長塚圭史 昭和の名作戯曲「常陸坊海尊」に挑む

文化往来
2019/11/27 2:00
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「常陸坊海尊」について語る長塚圭史(神奈川芸術劇場)

「常陸坊海尊」について語る長塚圭史(神奈川芸術劇場)

劇作家・演出家・俳優の長塚圭史が戦後を代表する劇作家の一人、秋元松代の名作戯曲の演出に挑む。長塚は昭和の劇作家、三好十郎の「浮標」「冒した者」の演出でも知られるが、秋元は三好主宰の戯曲研究会で執筆を始めた元門下生。日本社会を厳しく見つめ、言葉を紡いだ先達たちの戯曲に引き付けられる44歳の長塚は「(観客に)現代性を感じてもらえるようにつくりたい」と意気込む。

12月7~22日、神奈川芸術劇場(横浜市)で上演する「常陸坊海尊」は1964年に書かれ、68年度の芸術祭賞を受賞した。海尊は源義経の都落ちに従いながら義経最期の直前に逃亡し、その後不老不死となって何百年も義経の武勇を語り伝えたとされる。秋元戯曲はこの伝説を踏まえ、太平洋戦争中の疎開した少年と、海尊の妻と称するイタコの老女や孫だという少女とのかかわりを描く。

海尊が様々な姿で登場し、主君を見捨てたひきょう者の自分がこの世の罪科を残らず引き受けて皆の安穏を祈ると語る。親を失った孤独な少年に寄り添い、琵琶をかき鳴らす。戦後の混乱が収束し高度経済成長期に入っても、海尊の存在がその後の少年に影響を及ぼし続けるさまが痛切だ。

この少年は時代の過酷な変化に取り残された存在だろう。「戦争、高度成長、バブルと(日本は)いろんなことをきちんと見つめ返さないまま進んでいる国だと思う。そこで社会が捨てていっても捨てきれないものが描かれている」と長塚は本作の現代性を指摘する。老女を演じる白石加代子から、小学生の子役まで幅広い出演者全員で認識を共有していきたいという。

「いま社会全体に流れる空気が刻一刻と寄る辺なき者をつくっていないか。(劇中の)弱き者の寄る辺なさがきちんと伝わったときに、海尊の輝きとすごみ、場合によっては救いが生まれると思っている」。自身が4月から芸術参与を務める神奈川芸術劇場での腰を据えた挑戦になりそうだ。

(上原克也)

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