ(大阪市)と連携して本格的に始めた、保育園向けの紙おむつの使い放題サービス。月額2980円(税別)で何枚でも使えて紙おむつを買う場合と同程度の価格だという。

通常は名前を書いた紙おむつを保護者が通園時に持参するが、共働き世帯には手間がかかり大きな負担だった。サービスの人気は高まっており、現時点で100カ所以上の保育園が導入している。20年春からは、保育所向け業務システムのコドモン(東京・港)のスマホアプリで利用申し込みが可能になる予定だ。

■スーツ、購入よりは割安で保管も不要に

レナウンはスーツレンタルのサブスク「着ルダケ」を18年秋から展開する。月額4800~9800円(税別)でスーツやシャツがレンタルできる。4800円のプランの場合、春夏物と秋冬物のスーツをそれぞれ2着利用できる。1着は定価6万円前後で計4着買うなら24万円相当にもなるが、レンタルなら年間6万円弱で利用可能だ。

衣替えで返送されたスーツはクリーニングして保管し、2年ごとに新品と交換。会員は着ない時期に自宅で保管する必要がなく、新しめのスーツを常に着られる利点もある。18年春からの法人向けレンタルが好調で、一般消費者に広げた。定着に向け今夏からは会員の要望に応えて実店舗での採寸も始めるなど、サービス強化に余念がない。

■長い付き合いで顧客の支払い最大化

サブスクのビジネスモデルを構築できても、持続可能な利益が取れるまでには時間がかかる。

中古車買い取り店「ガリバー」を運営するIDOMが16年夏に始めた、自動車のサブスク「NOREL(ノレル)」。1度購入すると10年ほど保有するのが一般的なクルマを、最短90日で乗り換えられるのが売りだ。

ガリバーが買い取った在庫車両のほか、プランによってはBMWなどの新車にも乗れる。夏にはオープンカー、冬には多目的スポーツ車(SUV)などと楽しめるのが好評で登録会員は開始3年で2万9千人を超えた。

だが「事業単体としては赤字が続いている」(NOREL事業部の山畑直樹マネージャー)。単発でクルマを売るのとは比べものにならない収益管理の複雑さが理由だ。

IDOMのクルマ乗り換え放題「NOREL」では高級外車も利用できる

IDOMのクルマ乗り換え放題「NOREL」では高級外車も利用できる

中古車売買は、車両の仕入れ価格に人件費などのコストを上乗せすれば販売価格はおのずと定まる。一方サブスクでは、1人の顧客に使い続けてもらい、サービスに支払う累計金額「LTV(ライフ・タイム・バリュー)」を最大化するのが大切だ。当初は貸し出しで赤字が発生しても、長く契約を継続してもらい全体期間のなかで利益を確保する戦略になる。

ただ市況によっては、サブスクで車両を貸すより中古車として売ったほうが利益が出ることもある。発売から時間がたち走行距離が増せば市場価格は下がるほか、突発的な整備費が生じやすくなるという問題もある。

 商品である貸し出し車両のLTVの最大化が、サブスクと矛盾することもあるわけだ。山畑氏は「顧客LTVと商品LTVの間に必ずズレが生じる。この方程式を解くのは至難の業」と話す。

■別の投資対象を選び撤退する戦略判断も

長期の収益回収を待たず早々に見切りを付けたのは、紳士服大手のAOKI。18年4月にビジネスウエアの定額レンタル「suitbox(スーツボックス)」を始めたが、わずか半年余り後の同年11月に撤退した。

レンタルで商品を体験してもらって来店につなげ、購入や若者層の取り込みを狙ったが「運営費がかさんだほか、想定ほどの購入増や新規客の獲得がなかった」(同社)。別の成長分野のオーダースーツ店へ経営資源を振り向ける判断をした。

会員数が伸び事業自体は「上向き」(笹部氏)なスタディサプリも、単体の収支は非公開だ。レナウンのスーツサブスクは単体収支で赤字。おむつのサブスクも「配送コストなどで利益は出にくい」(ユニ・チャーム担当者)という。現時点では顧客との接点作りやブランドイメージの向上を期待した先行投資の色が濃く、収益化には遠い。

あらゆるモノ(X)がサービスとして提供される「XaaS(ザース)」の時代にあって、サブスクはサービスでどう稼ぐかの有力な一手法には違いない。ただ必要な収益をどのくらいの期間で得ていくのか、LTVの視点も踏まえた各企業の戦略が問われそうだ。

(企業報道部 高尾泰朗、藤村広平)

■販促超えて「つながり」を――兵庫県立大教授・川上昌直氏に聞く

兵庫県立大学の川上昌直教授

兵庫県立大学の川上昌直教授

 サブスクリプションは乱立の先にどこへ向かうのか。経営学者の川上昌直・兵庫県立大教授は、サブスクを継続収益(リカーリング)ビジネスモデルの一つと位置づけ、リース契約などとの違いや、サブスクにおける企業と利用者との「つながり」の重要性を説く。一方安易なサブスク参入には警鐘を鳴らしている。

(聞き手は企業報道部 武田敏英)

――サブスクブームが続いていますね。

「リーマン・ショックから10年たった2018年から盛り上がってきた。今年は新語・流行語大賞にノミネートされるほどで異例の動きだ」

「飲食などはテレビでもずいぶん取り上げられているが、残っているところは少ない。それでもコンサルティング業者が参入を勧め、中小企業がコンサルによる草刈り場となっている」

