せかい旬景 コナコーヒーに歴史の深み(ハワイ島)

コラム(国際)
北米
2019/11/22 22:00
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100年前のコーヒー農園労働者のいでたちのジム・ミラーさん。弁当箱も当時のもの

100年前のコーヒー農園労働者のいでたちのジム・ミラーさん。弁当箱も当時のもの

希少なコーヒーとして人気が高い米ハワイ島のコナコーヒー。その歴史の裏側には、日系移民一世の並々ならぬ努力と知恵があったことはあまり知られていない。当時のコーヒー農家・内田大作さん一家の暮らしぶりがそのまま残る「コナコーヒーリビングヒストリーファーム(通称内田ファーム)」を訪れた。

生のコーヒーの実。口に含むとほんのり甘い

生のコーヒーの実。口に含むとほんのり甘い

ジム・ミラーさん(64)は内田ファームの案内人の一人だ。当時の農園労働者のようないでたちで観光客を案内している。訪れた時は、ちょうどランチのタイミングだった。弁当箱まで当時のものを使っているのに驚いた。

1925年に建てられた内田さんの家。右は飲料水用の雨水タンク

1925年に建てられた内田さんの家。右は飲料水用の雨水タンク

内田さんの故郷は熊本県で1906年に日本丸でハワイにやってきた。カウアイ島のサトウキビプランテーションで3年間働いた後、ハワイ島に移ってコーヒー農園で働いた。20年ごろにはコナ地区の人口の約半分が日本人だったという。農園内に建てた家には長男家族が94年まで住んでいたが、その後、歴史的建造物として農園ごと地元の財団に引き継がれた。きちんと手入れされ、今もほぼ当時のままでコーヒーも栽培されている。

内田さんが作った作業用の脚立は、斜面でも安定する(写真左)傾斜で2つの天板がねじれても安定するよう、天板の結合部分に丸い金具が取り付けられている(同右)

内田さんが作った作業用の脚立は、斜面でも安定する(写真左)傾斜で2つの天板がねじれても安定するよう、天板の結合部分に丸い金具が取り付けられている(同右)

作業小屋の屋上にある「干し棚」。屋根は可動式になっている

作業小屋の屋上にある「干し棚」。屋根は可動式になっている

内田さんの作業小屋は随所に工夫がある。収穫したコーヒーの実は、すぐに皮をむいて発酵させ、洗浄してから天日乾燥する必要があるが、この時、雨にぬれてしまうとカビが発生してしまう。小屋の屋上は干し棚と呼ばれ、屋根がスライドしてコーヒーを覆い、雨から守る仕組みになっている。当時は画期的なものだったそうで、今でもハワイ各地のコーヒー農園には「ホシダナ」という言葉が残っているという。

ダイニングキッチンの窓辺に置かれたお茶の道具

ダイニングキッチンの窓辺に置かれたお茶の道具

食器棚があるダイニングキッチン

食器棚があるダイニングキッチン

鶏を飼い、畑でさまざまな野菜や果物を育てた。生活で出る生ごみやコーヒーの実の皮は堆肥にして有効利用された。雨水タンクに水をため、ろ過して飲料水にした。米国本土からカリフォルニア米が手に入ったが、その袋をリサイクルして暑さを防ぐ天井の幕やカーテンを作った。何でも活用して工夫する無駄のない暮らしだったのが垣間見える。

日本から持ち込んだ羽釜があるかまど。まきにはコーヒーの木が使われた

日本から持ち込んだ羽釜があるかまど。まきにはコーヒーの木が使われた

勉強部屋の本棚の上には神棚があった

勉強部屋の本棚の上には神棚があった

寝室に敷かれた布団

寝室に敷かれた布団

25年に建てられた内田さんの家に入ってみた。日本で探しても、もうどこにもないような、当時の日本人の暮らしぶりがそのまま残されている。玄関には、その翌年に25歳の若さで即位した昭和天皇と皇后の写真。手作りの仏壇があり、ダイニングキッチンの食器棚には、味の素や日本茶の缶が入っている。冷蔵庫はなく、灯油ストーブの上に置いて使うオーブンがあった。かまどの羽釜は、日本から持ち込まれたものだ。寝室には薄い布団が敷かれ、洋服ダンスの中の服は当時のまま。子供たちの服などを縫ったミシンが今にも動き出しそうだ。

勉強部屋の机には米国のタイプライターと日本のそろばんなどが残る

勉強部屋の机には米国のタイプライターと日本のそろばんなどが残る

内田夫妻には5人の子供がいた。当時のハワイでは珍しかった勉強部屋もある。机には米国のタイプライターと日本のそろばん、すずりが置かれ、英語と日本語、両方の本が残されている。一家総出で働き、忙しい日々を過ごしながらも、学問を怠らなかった。一世の人たちが教育熱心だったことが、二世、三世へと引き継がれ、ハワイにおける日系人の存在感を大きくしたことは間違いない。

有機でコナコーヒーを栽培する「村松小農園」の村松由希夫さん

有機でコナコーヒーを栽培する「村松小農園」の村松由希夫さん

内田さんの農園から車で15分ほどの場所に「村松小農園」がある。2010年に東京から移住し、13年に農園を取得して有機栽培でコナコーヒーを生産している村松由希夫さん一家が暮らしている。村松さんは「コーヒー栽培は昔も今もあまり変わりません。朝日が昇る前から仕事をして夜は早く寝る。自然と共に暮らしがあります。内田さんたちから始まった日系人に助けられて今があります」と話す。

村松小農園の村松さん一家とスタッフら

村松小農園の村松さん一家とスタッフら

コナコーヒーの歴史を支えた日系移民の活躍とその暮らしを知った後、村松さんにいれてもらったコーヒーの味を思い出した。すっきりしたコナコーヒーの味に、少し深みが加わった。

(写真映像部 小園雅之)

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