元欅坂46の今泉佑唯 女優の覚悟「反骨心で快感知る」
2018年11月に欅坂46を卒業し、今年から女優としての活動をスタートした今泉佑唯。10月期は『ミリオンジョー』『左ききのエレン』と2本の連続ドラマにレギュラー出演。来年も複数の映画が控えるなど、いよいよ演技の仕事が本格化する。女優として生きる覚悟と面白さを教えてくれたのは1本の舞台だった。

欅坂46時代は小林由依との弾き語りユニット「ゆいちゃんず」で活躍するなど、今泉は歌のイメージが強いメンバーだった。当然、卒業後は音楽の道に進むと思っていたファンも多く、女優への転身は意外とも思える選択だった。
「歌はもちろん大好きだし、いつかまた歌いたいという思いは強くあります。ただ、欅坂46として活動していくなかで、歌うことやパフォーマンスをすることに満足した瞬間があったんですね。自分を表現することは十分やったなって。昨年春のデビュー2周年記念ライブではっきりとそれを感じて、次の道に進もうと思いました。それがお芝居だったんです。ライブのすぐ後にドラマ『恋のツキ』(18年)のオファーをいただいて、撮影中にはもう卒業を考えていました。
ずっと自分自身を表現してきたので、お芝居で違う人物になれるというのがまず新鮮で、楽しかったんです。もちろん、楽しいだけの世界ではないことはすぐに思い知らされました。それが舞台『熱海殺人事件』です(19年3月~4月/東京・大阪)」
壁は高いほど乗り越えたときの達成感が大きい
「稽古期間は追い詰められすぎて誰とも話せず、毎日泣いていました。まず舞台のイロハを知らないから、自分は何ができていないのかすら分からなくて、頭の中がパニックになって…。欅坂46時代はプレッシャーを感じることがなかったんですよ。自分ができなくてもメンバーがいるからという安心感があったので。
でも、舞台は私がダメなら作品が成立しない。プレッシャーに押しつぶされそうになって、休憩になるたびに稽古場から逃げて、泣いてました。演出の岡村俊一さんから『絶対大丈夫だから』と励まされても、『なんの根拠があって大丈夫なんですか』って言ってまた泣いて(笑)。でも、『舞台に立てば絶対変わるから』と言われて、その言葉を信じて、自分を奮い立たせて頑張ったら、その通りでした。
同じ物語なのに毎日お客さんの反応が違うんですよ。昨日はここですごく盛り上がったのに今日は反応が薄いなとか、そういうのがはっきり伝わってくる。そうなると今度はこっちに火がついて、芝居のテンションが上がる。同じ話、同じセリフなのに芝居は毎日違うというのが楽しくて…。稽古中は二度と舞台なんかやらないと思っていたのに、終わった時にはまた舞台をやりたいって思ってました。
壁が高ければ高いほど乗り越えた時の達成感は大きいじゃないですか。反骨心が私のモチベーションなので、できないと言いつつも絶対に諦めないし、困難を克服して、やり遂げた時の快感をまた味わいたいんですよね」
10月クールは2本の連続ドラマにレギュラー出演。『ミリオンジョー』がマンガ家で『左ききのエレン』がコピーライターとどちらもクリエイター役だが、キャラクターはかなり違う。また来年には映画『転がるビー玉』と『酔うと化け物になる父がつらい』が公開されるなど、いよいよ映像分野での女優・今泉佑唯が本格始動する。

「違う人物を演じるからには自分とはかけ離れた役をやりたくて、『サイコパスをやってみたい』とよく取材で答えていたんですけど、『ミリオンジョー』の森秋麻衣はそういう面があるクセ者キャラで、すごくうれしかったですね。好きなマンガ家さんと結婚するためにマンガ家になったというストーカー気質のある女の子。一見、普通にかわいい子が実は…というギャップが大事だと思ったので、声も普段より高めに、とにかくかわいい女子を演じようと心掛けました。
『左ききのエレン』の三橋由利奈は、明るい性格なのは自分と似ているんですけど、後輩キャラで口調が『なんとかっス』みたいな感じなんですよ(笑)。そんな話し方をする女の子に会ったことがないので、どういう声のトーンにしようかななどと模索中です」
おばあちゃんの役がやりたい
「同時期に全然違う役柄の作品が放送されるのはラッキーだと思うんです。幅の広い役を演じられる女優になるのが目標なので、この2つの役で違いを見せられれば次につながると思うし、そういう意味でも頑張りたいです」
ラジオのレギュラー番組を持ち、ファッション雑誌『ar』のモデルとしても活躍するなど、女優以外の顔もある。もともとアイドルとしてのポテンシャルが高かっただけに、マルチに活動できる才能の持ち主でもある。
「幅広くいろんなお仕事ができたらいいなとは思います。ファッションもメイクも好きなので、モデルの仕事も楽しいし、同世代の女性に影響を与えられる存在になりたいなって思うんです。ただ、ずーっとやっていたいのはお芝居かな。1年やっても全然先が見えないというか、やればやるほど奥深いと思うので。私、おばあちゃんの役がやりたいんですよ。だったら、おばあちゃんになるまで女優でなきゃダメですよね(笑)」
(ライター 蒔田陽平)
[日経エンタテインメント! 2019年11月号の記事を再構成]
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