――サブスクに飛びつく企業は多いのはなぜでしょうか。

「サブスクが『定額制』と訳されているのが元凶だ。サブスクの原語subscriptionには継続購入、定期購入の意味しかないのに、正しく理解されていない。定額制のほかに従量課金制もあり、例えば米アマゾン・ドット・コムのクラウド『アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)』は従量制サブスクだ」

「モノの所有から利用へのシフトがあってサブスクが広がるはずだが、日本でいまサブスクと称するサービスのほとんどは課金のところだけをまねている。サービス料が先にもらえるからやりたいのかもしれないが。サブスクバブルといえる」

――日本のサブスクの実態とは。

「ほとんどが『販促サブスク』、プロモーションだ。紹介サイトへの出稿代わりにやろうといった販促目的が多い。費用対効果が合えばやってよいが、販促が常態化すると商品価値を落とすリスクがある」

「サブスクはデジタルの領域で広がったが、それはサービスにかかる限界費用が低いためだ。約10年前にはやった『フリーミアム』とも共通する。非デジタルでは限界費用が低くないと定着せず、ものになりにくい」

――サブスクが失敗したり撤退に至ったりする場合の共通要因には何がありますか。

「うまくいかないサブスクでは、金銭的メリット以外に会員特典がない場合が多い。『一見(いちげん)さん』と会員をきちんと区別できずに、同じサービスを提供している企業がほとんど。それでは会員にとってお金を払い続ける意味がない」

「一時利用のユーザーではなく会員、メンバーとして企業側に見えているかどうかが重要だ。メンバーシップなきサブスクは、必ず崩壊する。会員特典もない定額制だけでは、利用者にとことん使いまくられてすぐ飽きられてしまうだけだ。会員ならではの価値を価格以外で提供する必要がある」

――会員特典でうまくいっているケースは。

「デジタル系サービス、例えば米ネットフリックスはオリジナルの動画を配信したり会員向けに視聴を薦めるレコメンドの精度を高めたりするのが上手だ。アナログ系では、サブスクではないが航空会社のマイレージ特典などは会員制をうまく使っている事例だろう」

「利用しようかどうか迷っているサービスが定額で使えるとなると入りやすいというのが、サブスクのメリットだ。売り切りからの転換で、一番成功したのが米ソフト大手のアドビ。それでもクラウドによるサブスクでは一度収益が落ち、回復に3年かかった。生半可なことではない」

――動画配信や、アドビのようにソフトをインターネットで提供するSaaSの企業にはサブスクが普及していますが、非デジタルのモノを扱うサブスクの可能性は。

――「例えばラクサス・テクノロジーズには、使われた高級バッグを新品のように戻す技術がある。モノづくりの国・日本らしいサブスクといえるだろう。同じように職人を抱え復旧技術を持つ家具のサブスクもある。復旧やアップデートといった技術を備えたサブスクは米国でもあまりないかもしれない」。

「ただモノ系サブスクがどんどん広がるかは悲観的にみている。フリマアプリの『メルカリ』による売り買いで、所有から利用への代替ができてしまうからだ。限界費用もかかる。モノサブスクは、モノを所有する企業にとってリスクが大きい。細く長く利益を回収していくモデルにならざるをえない」

川上教授は「サービス利用の主権はユーザーに移っている」とし、収益化を優先しがちな企業に疑問を示す

川上教授は「サービス利用の主権はユーザーに移っている」とし、収益化を優先しがちな企業に疑問を示す

――サービス提供の先の企業と利用者との継続的な関係性、つながりもサブスクの成否を左右しますか。

「そのことに尽きる。企業は継続収益モデルに切り替えようと思ってもなかなか変えられない。ビジネスのマネタイズ(収益化)のところだけ変えようとして、大事な利用者への価値提案がついてこないからだ。価値提案と収益化のバランスが取れないと、案の定うまくいかない」

「サブスクは利用者の意思でいつでもやめられる。サービス利用の主権は完全にユーザーに移っており、利用者から売り上げを取るという発想ではムリだ。そろそろ本当の意味で『お客様第一』主義にとりくまなければ、サブスク時代にはどんな企業も生き残れない」

――著書の「『つながり』の創りかた」では、継続収益モデルでの課金のポイントが「タッチポイント」でもあると説明されていますね。

「タッチポイントとは利用者との接点のことだが、利用者への対応の手厚さや、対象の利用者数によって違いがある。例えば著書で取り上げている東京都町田市の『でんかのヤマグチ』は、家電を定価で買ってくれさえすればご用聞きを何でもやりますというビジネス。駅周辺に量販店が6つもある家電激戦区にもかかわらず、4億円もの粗利益を出している」

「ご用聞きをタダだからといって手を抜かずにやるから、タッチポイントを作ることができている。その代わり限られた利用者に手厚く個別対応する『ハイタッチ』になり、ヤマグチは販売は1店舗で行う。売り切りモデルでサブスクではないが、利用者とつながりを築けており、こういうところがサブスクをやるなら成功するだろう」

「そもそもリピーターがついているサービスなら、サブスクはやる必要はない。収益に上限を作るだけだからだ」

    ◇     

かわかみ・まさなお 兵庫県立大学国際商経学部教授、博士(経営学)。福島大准教授などを経て2012年兵庫県立大経営学部教授、学部再編により19年4月から現職。専門はビジネスモデル、マネタイズ。大阪府出身、45歳

[日経産業新聞2019年11月22日付、同25日付]

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