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「マックと恋に落ちた」直談判で入社、世界駆け巡る

日本マクドナルドHD社長兼CEO サラ・エル・カサノバさん(下)

NIKKEI STYLE

子供のころからマクドナルドが好きで「ビッグマック、マックフライポテトと恋に落ちた」というカサノバさん。学生時代の論文のテーマはマクドナルドのロシア進出について。地元カナダのマクドナルドのトップへのインタビューも試みた。そして「マクドナルドでしか働きたくない」と採用願を送った。




モスクワ皮切りに世界各地に赴任

だが、不採用。納得できずに論文でインタビューしたカナダの社長に「どうしても仕事がしたい」と手紙で直訴し熱意で採用を勝ち取った。トロントの野球場の店舗で働きはじめて間もなく、ロシアでマーケティングをやらないかと打診を受けた。

最初のチャレンジがこのモスクワ赴任だった。「どういう場所か情報もなくて、寒いし、暗い。だれも英語をしゃべらない。家族も友達もカナダに残して初めての海外で、とにかく大変でした」。それが旅の始まりだった。28年間のマクドナルドでのキャリアではカナダ、ロシア、トルコ、ウクライナ、マレーシア、シンガポールで仕事を経験した。日本は2度目。2004年にチーフマーケティングオフィサーとして5年赴任し、13年に日本マクドナルドの社長兼最高経営責任者(CEO)に就任した。

原材料の使用期限切れや異物混入問題で揺れた14年と15年は大きな試練だった。「お客さまの期待に応えるために私たちは変わらなければいけなかった」。47都道府県の店舗を回ってお客が何を求めているかに耳を傾けた。「母親たちからは同じことを言われました。『楽しく、おいしく、お得で、きれいな店で、スマイルがすてきなマクドナルドに戻ってほしい』と」

客の感情を「LIKE」から「LOVE」に変えるのが夢

苦境の中で女性リーダーであることはプラスに働いた。店のお客の50%は女性。家族での外食でも店を決定するのは母親であることが多い。「何が求められているかを考えるうえでも女性の視点が役立ちました」

品質・サービス・信頼を回復する方針を打ち出し年2回、全国の店長やオーナー、本社の職員ら4000人が一堂に集まる会議をスタートさせた。そこでプランを共有し、基本に立ち返ることを約束する。最初の会議で発表した新しいテーマが「パワー・オブ・ワン」。ワンとは、お客の満足のために頑張る社員一人ひとり、の意味であり、全体が一つになってワンチームで戦う、という意味も込めた。その後のV字回復を淡々と振り返る。「お客さまにフォーカスした正しいプラン、そして同じ方向を向いたチームが頑張ったという2つの要素が、ターンアラウンド(事業再生)を起こしたから」

「今の状況はハッピーですが、満足はしていません」と次のチャレンジに目を向ける。女性の社会進出や単身世帯の増加は追い風。利便性や価値を求める消費者はますます増えるだろう。インバウンド需要の大きな高まりも期待でき、日本における潜在需要は非常に高いとみる。「カナダに暮らす私の父はマクドナルドに週4回行く。朝、コーヒーを飲みに仲間が集まっておしゃべりする。マクドナルドはシニアの気軽なコミュニティーの場にもなる」。より快適な店にしたいと9割以上の店を改装し、席まで食事を持っていったり、スマホでの事前注文を受け付けたりする新型店の展開も始めた。

「私の夢は、マクドナルドが好きというお客様の『LIKE』の感情を『LOVE』に変えること」。そのために大事なのはお客にとってだけでなく、従業員にとっても、社会にとってもベターマクドナルドになること。環境への配慮といった社会的責任や従業員の働き方改革。チャレンジはまだ続く。

(Men's Fashion編集長 松本和佳)

サラ・エル・カサノバ
カナダ生まれ。マックマスター大学大学院経営修士課程修了後、1991年にマクドナルド・カナダ入社。2013年に日本マクドナルド代表取締役社長兼CEO就任、14年から現職

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