融資即断「最後のとりで」 広島市信用組合
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2019/11/20 4:30
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シシンヨーは頻繁な訪問活動で顧客の資金繰りの相談に応じている(広島市の景山産業)

シシンヨーは頻繁な訪問活動で顧客の資金繰りの相談に応じている(広島市の景山産業)

融資や本業支援によって中小・零細企業の経営を支える「リレーションシップバンキング(地域密着型金融)」。徹底したリレバンを手掛ける地域金融機関や組織に対して、金融庁関係者も一目を置く。低金利や人口減少で金融機関を取り巻く環境は厳しさを増すが、同じくらい中小・零細の経営も厳しい。草の根の金融仲介で地場企業を支える現場を追った。

「財務状況なんかは資料を見りゃ分かる。その経営者は一体どんな人間なんだ」。10月中旬の午前7時前、広島市信用組合の本店で今年74歳を迎える山本明弘理事長が持ち前の大きな声で、ある支店長にこう質問した。各支店が上げてきた案件に対して融資の可否を判断する会議がこの日も開かれていた。

「シシンヨー」の愛称で親しまれる同信組は広島県内の中小・零細企業から「最後のとりで」とも呼ばれる。そのゆえんは融資判断のスピードと柔軟性にある。新規融資は3日以内に可否を決める方針を掲げており「赤字、債務超過でも大いに結構。とにかく経営者の本気度が大事」と山本理事長は話す。

モットーにするのは「足で稼ぐ現場主義」だ。広島県内に35ある営業店の担当者に加え、山本理事長も自ら顧客を訪れる。日々の訪問で経営状況のヒアリングや資金繰りなどの相談に応じている。工場の稼働状況や在庫から仕事はあるか、従業員は生き生きしているといった決算書に表れない点にも目を光らせる。

「シシンヨーには本当に救われた」。鉄道部品の製造を手掛ける景山産業(広島市)の景山拓専務は、最も財務状況が厳しかった約10年前を振り返る。

同社は年商6億円程度の町工場。鉄道部品という性質上、売れる前に在庫を積み上げなくてはならないものも多いという。当時、借入金の返済で運転資金の調達にも苦労していた。他の金融機関にも相談したが、十分に対応してもらえなかった。

シシンヨーは足元の財務状況が厳しくとも、「海外での高速鉄道の需要を考えれば将来性はある」(山本理事長)と判断。運転資金2000万円の融資を即断した。それ以来、取引は継続しており、直近では新工場取得のため6億円弱の資金需要に応じた。景山専務は「今度は地域のためにも我々が貢献する」と力強く話す。

同様に資金繰りが厳しい局面で融資を受け、その後の成長につなげた企業も多い。広島大学発で創薬スタートアップのツーセル(広島市)や、歩行補助装置を手掛けるスペース・バイオ・ラボラトリーズ(同)などだ。苦しい時に融資を受けられた経験が、その後の財務改善への意識を高めている。

シシンヨーのきめ細やかな訪問活動は顧客が置かれている状況をよく知ることだけでなく、融資件数や1件あたりの収益性の底上げにも結びついている。

2019年3月期の貸出金利回りは2.6%。中国5県の信金・信組の平均(1.9%)、地銀9行の平均(1.1%)と比べても高い。集めた預金のうち融資に回した比率を示す預貸率は足元で88%と、高水準を維持する。

20年3月期決算では、本業のもうけを示すコア業務純益95億円と、18期連続で増益となる見込みだ。山本理事長は「地元で集めたお金を地元で回すのが地域金融の役割。リレバンがもうからんとは言わせん」(山本理事長)と話す。リスクを取る融資に特化したモデルが、苦境で揺らぐ地域金融に大きなヒントを与えている。

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中国地方発でリレーションシップバンキングを手掛ける金融機関や組織を3回連載で取り上げる。

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