東南ア深まる越境投資 2財閥が異例の資本提携 - 日本経済新聞
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東南ア深まる越境投資 2財閥が異例の資本提携

比アヤラとミャンマー・ヨマ、不動産など協力

【ヤンゴン=新田裕一、マニラ=遠藤淳】フィリピン財閥アヤラとミャンマー財閥ヨマ・グループが資本提携する。アヤラがヨマの中核会社に出資し、不動産やインフラ、金融などの分野で協力しミャンマー市場を開拓する。東南アジアでそれぞれ国を代表する財閥同士が資本関係を持つのは珍しい。東南アジア諸国連合(ASEAN)域内では加盟国間の投資が増え、経済統合が深まりをみせている。

ヨマの中核会社ファースト・ミャンマー・インベストメント(FMI)の幹部は19日、ミャンマー最大の都市ヤンゴンで記者会見し、アヤラ傘下のマニラ・ウオーターとヤンゴンの水道事業の入札に参加する計画を明らかにした。アヤラとヨマは既に農村での太陽光発電で提携を決めており、協力の第2弾となる。

アヤラはFMIなどヨマ傘下の2社に合計2億3750万ドル(約260億円)出資する。アヤラは2社の株式20%をそれぞれ握り、創業家に次ぐ第2位株主となる。

両社が主力にする不動産開発でも連携する見込みだ。ヨマはヤンゴンの富裕層向け住宅が不振で、中間層向けや地方への進出を目指しており、経験豊かな外資との提携を探っていた。アヤラは自国で培った多様な物件開発のノウハウをいかす。

ミャンマーの1人当たり国内総生産(GDP)は約1300ドルで、10年ほど前のフィリピンと同水準だ。ヨマ創業者のサージ・パン会長は16日「アヤラは185年の歴史があり、運命的な提携だ」とアヤラの経験が役に立つと強調する。

そのアヤラは足元の業績は好調だが、フィリピン経済にかつての勢いはなくなりつつある。自国より高い成長率が期待できるミャンマーに足場を築き、次の飛躍を狙う。

アヤラは1974年に三菱商事の出資を受け、工業団地開発などを進めた。ハイメ・アウグスト・ゾベル・デ・アヤラ会長兼最高経営責任者(CEO)は「(ヨマに対し)同じような役割を果たす」と意気込む。

ミャンマーでは外国企業の投資は復調傾向にあるが、民政移管直後の勢いはない。イスラム系少数民族ロヒンギャを巡る問題で欧米企業が投資を控えていることが響くが、アヤラ氏は「どの国でも問題はある」と先進国企業と一線を画す。

ASEAN域内では国境を越えた投資が広がってきた。加盟国間の外国直接投資は2010年の160億ドルから18年に1.5倍の245億ドルに増えた。ASEANは15年末、市場統合を掲げるASEAN経済共同体(AEC)を発足させ、関税の削減や通関手続きの簡素化を通じ域内の貿易や投資を促している。

域内企業は消費者市場やインフラ需要を取り込むため国境を越え始めている。タイ飲料大手タイ・ビバレッジは17年末、ベトナムのサイゴンビール・アルコール飲料総公社(サベコ)を買収した。18年にはフィリピンのインフラ大手メトロ・パシフィック・インベストメンツはインドネシアの同業を傘下に収めた。

アヤラとヨマはそれよりも深い関係を築く。両社と提携する三菱商事の松永啓一マニラ支店長は「アヤラは国外で単発事業に投資し『点』で展開してきたが、ヨマとの提携でミャンマーの成長を『面』で取り込めるようになる」と話す。

アヤラ氏は「東南アジアの他の財閥と手を組むこともあり得る」とも述べた。域内で経済統合が進むなか、事業のノウハウの共有を目的とした財閥間の連携が広がる可能性もある。

●アヤラ会長「先進国より域内に進出」
 ヨマ会長「アヤラの知見学びたい」
 アヤラとヨマ・グループが16日シンガポールで開いた記者会見に、アヤラのハイメ・アウグスト・ゾベル・デ・アヤラ会長、ヨマのサージ・パン会長が出席した。主なやりとりは以下の通り。
 ――なぜ資本提携を決めたのでしょうか。
 アヤラ氏「ミャンマーは民政移管で世界に門戸を開き、5000万人の市場が動きだした。中国とインド洋を結ぶインフラ整備が進めば、物やサービスの流れが活性化する。新興国では所得が一定水準を超えると人々の消費が次の段階に進む。市場の拡大は確実だ」
 「我が社は1970年代に三菱商事から出資を受け、多くの分野に投資を広げた。同じような関係をヨマとも築きたい」
 パン氏「アヤラは185年間事業を続けフィリピン経済を先導してきた。ミャンマー不動産市場は冷え込むが、アヤラのノウハウを学びたい」
 ――ミャンマーの成長性をどう見ていますか。
 パン氏「人材や天然資源が豊富で成長は止まらない。インフラの整備と適切な政策が必要だ。政府は国を閉じる誤った政策をとったが、同じことは繰り返さないだろう」
 アヤラ氏「フィリピンで大企業が相手にしてこなかった人を取り込んできた。この経験を生かすのであれば、先進国に進出するよりも域内国に展開したほうが簡単だ」

 アヤラ フィリピンの旧宗主国スペイン出身のアヤラ一族が1834年に蒸留所を設立したのが始まり。経済の中心地のマニラ首都圏マカティ市を一手に開発するなど不動産事業で成長した。銀行、通信、発電、水道などの企業を傘下に持つ。2018年12月期の売上高は3024億ペソ(約6500億円)。

ヨマ・グループ ミャンマーの華人実業家サージ・パン会長が1991年に創業。不動産開発を中心に銀行、病院、ホテルなどを傘下に持つ。近年は中間層向け飲食チェーンの展開に力を入れる。ヤンゴンとシンガポールに傘下の計3社を上場している。2019年3月期売上高は約2億9500万ドル(約320億円)。

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