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潮目変わるか、巨人のポスティング容認の意味
編集委員 篠山正幸

2019/11/26 3:00
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1998年、日米球界間の移籍の新たな「通路」として導入されたポスティング(入札)制度はフリーエージェント(FA)権を獲得する前の「旬」の選手のメジャー挑戦を可能にする一方、日本プロ野球の空洞化をもたらす、と懸念されてきた。導入以来、一度も制度を使っていなかった巨人による山口俊(32)のポスティング移籍容認は何を意味するのだろうか。

米大リーグ挑戦についての記者会見を終え、ポーズをとる巨人の山口俊投手(中央)。左は原監督、右は今村球団社長(18日)=共同

米大リーグ挑戦についての記者会見を終え、ポーズをとる巨人の山口俊投手(中央)。左は原監督、右は今村球団社長(18日)=共同

18日、山口の移籍を認めた経緯について、巨人・今村司球団社長はこう説明した。

「より高いレベルで、自分の力を試したいというのはスポーツ選手として当然の欲求。先日のワールドカップラグビー等々をみてもわかるように、間違いなく国民的なヒーロー、スーパースターの条件というのは、世界の舞台で活躍することだと思う。野球界から、より多くの国民的ヒーローが誕生してほしいという願いを込めて、球団としてポスティングによる海外移籍容認という結論に至った」

巨人、ポスティング制度と距離

巨人はソフトバンクとともに、ポスティング制度を適用したことのない球団となっていた。ポスティングと距離を置いてきた理由は必ずしも定かではないが、少なからず、プロ野球防衛の意図があったのではないだろうか。

たとえば、坂本勇人が、たまたま故障で欠場したときの巨人戦を見るはめになったファンは丸損、とはいわないが、入場料を損した気分にならないだろうか。

看板役者が倒れて代役を立てた芝居と同じで、考えられる最高のキャストで臨まなくては、それこそ看板倒れだ。ポスティング移籍の容認は、巨人でいうなら、延々と坂本勇クラスのスターを欠いた試合を見せ続けることになりかねない。それはファンに対して、誠実とはいえない……。巨人やソフトバンクにはそのような問題意識があったのではないだろうか。

海外に移籍したければ、FA権を取得してからどうぞ、という姿勢には、球団経営のあり方として、一本筋が通っていた。

記者会見では今回のポスティング容認は特例、と示唆する説明もあった。今村社長と、会見に同席した原辰徳監督によると、2016年オフ、DeNAからFA宣言した山口との交渉時点で「時期を確定しない形」で、将来のポスティングを認める約束が交わされていたという。

巨人で3シーズンを過ごし、今年はリーグ最多の15勝で優勝に貢献した山口から、移籍の要望があり、巨人も3年前の約束に従って、容認せざるを得なかった、という経緯らしい。

今季リーグ最多の15勝で優勝に貢献した山口から移籍の要望があったという=共同

今季リーグ最多の15勝で優勝に貢献した山口から移籍の要望があったという=共同

巨人に行きたい選手だらけだったひと昔前と違い、いつでもポスティングを認める、との条件をつけざるを得なかった山口との交渉過程に、巨人のブランド力の変化をうかがうこともできる。巨人としては選択の余地がなかったことになり、今回は特殊な事例といえるかもしれない。

それでもなお、巨人がポスティングに踏み切ったことの意味は小さくないと思われたのは、会見で頻出した「夢」「挑戦」という言葉の響きの重さゆえだった。

「今シーズン終了後、あらため山口選手の思いを確認したところ、メジャーリーグに挑戦したい、そういう強い希望を伝えられた……球団としては当然慰留に努め、何度か話し合いを重ねたが、山口選手の夢を実現させよう、応援しようという結論に至った」(今村社長)

「戦力として来季も、というのはあったが、ただ夢という言葉に対しては何人も立ち入ることができないところがある、と思った。監督としての立場、あるいは、ジャイアンツの一員としての立場のなかで、話はしたけれども、そこの部分は立ち入ることのできない、非常に聖域だと思いました」(原監督)

「夢」や「挑戦」が通行手形に

「夢」や「挑戦」が通行手形となる時代になった、というわけだろうか。今村社長はポスティング容認の前提として「世間的に、それがいいだろう、と後押しがあるかどうか。ファンの声は大きいと思う」と話した。

このことは世論の傾き次第で、球団はポスティングを容認せざるを得ない空気となることを予期させ、その場合、選手は実質的にFAに近い"権利"のようなものを持つことを意味している。

ポスティングを適用するかどうかは本来、100パーセント、球団の胸一つで決まるはずのものだが、その決定権が、少しずつ「民意」に割譲されつつあるようにみえる。

現在の球団と選手の関係は、FA権取得までは球団に契約の権利があり、その対価の意味で、入団時に高額の契約金を支払う、という仕組みを前提に成り立っている。「移籍の自由」が、事実上拡大していったときに、そうした仕組みを維持できるのかどうか。

ポスティングでの移籍が成立すれば「育ての親」たる球団も補償が見込めるために、金銭的な問題は論外としていいのかもしれないが、看板選手を手放すかどうか、という判断の重みに変わりはない。

ファンの声聞いてみるのも一案

また、選手にはすでに多くの日本のファンがついている、という事実も見逃せない。メジャーに行ってベンチを温めているくらいなら、日本でバリバリ活躍している姿をみていたい、という声もあるだろう。

一案として、ポスティングでの移籍を要望する選手、あるいは当該球団の要請で、ファン投票を募ることができる、という仕組みはどうだろう。

「メジャーで活躍するのをみたい」「現チームでプレーしてほしい」……。どちらが何パーセント、といったところで、しょせん、夢にブレーキをかけられるものではないだろうが、ファンの声が判断材料の一つになるのであれば、広く問うてみたいところではある。

選手にとって、あまり知りたくなかった結果にもなりかねないが「あの選手の所属球団は容易にポスティングにかけてくれるのに、ウチは渋い」といった不公平感を減らす材料にはなるだろう。

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